表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が悪役令嬢にならないと人間が滅亡するらしいので  作者: 西玉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/78

71 最後の戦い

 リーゼが踏み込むと、魔王は魔族将軍レジィと繋がっていた。

 つながっていたのは、体の一部である。


「リーゼ、ご、誤解だ。余は、レジィに誘われたに過ぎん」

「陛下、リーゼ様だって承知していますよ。リーゼ様、一緒にどうです?」


 慌てる魔王を、組み敷かれた形のレジィは笑って宥めた。

 魔王が泡を飛ばす。


「だ、黙れ。リーゼは、人間なのだぞ。人間の女にとって、夫が他の女を抱くなど、あってはならんのだ」

「おーほっほっほっ! 陛下、それを理解しながら、何をなさっているのですか?」


「だ、だから、誤解なのだ。余は、リーゼを裏切ったりはせん」

「わかりました。このリーゼ、魔王陛下に嫁いだのです。この程度のことで、泣きも叫びも致しません」

「そ、そうか……」


 魔王は胸を撫で下ろした。リーゼは、魔王がやや寂しそうなのに気づいていた。


「でも、罰を受けていただかなくてはなりませんわね。シャギィ、来なさい」


 魔王との修羅場を察したのか、途中まで同行していた侍女シャギィは背後から遠くに離れていた。

 リーゼが呼ぶと、弾かれたように走ってきた。

 リーゼがシャギィに手を伸ばす。

 全てを察したシャギィは、リーゼの手に蔓植物を握らせた。


「いいえ。これではなくてよ。薔薇の蔓を」

「リーゼ、それはあんまりではないか」


 言いながら、楽しそうな魔王の横面を、リーゼは叩いた。


「おちんちんをそんなに大きくして、レジィの中に入れたままのくせに、何を言いますの? シャギィ、早くなさい」

「は、はい」


 リーゼの手に、バラの茎を束ねた鞭が渡された。


「覚悟なさいませ」

「リ、リーゼ、待て」

「リーゼ様、オレは魔王様に無理やり……」

「レジィ貴様、裏切るのか!」


 リーゼは待たなかった。

 怒った悪役令嬢の手によって、魔王城が地に染まった。


 ※


 さらに7日が経過した。

 リーゼは魔王と睦んだ後、夢も見ずに眠り続け、朝目覚めた。

 100日前、夢の中で告げられた、人間が1人残らず殺される日を迎えていた。

 リーゼの隣で、魔王はまだ眠っていた。


 若く、たくましい肉体を持ち、人間ではあり得ない角を生やし、桁外れの回復力に頑丈な生命力に満ちている。

 ベッドで示された桁外れの回復力に、リーゼは度々失神した。

 普段は、限界まで励んだことにより、リーゼの方が遅く起きる。


 だがこの日、リーゼは魔王より早く目覚めた。

 太陽の光を見ると、普段より遥かに早く目覚めたのだとわかった。

 白い世界の何かにそそのかされ、リーゼは悪役令嬢を演じてきた。

 その結果の一つが、今日わかる。


 リーゼは緊張で十分に眠れず、目が覚めてしまったのだと理解した。

 リーゼは自分が全裸であることを認め、下着を身につけローブに袖を通した。

 ベッドを降りて部屋を出ると、首輪をされて四つん這いの生活を強いられた、元光の聖女カレンが顔をあげた。


「昨日も激しかったね」


 カレンが引くついた笑みを浮かべる。


「ええ。愛されているから」

「けっ」


 リーゼが答えると、カレンは吐き捨てた。

 リーゼはカレンの尻を蹴飛ばして進んだ。

 普段食事をする部屋では、専用メイドのエリザが侍女シャギィと共に朝食の準備をしていた。


 シャギィは料理というものを理解していなかったが、リーゼの指示でエリザから学んでいた。

 植物系魔族のシャギィは、食べ物は腐らせてから食べるもので、食べなくとも光さえあれば栄養は摂れると考えていたのだ。


「奥様、お早いですね」

「ええ」


 リーゼが食堂のテーブルに座ると、エリザは何も聞かずにお茶の準備をしてくれた。

 エリザから、悪役令嬢について学んだ。師匠とも言える。

 だが、100日前に見た夢のことは、話したことがなかった。


 リーゼが朝食を摂っていると、魔王が姿を見せた。

 魔王がくるときは、エリザは顔を出さないようになっていた。

 魔王は、リーゼが人間と接することを好まないのだ。


「リーゼ、出かけるか?」

「珍しいですね。お出かけをお誘いいただけるのですか?」

「うむ。いつまでも、我が妻を城の中に閉じ込めておくわけにもいくまい。外遊も、王族の使命であろう?」


 魔王はリーゼの正面に座った。

 魔王に供される朝食は、リーゼのものとは質が違う。

 調理などはされない、生きた魔物が置かれる。

 リーゼは魔王が魔物を喰らうのを見ながら、当初は食事をすることができなかった。

 現在は慣れた。


「外遊するのは、国益のためです。魔王様が国交を結ぶ相手があるのですか?」

「長く放置していた問題がある」


 魔王は、人間ならば簡単に死ぬだろう毒を持つサソリ型の魔物に刺されながら、平然とかぶりついていた。

 魔王が長く放置していたと言ったとき、リーゼは肝を冷やした。

 だが、表情は変えなかった。


「問題を放置するなど、魔王様らしくありませんね」

「ああ。少しばかり、浮かれていたようだ。だが、決着はつけねばなるまい」

「決着ですか?」


「うむ。この世界に残された唯一の人間の国に、勇者が降臨したという報告があった。いつか起こるだろうとわかっていたのだ。その前に人間を滅ぼすつもりだったが……リーゼ、食事を終えたら支度をせよ。そなたにも、見せてやろう。そなたを追いやった人間が滅びるところを」

「勇者の挑戦を受けなければいけないのですか? もう、人間の未来は潰えているでしょう。放置しても問題ないのではありませんか?」


 リーゼが言うと、魔王は笑った。


「余のことが心配か?」


 リーゼは言葉に迷った。

 魔王を突き放すほうが、悪役令嬢らしいのではないだろうか。

 だが、昨日の夜を思い出す。

 魔王は、リーゼには優しいのだ。


「死んでほしくありません」


 リーゼの目から、涙がこぼれた。

 人間を生かすため、魔族を滅ぼすため、リーゼは文字通り全てを捧げた。

 だが、魔王に対する気持ちが、相反するようになっていた。

 どうしようもない葛藤が、リーゼに涙を流させた。


「我が妻は、余をどこまでも迷わすか。余が負けるはずがあるまい。余を信じよ」

「……はい」


 魔王は立ち上がった。もはや決断は変わらない。

 魔王の皿は空になっている。

 リーゼは、まだ食べかけの食事を置いて立ち上がった。


「余には準備がある。先に行く」


 立ち去ろうとした魔王に、リーゼは寄り添った。


「私は、魔王様の手で殺していただきたいのです」

「ああ。覚えておく。それまで、余は死なん」


 魔王は上機嫌で食堂から出ていった。

 リーゼは席に戻り、エリザがお茶を注いだ。


「奥様、お見事です」

「ええ。ありがとう」


 エリザは、リーゼの言動の全てが魔王を虜にするための演技だと思っている。


 リーゼは短く答え、涙を拭った。


 人間の滅亡予告日まで0日

 魔族が滅びるまで10日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ