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私が悪役令嬢にならないと人間が滅亡するらしいので  作者: 西玉


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72 魔王軍の出撃

 リーゼは、魔王が従える暗黒のドラゴンに乗り、空を飛んだ。

 ドラゴンの背は広く、飛行中は揺れないことは、レジィ将軍が従えるギェールで学んでいた。

 ドラゴンの背に置かれた鞍には、大きなソファーに見える長椅子が固定されていた。


 魔王がリーゼを伴って暗黒ドラゴンの背中を踏む。

 頑強な皮膚と鋼鉄すら切り裂く鱗に覆われて、足の裏から硬い感触を伝えてくる。

 魔王は長椅子にリーゼを座らせ、自らは鞍の前に立った。

 暗黒ドラゴンの背中から、魔王城の前庭を見下ろす。


 魔王の背中を見つけたリーゼは、その先にある光景を知っていた。

 たった1人で、数百人の人間の兵士に匹敵すると言われる魔族が、ひしめいている。

 総数は多くない。


 だが、人間を滅ぼすのは簡単だ。

 リーゼが去ってから、ゴルシカ王国は一月以上が経過している。

 まだ、王は王として君臨しているのだろうか。


「人間の国に、勇者が降りた。人間は、我が妻だけで十分だ。残りは、皆殺しにせよ」

「おおおおおおっ!」


 魔王の怒号に応じ、魔族たちが雄叫びに答える。

 かつて、魔族の将軍は12人だとレジィが語った。

 魔族たちの雄叫びと同時に、地上から飛び上がった影は、12だった。

 その全てがドラゴンであり、背に鞍と魔族を乗せている。


「人間に、滅びを!」

「人間に、死を!」

「人間に、殲滅を!」

「人間に、絶望を!」


 魔族が連呼する。

 魔王が振り返った。

 リーゼは、太陽の光を背に受けて影になった魔王を見た。

 これほど、恐ろしい存在に愛されている。

 リーゼは立ち上がった。


「お出かけのお誘いとは、このことですの?」


 自分の声が震えていることはわかった。

 魔王はそれが恐ろしいからだとは考えなかった。


「うむ。勇者が出たことは言ったであろう。十分な力をつける前に潰す。この世界を司る女神に、もはや勇者を呼び寄せる力はないはずだ。余が、徹底的に力の源泉を潰したのでな。勇者を呼び寄せたのは、人間の魔術師どもだろう。ならば、勇者の質もしれたものだ。余に逆らう愚行、人間たちに思い知らさねばならん」


「陛下、もし勇者を殺せたなら、その時に残った人間たちは、私に下さいな」

「ほう。余は、リーゼが人間と交わることを好まないと知っておろう」

「交わるためではございません。それではまるで、陛下と将軍たちではありませんか」


 リーゼは、魔王が魔族軍将軍レジィと交わっている現場を目撃していた。

 レジィだけではないはずだ。

 魔族軍の将軍は、女性の方が多い。

 魔王は咳払いした。


「では、何のためだ?」

「もちろん、私自身の手で殺すためでございます。私には、その程度の娯楽も与えられないのですか?」

「いや。よかろう。勇者が死んだ時点で、残った人間の屠殺はリーゼに任せよう。者ども! 勇者を見つけるまでに、人間たちを好きなだけ殺すがいい!」


 魔王の言葉に、魔族たちが妃であるリーゼに礼を述べた。

 リーゼは、魔王の正式な妻であるリーゼが人間であるために、人間を殺すことを躊躇する魔族が一定数いたのだと気が付いた。


 リーゼが妻なのに、人間を殺していいのかどうか、迷っていた者もいたのだ。

 リーゼは、人間を殺す口実を与えてしまった。

 だが、後悔しても遅い。


 魔王が足を踏み鳴らし、それに答えるかのように、足元の暗黒ドラゴンが雄叫びを上げた。

 暗黒ドラゴンが、魔族将軍たちのドラゴンに追いついた。

 ドラゴンに乗るのは将軍たちだけではない。

 将軍に仕える側近たちもドラゴンを操るが、やはり位が高い魔族に限られるようだ。


 逆に、ドラゴンを操ることで、魔族としての位が上がるのかもしれない。

 暗黒ドラゴンの能力は圧倒的で、簡単に将軍たちのドラゴンに追いつき、魔王の命令一家で左右に展開した。


 リーゼは、全く揺れない暗黒ドラゴンの背中に乗せられた長椅子に腰掛けたまま、体の固定具すら使用せず、眼下を見下ろした。

 魔王領の険しい地形から、なだらかな平原に移行する。


 拓けた草原の先に、ゴミゴミした歪な光景が浮き上がった。

 人間の街だ。

 街の先にある聳え立つ城の姿から、リーゼはそれがゴルシカ王国の王城であると確信した。


「ふん。小賢しい」


 魔王の呟きが、リーゼに聞こえた。

 何について言ったのか、すぐに理解できた。

 晴れ渡る空が揺れ動くようにかき曇り、黒い雲の間に放電の光が見えた。魔王の仕業ではない。人間たちの防衛魔法だ。


「魔王様」


 リーゼは、不安に呟いた。

 魔族は近いうちに全滅する。

 そう思っていても、自分の身に危険が迫れば、恐ろしくなるのが人間だ。


「余のことか?」


 魔王は首だけで振り向いた。

 魔王が不機嫌である理由に、リーゼは気づいた。


「あなた、怖いわ」

「案ずるな。何もできやせん」


 魔王が牙を見せて笑う。

 周囲の雲から、稲妻が迸った。

 視界が青白く染まる。


 大気が焼ける轟音が響く。

 暗黒ドラゴンが咆哮した。

 魔王が腕を振るう。


「リーゼ、済んだ」

「あっ……はい」


 再び雲が散り、視界が晴れた。


「陛下、4人落ちた!」

「捨て置け! 死にはせん」


 暗黒ドラゴンと並んで、赤い鱗のギェールが飛び、またがる将軍レジィが叫んだ。

 魔王が叫び返す。

 左右に展開するドラゴンと将軍たちのうち、実に3分の1が落とされたことになる。


「放て」


 魔王の命により、暗黒ドラゴンが口から放った。

 放たれたのは炎の球だった。

 ドラゴンの飛行速度より遥かに速く、王都の中央に落下した。

 天まで届こうという火柱が上がる。


「結界か。小癪な」


 魔王の言った通り、王都を包み込むほどの火柱が上がったにもかかわらず、王都は燃え上がらなかった。

 王城から、無数の矢が飛来した。


 ただの矢ではない。

 一本一本が神殿の柱ほどもあり、光に包まれている。

 魔王は難なく打ち払ったが、2頭のドラゴンが撃ち落とされた。

 12人いた将軍の、半数が撃ち落とされたことになる。


「降りよ」


 魔王が命じると、暗黒ドラゴンは下降を始めた。

 将軍たちに従うドラゴンの乗り手や、地上を移動する部隊は遥か後方だ。

 高揚した魔王に、作戦の概念などないのだろう。


「あなた、結界はどうするの?」

「魔術や衝撃に対して備えておれば、ただ飛来するものには備えられまい」


 魔王の言葉通り、暗黒ドラゴンと6人の将軍は、王城の前庭に舞い降りた。


 人間の滅亡予告日まで0日

 魔族が滅びるまで10日


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