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私が悪役令嬢にならないと人間が滅亡するらしいので  作者: 西玉


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35 悪役令嬢と国王

 王城に着くまでには、国王グルーシス三世は、普段の姿に戻っていた。

 馬車の中で着替えたのであり、リーゼはあえて自分の目に目隠しをした。

 あえてそうしたのは、王の着替えを見ていないことを王に示すためである。


 王は、リーゼに見ないようにとは言わなかった。かといって、見ろと言ったわけではない。

 王城の中を歩いても、城内の衛士や役人は全て王に敬意を評して深くお辞儀をし、リーゼには視線を向けなかった。

 王に従えられているのだ。誰も声をかけようとはしなかった。


 誰にも呼び止められず、気にもされない。

 だが、それはリーゼが王とともに行動したことを、誰も知らないことには繋がらない。

 公爵令嬢として、宮廷内の噂の広がり方は知っていた。


 だからといって、何ができるわけでもない。

 リーゼは、王に命じられるまま、王の自室に招かれた。

 公爵令嬢であるリーゼですらまだ足を踏み入れたことのなかった、王城の際奥である。


「ようやく、二人きりになれたな」


 広い空間を贅沢な調度品で埋め尽くした部屋に入り、王は臣下と会う時の玉座とは比較にならない簡素な椅子に腰掛け、リーゼにも椅子を勧めながら言った。


「誤解を招くような言い方をなさらないでください。読書会が終わってから、ずっと二人きりではありませんか」


 リーゼは勧められた椅子にも腰掛けず、扉を背負って立っていた。


「いや。ずっと二人きりであり、二人きりではなかった。余には常に警護という名の監視がついておる。余が本心を明かせるのは、この自室においてのみなのだ」

「私のようなただの令嬢に過ぎない者に、どんな本心を明かそうというのです?」

「ラテリアのことだ。余のことを、男として警戒するのは、むしろ光栄ではあるがな。息子の婚約者を部屋に連れ込んで、いかがわしい真似をするほど鬼畜ではない」


 王は頭の王冠を外し、書き物をするための道具が並んでいる文机に置いた。

 リーゼはため息をついた。


「もはや、どんな警戒をしても、私については悪い噂しか立たないでしょう。陛下に誘われるまま陛下の部屋に入った段階で、私がラテリア様との婚約を解消し、陛下の側室になったのだと噂される覚悟はしています。だからといって、噂を真実にするつもりはございませんよ」


「ああ。わかっておる。将来の義理の娘に、そのような覚悟をさせて申し訳なく思う。だが、ほかに方法がなかったのだ」

「……陛下、お心遣いはありがたく思いますが、私は……」


 リーゼがさらに続けようとしたところで、国王グルーシス三世が片手を挙げ、手のひらを見せた。

 それ以上の発言を認めない所作である。

 黙ったリーゼに代わり、国王は言った。


「余は、婚約の解消など認めん。すでに知っておろう。ラテリアは、魔族との取引に使われる。人質として、魔王領に送られる」

「はい。クレール殿下から聞きました」


 ラテリア王子は、もはやリーゼと話をしようとしない。聞いたのは、第二王子であるクレールからだった。


「そうであろうな。クレールに、そなたに近づき、情報を与えるよう指示したのは余だからな」

「なぜ、そのようなことを……」

「簡単なことだ。ラテリアは、そなたに近づこうとしない。逆に、余はそなたを高く評価している。余の愚息を叱りつけ、立ち直らせることができるのは、リーゼ・エクステシア以外にいないと信じておる」


 リーゼは嘆息した。全ては遅い。そう感じていた。


「私が、ラテリア様との婚約解消に応じたのは……一つにはドラゴンの血を手に入れるため、もう一つは、先にラテリア様が署名なさっていたからです。ラテリア様は、私を必要とはしておりません。ラテリア様に必要なのは、カレンのような……」


「腹黒く、節操のない女子か?」

「陛下には、カレンがそのように見えているのですね。でも、ラテリア様が選んだのは、カレンです」


 リーゼの言葉に、国王グルーシス三世は薄く笑った。


「余の見込み違いだったのか? ほんの10日ほど前のことだ。現在の我が国、いや人間の世界では、ラテリアに王は務まらん。才女と名高いエクステシア公爵令嬢には、丁重に別の婚約者を探すよう諭そうとした。だが、余に向かって、女子寮でそなたを呼びつけた無礼を糾弾するかの令嬢を見て、余は確信した。エクステシア公爵令嬢であれば、ラテリアがいかに凡庸であろうとも、この国を潰えさせるようなことにはなるまいとな」


 夢に出た、白い女の口車に載せられ、リーゼは王を呼び捨てにし、詰問したことを思い出した。


「……買いかぶりです」

「その時、余は思った。まるで、悪役令嬢のようではないか。だが、賢いエクステシア公爵令嬢のことだ。物語の悪役令嬢のように、破滅することはあるまい。それが、今日、余が愛する読書会に参上して言ったのだ。悪役令嬢になりたいと。我が国、いや人間の世界のために、自らは破滅してもいいのだと、余の前で宣言したのだ」


 国王は、目を輝かせてリーゼを見つめていた。

 否定することはできない。だが、リーゼはそこまで考えていない。


「いえ、あの……」

「奪われたのなら、奪い返せ。それが悪役令嬢だ」

「そ、そうなのですか?」

「余が言うのだ。間違いはない」


「でも、カレンとの約束が……」

「平民との約束など、どうして守る必要がある?」

「それは、陛下が言っていいことなのですか?」

「リーゼ・エクステシア公爵令嬢」

「はい」


 国王が、リーゼの両手を包み込むように握った。

 リーゼは、言葉を失った。異様な熱意に、言葉が出なかった。


「ラテリアに、本当に必要なのはそなただ。そなたに、余が知る最も優秀な者たちを従わせる。頼む。ラテリアを、見捨てないでくれ」


 王の最後の言葉に、リーゼはようやく納得した。

 国王とはそれほど面識はない。リーゼと趣味が合うと思っても、突然自室には招かないだろう。

 リーゼが気の強い女だと思い込んだ国王は、生来気弱で、柔和であること以外にあまり評価されていないラテリア王子に付き添わせたかったのだ。


「カレンは、光の聖女と言われています。簡単には行きません」

「承知しておる」

「……わかりました。陛下は、ラテリア様を溺愛しておられるのですね」

「恥ずかしいことだ。誰にも言ってくれるな。国王たるもの、本来は非常であるべきだとは、わかってはいるのだがな」


 自嘲気味の国王をその場に残し、リーゼは国王の自室を退出した。


 人間の滅亡予告日まで87日

 魔族が滅びるまで97日

ここまでで、物語は一服といった感じになります。

まだまだ続きますが、更新は週一ぐらいになるかと思います。

今後とも、お付き合い頂けると幸いです。

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