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エリィの脱出

 「ねむい」

眠い目をこすってエリィは目を開けた。そして執事のトンプソンに声をかけた。

「ねぇ、トンプソン、お茶を頂戴」

「かしこまりました。プリンセス・エリィ。明け方また人間界の方を見ていたようですね」

トンプソンは少したしなめるようにエリィに言いながら、熱い紅茶をすみれ柄のティーカップに入れてテーブルの上に置いた。

ベッドから出たエリィはドレスを着ながら、あくびをした。

「ばれてた?そう、あちらの世界ってどうなっているのか気になるわ」

エリィはこの富士山の麓にある青木ヶ原樹海の奥深くに入口がある霊界のプリンセスだ。美しい茶色の髪に白い肌、幽霊たちのあこがれの的だ。


だけど、エリィは人間界に興味があった。何せ、閻魔大王と世間で呼ばれる霊界の番人の父が人間に恋して産まれたのがこのエリィだからだ。


しかし、産まれたときからエリィは霊界から出たことはない。当たり前のようにプリンセスとして大切にされ、当たり前のように妖怪をあやつる魔術を身に着けていた。


霊界では多くの幽霊たちから求愛されていたが、いずれもピンとは来なかった。そんなとき、青木ヶ原樹海に迷い込んだ会社員の男性が気になったのだ。


つい、エリィは掟を破って霊界を出て、樹海の中で歩いていた男性に声をかけた。

その男性は儚げで、美しく、エリィは心奪われた。

そして、男性はエリィと雑談をしたら


「なんだか楽しくなってきたから、もどるね」

といって来た道をかえっていったのだった。


「ああ、なんて悩むなんて楽しそう。人間界に行ってみたい!」


その日からエリィの心は人間界でいっぱいになっていた。


そして、ある日の明け方、エリィは、魔女に相談した。

「人間界のプリンセスにして!あちらの世界を見てみたいの!」


魔女は「いいだろう。夜中の2時、誰にも見られないよう新月の夜、この世界を出るのだ。そして富士山の水を朝日の中で飲めば、人間界のプリンセスになれる」といった。


新月の夜、そっとベッドを出たエリィは、青木ヶ原樹海の霊界の入口の木の根っこから出ていった。しかし、その姿をじっと見ていた霊界の妖怪がいたのだ。


魔法は少し崩れた。


翌朝、エリィが人間界につき、魔女に言われた「東京の浅草」という場所のバーに行くと


「じゃ、これ着て」


とスーツをぶっきらぼうにある女性に渡された。

「ここがきょうからあんたと私の家だから。あの悪魔女にあんたのことは頼まれてるから」


とその女はいった。


「あの、私、プリンセスなんですけど」

「あー、ちょっと魔法間違っちゃったみたいね。ここではただの会社員になってるわ。今日から出社だから頑張って稼いできて!」


そう言われると慌ただしくエリィは外に出された。

朝日が眩しく、それだけでもエリィは嬉しかったが、「会社員って何?」とも思ったのだった。




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