表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

01 ごほうび

説明書きにも記載したとおり、「辺境伯家令嬢は最強冒険者をめざす!」の補完的な連載です。

未読の方には、わかりにくい部分もあると思われます。

シリーズのリンクから、先にそちらをお読み頂ければ嬉しいです。


あちらの35話(エピソード36)のあとのお話です。

新たに別枠で書くにあたり、今回はほぼ説明と前作の補完部分です。


この国、イルシュバード王国は、元は三つの国でした。

ひとつは南部、魔獣の森が広がる戦闘民族国家、マスクル。

ひとつは東部、豊穣な土地の農耕民族国家、エルランデ。

そして西部は大陸外から来た人が騎馬民族を従えて建国した、バストール。




マスクルはその昔、戦闘民族たちがそれぞれ勝手に魔獣を狩る土地でした。

人間同士はそれほど争わなかったものの、獲物を巡っての争いは、たまに起きていました。


当時、魔力に優れた一族が、脳筋たちのそんな争いに苛立ち、高魔力で殲滅戦を仕掛けました。

恐るべきことに、大規模魔術を放たれながらも、脳筋たちは生き残り。

強い者になら従ってもいいという考えの戦闘民族たちは、その一族を王とした国になりました。


王の一族は頑張って、脳筋どもにルールを守らせて国として成り立たせようといたしました。

国の形が整うまで、かなりの紆余曲折があったようです。

マスクルの建国物語は、そんな脳筋たちと少し頭の良い好戦的な一族たちとの物語です。




エルランデは農業の発展に良いように、話し合いで代表を決めるうちに、国としての素地が作られていきました。

大きな争いもなく、気がついたら国にできる形になり、なら国として整えるかという状況だったようです。


豊穣な土地として狙われることは多かったのですが、彼らはマスクルと良好な関係でした。

東の湖沼地帯から攻め込まれたことは、何度かありましたが、戦争になるとエルランデからマスクルへの農作物の供給が停止します。

するとエルランデの農作物を好むマスクルが遠征して、それらを排除。

結果、エルランデは豊穣の地のままでした。


マスクルは農業をする気も管理する気もなかったので、エルランデは安泰でした。




バストールは、海洋国家セザールで政権争いに敗れた王族が、騎馬民族の領域にたどり着き、彼らを従え国家を作りました。

国家を作るにあたり、セザールから精霊神殿を呼び寄せたため、精霊神殿とバストール王族との権力争いがやがて発生。

そこからバストールの王は、彼らの国家での優位性を持つために、エルランデを狙いました。


マスクルは、そんな自国の横で起きた戦乱の気配に、両者を攻撃するかのように構えをとり。

そこにすいすいと三者間を調整したのが、今のイルシュバード王家だという。

三国あわせて発展しようという、イルシュバードの一族に同意して、三国はひとつの国になりました。

元王族はそれぞれの領域で、マスクル公爵家、エルランデ公爵家、バストール公爵家と、三大公爵家となったのです。




この中で、いちばん迷惑なのはどこかと言えば、マスクルっぽいと思うでしょう。

マスクルの重臣、ラングレード辺境伯家のひとり娘な私も、歴史を思い返すたびに思います。

なんか、うちの戦闘民族たちが、すみませんと。


しかしいちばん迷惑だったのは、バストールでした。

奴らは元から権力争いが当たり前だったセザールの出身で、この地に騒乱をもたらしたのです。

今も、建国当時にあった、精霊神殿とバストールの権力争いが続いた結果。

バストールはこの国の王家を乗っ取ろうと、色々な迷惑行為を働きました。


そしてマスクルは、マスクルでした。

マスクルには、本家から派生した、権謀術数に優れたサーディスという一族がおりました。

頭脳派とはいえ、彼らもマスクルの一族。

苛つくと「やっちまうか?」「やっちまおうぜ」という傾向にあります。


そしてこのたび、バストールをやっちまいました。

いや、バストールのみならず、元となった海洋国家セザールまでやっちまったそうです。

なので今はもうバストール公爵家はありません。

元騎馬民族の、いちばん大きな家だったザレスが、ザレス公爵家として興り、バストールはその配下の伯爵家となりました。







申し遅れました。私、アリスティナ・ラングレードと申します。

このイルシュバード王国の三大公爵家のひとつ、戦闘民族マスクルの重臣である、ラングレード辺境伯家のひとり娘です。

しかしその実体は、日本生まれの三十代女性な異世界の記憶を持つ、贈り人だ。


この世界には「来訪者と贈り人」という昔話がある。

高い魔力を持つ人が、死の淵で絶望に向き合ったときに、別の人格が発現することがある。

復讐や破壊に走る過激な別人格は「来訪者」、周囲に馴染み、良い関係を築ける別人格は「贈り人」と呼ばれる。


私は義母の虐待により、贈り人が発現した。

そして当時、敵地となった王都別邸を出て、冒険者として暮らしていた。

冒険者ギルド職員だった現Sランク冒険者のゴルダさんに保護されて。


ゴルダさんとは二年足らずの期間、一緒に暮らした。

お父様が迎えてきてくれて、今はご令嬢生活に戻っているけれど、冒険者はやめる気がない。

冒険者な私のお父さん、ゴルダさんとは、時々王都の森で一緒に討伐や採取をしている。

その冒険者仲間とも、ゴルダさんのお家で食卓を囲んだり、親しくしている。


ちなみに義母は、虐待だけではなく辺境伯家の後嗣成り代わり事件を起こしたので、義姉ともども国に捕まった。

その後のことは国の判断になるので、私は関知していない。

この世界は、身分制度がしっかりとあり、日本より人の命は軽い。

謁見の場で高位貴族も立ち会った中、堂々と国王陛下を謀った彼女たちの結末は、まあ、そういうことだ。

二度と会うことはないだろう。




私には幼い頃からのアリスティナの記憶があり、本来のアリスティナが消えたわけではない。今は貴族令嬢として、周囲に馴染んでいる。


しかし先日、貴族令嬢な私の友人フリーディアちゃんに、冤罪がかけられた。

エルランデ公爵家の令嬢である彼女は、この国の第二王子と強引に婚約させられ、迷惑をかけられまくっていた。

そして王立学園入学後、バストール関係の陰謀により、彼女に冤罪がかけられた。


そこで私は、一石二鳥計画を立て、第二王子にフリーディアちゃん断罪事件を起こさせ、婚約解消に成功した。

きちんと冤罪である証拠も明らかにしたため、逆に第二王子を断罪できた。

ついでに第二王子の母の実家であるバストール公爵家は、この一連の騒動の中、前述のとおりサーディスにやられてしまったわけだが、色々迷惑な家だった。


陛下はバストール家の取り潰しと降爵を迷われたようだが、反対勢力をひとつにまとめておこうとして、伯爵家として残っている。

元騎馬民族の侯爵家から下克上したザレス公爵家が、今後は彼らを抑えてくれることを祈る。




冤罪を起こしたミンティア嬢は、平民になって旅立った。

もとより脅迫されて冤罪事件を起こすことになった事情から、陛下もエルランデ公爵家も、彼女や家族への責は問わないこととしていた。

それでも冤罪事件の主犯という汚名は、貴族令嬢にとって致命的だ。


彼女はとても根性のある女性で、もとから平民になって旅立つつもりだったと言っていた。

そして本当に、世界を旅する夢を持つ、幼なじみとともに旅立っていった。

彼女ならどこへ行ってもやっていけるだろうと、私は思っている。


冤罪事件の原因は、精霊神殿とバストール公爵家の権力争いの陰謀だった。

なのでそれらへの断罪で、冤罪事件については手打ちとなった。




第二王子は王位継承権剥奪後、幽閉され、再教育がなされているという。

彼は明後日の方向に爆走する性質で、思い込みと思い上がりがひどく、悪事を悪事と思っていないところがあった。

フリーディアちゃんの冤罪も、主犯でこそないが、ミンティア嬢が仕掛けたそれを、盲目的に信じ込んでしまっていた。

王子という立場で、盲信や思い込みで行動をしていた。


とはいえ彼はまだ成人前の子供だ。

今はまだ十三歳か、もう十四歳になったのか。

とにかく成長過程な年齢だ。


王妃の采配により、バストール勢で周囲を固められて育った彼は、正常な教育がなされていなかった可能性もある。

再教育するという結論に落ち着いた。

どちらかといえば幽閉措置は、変な勢力に第二王子が担がれる心配からの、保護の意味を持つ。


ただまあ私個人としては、フリーディアちゃんへの扱いの悪さとか、本当は洒落にならない悪事なはずの媚薬事件とか、色々と第二王子に腹を立てている。

今後彼が世間に出てくることがあっても、親しくする気は皆無だ。




王妃はさすがに王太子の毒殺未遂犯で、余罪もあり過ぎた。

そう、私の婚約者で王太子だった、ライル殿下への毒殺未遂だ。

王都の森で、毒により倒れていた殿下を、冒険者の私が救助した。

それがライル殿下との出会いだった。


ライル殿下については王太子だった、という過去形になる。

辺境伯家のひとり娘で、傍流もいない我が家は、私が嫁入りすることは出来ない。


今回の騒動の中、毒殺未遂事件の余波として、ライル殿下の体に影響が残り、廃太子されると発表がなされた。

陛下の下手くそな演技による、大嘘の発表だったが、そういうことになった。

なのでライル殿下は正式な私の婚約者になり、辺境伯領へ婿入りされる予定だ。

自分はあの毒で死んだものと思って欲しい。王太子を降りる話をする中で、ライル殿下はそう陛下に伝えたそうだ。


廃太子の影響が気になったが、殿下の立ち位置は出世を約束された立場の若手が、いきなり上司になっていたようなものだ。

成人の十六歳になり、王太子の仕事は始まっていたが、側近たち含めて王太子室の仕事は、すべてベテラン官僚のチェックが最後に入っていた。

研修中の立ち位置だった殿下が、王弟子息のルードルフ様に引き継ぎとなったところで、国に大きな影響はない。

むしろ王太子を替えるなら早い方がいいと、第二王子の王位継承権剥奪の場で、その発表がなされたのだと、あとから聞いた。


王妃は毒杯を賜るとかなんとか聞いたが、ちょっと怖い系の話だったので、ひとまずもうお会いすることも影響を及ぼされることもないと、理解しておいた。




この国は、元の三国だった勢力がそのまま残っているため、調整役の王家は常に難しい役目を担っている。

国としてまとまるために、王家の下知に従うという取り決めはあるものの、それが本当に不当と判断すれば、元の国単位で独立することも認められている。

実際に過去、マスクルは何度か独立を検討していた。

そのほとんどは、脳筋どものアホっぽい理由だったが。


今回の騒動後は、騎馬民族も独立を検討していた。

最終的に話し合いの末、ザレス公爵領として国に残ることになった。


王弟子息のルードルフ様は、今後その難しい立場である、この国の舵取り役になる。

学園後期が始まり、授業の合間にその話をしたが、彼は前向きだった。

同性の恋人を側近に迎え、王太子室の人たちにもカミングアウトして、堂々と一緒にいられるようになったと喜んでいらした。


ちょっと、王太子室のみんなの反応が気になった。

現在引き継ぎ作業中のライル殿下から、後日王太子室に顔を出して欲しいと言われているので、そのときに状況を見てみようとは思っている。




私は来年、学園を卒業して辺境伯領に帰れば、父やその側近たちから領主の仕事を教わる、研修の日々が待っている。

辺境の統治については、ひとつ私の中で課題があった。


いっとき私は、最強の冒険者を目指そうと思っていた。

しかし気がついたのだ。故郷の辺境伯領の、父の側近たちが、規格外な強さを誇ることを。


井の中の蛙大海を知らずという言葉があるけれど。

その井の中が、規格外ばかりであった場合は、大海に出るどころではない。


私は女辺境伯になることが、決定している。

となると、あの規格外な方々を従える立場になる。


今は子供として可愛がられるばかりだが、大人になるとそうはいかない。

彼らを、武力でも従えなければならないのだ。


ここはまず、辺境最強を目指すところから、始めるべきだ。

むしろ辺境最強を目指すことで、最強冒険者に自然と近づくだろう。

そんなわけで、方向転換をして、まずは辺境最強を目指すことになりました。









「アリスはあまり我が儘を言わないけど、今回お友達のために頑張ったんだから、ご褒美は必要だと思うんだ。欲しいものはないかな」

ある日お父様から、そんな話をされた。


フリーディアちゃんの冤罪事件で、焦る気持ちで辺境伯家のみんなには迷惑をかけたと思っていた。

でもお父様としては、うまく解決できたご褒美案件とされた。

私は与えられるもので満足して、ドレスや装飾品なども欲しがらないので、何か欲しいものを訊きたかったらしい。


「欲しいものは、おねだりしておりますわ。エルランデから大量のお米を購入して頂いております」

「それはむしろ料理長が喜んだものだ。みんなで食べているものだし、私もあれは好きだ」


「私の希望で、魔道具のベルヘム先生をつけて頂きましたわ」

「家庭教師は勉強の一環だろう。ごほうびではないよ」


「欲しい魔道具を開発して頂いた、ベルヘム先生とマーベルン先生への特別報酬は、お父様から出して頂いたでしょう」

「遠見魔道具なら、今後に役立つものであって、わがままではないよ。それに領内の魔道具士たちの生産体制も整った今は、領地の収入になるものだ」


「マーベルン先生に転移魔法を使って頂いた特別報酬も、お父様が出してくださいましたわ」

「バストールの陰謀を阻止するためだろう。お手柄だったよ」


「邸にあったものとはいえ、高価な魔道具をお譲り頂きました」

「お友達のために、別の人に提供したものだろう。あれだって必要の範囲で、ご褒美ではないよ」


「ええと、昼食会やお茶会など、私の都合で開いたものが」

「貴族としての付き合いの一環だ。それもわがままではない」


欲しいものや、して欲しいことは、ことごとく与えられている。

だが、それらの希望とは、違うのだとお父様は言う。


「では、私の初めて刺した刺繍ハンカチを、返してくださいませ」

「あれはダメ」

私の下手くそ謎刺繍ハンカチを、今こそお父様から取り上げようとすれば、にっこり圧力な笑顔で拒否された。

くっ、今いちばん欲しいものなのに。消滅させたいものなのに。


他に欲しいものといっても、すぐには思いつかない。

なにせご令嬢として、不自由なことは今のところないのだ。

なんなら、合間の冒険者活動で稼いだお金で、好きなものは買っている。


考えた末に、お父様の一日独占権を頂き、森へ一緒に出かけることにした。

辺境伯として多忙なお父様を、丸一日独占。

非常に贅沢なお話だと思う。


この連載はまだ構想中なので、まったり更新で書き進める予定です。

前回の連載で、断罪後の人たちについてなど疑問があったようなので、これで少しは補足になったでしょうか。

少しシンプルにするために削った部分で、設定説明の一部が削れていたところもあったようで、わかりにくいところは申し訳ございませんでした。

初投稿だったので、そんなものということでご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ