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私が悪役令嬢にならないと人間が滅亡するらしいので  作者: 西玉


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26 ドラゴンの居場所

 リーゼが魔族将軍レジィを部屋に入れたのは事実であり、エリザが勘違いしたまま誰かに話したようだ。

 これまで貴族令嬢として誇りを持って振舞ってきたのに、自分が積み上げてきたものは、これほど脆かったのかという衝撃はある。


 だが、今は何より、ヌレミアを助けなければならない。ラテリア王子のことも、本人と話さなければ何もわからない。

 リーゼは、昼休みに一人で状況を整理していた。

 いつも食事を摂る場所に、リーゼは一人でいた。


 いつもは友達と談笑しながら、食事はゆっくりと食べていた。

 食べることしかしなければ、食事とはこんなに短時間で済むものなのかと思った時、ミディレアがリーゼの側に立ち、腰を折った。


「リーゼ様、カレンを躾けたのですが……自分で来られない様になってしまいまして……」

「何をしたというの?」

「申し訳ありません。ご足労いただけますか」


 ミディレアは、廷臣のように畏まった。リーゼにとっては、まだリーゼを見捨てないでいてくれる数少ない友人のように思われた。

 ミディレアに笑いかけた。


「私のためにしてくれたのでしょう。そんなに、畏まらなくてもよくってよ」

「はい。ありがとうございます」

「案内して」

「はい。こちらです」


 リーゼが立ち上がった。

 ミディレアに誘われたのは、魔法学園に数ある、何にも使われていない部屋の一つだった。


 ※


 リーゼが部屋に入ると、見知った学園の生徒たち数人が振り向いた。

 誰が入ってきたのかを知り、全員が頭を下げる。

 リーゼは、誰もリーゼの近くに来なくなったのは、リーゼが見捨てられたからではなかったのだと理解した。


「カレンはどこ?」


 リーゼが言いながら部屋に入った時、背後の壁から声が聞こえた。

 驚いて振り返ると、壁に鎖で手足を拘束された女性が縫い付けられていた。

 口には猿ぐつわをかまされている。

 そのため『ウー、ウー』と唸っている。


「アンジー先生?」

「はい。カレンをこの部屋に連れてくるところを見られたので、一緒に連れてきました」


 ミディレアが応えた。リーゼは、アンジーの猿ぐつわを下にずらした。


「リーゼさん、やはりあなただったのね」

「なんのことですか? 私は、ただカレンと話をしたかっただけですよ。ミディレアさん、先生に対してこんな扱いはいけないわ」

「……何をする気?」


 リーゼは、魔法学園の教師に対して、鎖で拘束するような真似を注意した。

 だが、当人であるアンジーは、さらに過酷な運命が待ち受けているのではないかと体を震わせたのだ。


「ミディレアさん、アンジー先生は、私の味方になってくれるのではなかったのかしら」

「申し訳ありません。思いのほか、強く光の聖女に取り込まれていました」


 ミディレアが謝罪する。


「アンジー先生、私はカレンに酷いことをするつもりはないのです。わかってくださいますね」

 リーゼが語りかける。アンジーは震えながら、ゆっくりと目を逸らした。

「ええ」

「よかった。カレンはどこなの?」


 リーゼが振り返ると、女子生徒たちが場所を開けた。

 いつか見た、汚物にまみれた光の聖女が打ちのめされていた。

 リーゼが近寄ると、女生徒たちが左右に割れた。いつものことである。

 打ちのめされ、這いつくばっていたカレンが顔をあげる。


「リ、リーゼ様、お助けください。私は……なにもしていないのに……」


 カレンの言葉に、ミディレアをはじめとする女生徒たちが声をあげようとした。

 リーゼが片手をあげると、すぐに沈黙が訪れる。


「ラテリア様のこと、聴いているわね?」


 カレンがリーゼだけを見た。あえてミディレアたちを視界に入れないように、眼球だけを動かしてリーゼを見つめ、すぐに伏せた。

 迷っているように見える。

 リーゼはただ腕を組んで待った。

 カレンは、観念したように口を開いた。


「……はい」


 ミディレアが怒りの声をあげた。

 だが、ミディレアは理解していない。リーゼがなにを聞いたのか、わかっていない。

 リーゼは、ラテリアとの関係を尋ねたのではない。それは、これから尋ねる予定なのだ。


「誰から聞いたの?」

「ラテリアから……」

「リーゼ様、この女、ラテリア殿下を呼び捨てにしました」


 ミディレアが詰め寄ろうとする。リーゼは再び片手をあげた。


「ミディレアさん、それと皆さん、ご好意には感謝します。ですが、ここは私に任せてくださらないかしら」


 リーゼが言うと、ミディレアたちは互いに頷きあった。


「アンジー先生も連れて行って。アンジー先生、約束を守らなかったのは私ではないわ。わかっていますよね?」


 アンジーは、かつてリーゼに、カレンと関わらないよう求めてきた。引き換えに、ラテリア王子には近寄らせないと約束したのだ。

 リーゼは、自らカレンを虐待しようとはしなかった。だが、カレンはラテリア王子とより仲を深め、リーゼの友人達が行動を起こすことになった。


「でも、やりすぎだと思いますよ」


 教師であるアンジーは、捨て台詞を残してミディレアたちに連れられて出て行った。

 使用されていないはずの部屋に、リーゼと光の聖女カレンが残された。


「私はクレール殿下から聞いたわ。あれ以来……あなたがラテリア様と医務室で会っていた時以来、私はラテリア様にはお会いしていないわ。もう、私には興味がないのかもしれないわね」


 カレンは、扉の方向を見つめた。ミディレアたちが戻ってこないことを確認したのだろう。

 全身を覆っていたゴミを払いのけた。

 以前のリーゼなら、カレンのゴミを取り除いただろう。だが、ラテリア王子を奪おうとしているとわかっている相手に対して、そこまで寛容にはなれなかった。

 使われていない椅子を見つけて腰かけた。カレンも、ひとしきりゴミを払い落とし、椅子を持ってきて座った。


「リーゼ様があんな女だとは思わなかったと、ラテリアは言っていましたよ」

「ラテリア様に罵られるほどのことを、私がした覚えはないけど」


 かつて、リーゼに怯えていたカレンとは違う。学友であるはずの女子たちにいじめられ、その元締めとしてリーゼを恐れていた時のカレンではない。

 二人きりになり、カレンは演技を辞めた。リーゼがカレンを虐める気がないことを知っているのだ。


「私をいじめ、ラテリアが進めようとした魔族との融和策に反対された」

「私はいじめていないし、反対を表明したことはないわ」

「嘘でしょう。でも、嘘か本当かは関係ないわ。ラテリアが、そう思っているのだから。リーゼ様、ラテリアと一緒に魔族に囚われになるなんて言わないでしょうね?」


「……どういう意味? それはまるで……」

「光の聖女である私が、ラテリアと一緒に捕虜になります。ラテリアがそれを望んでいるの。そうすれば誰にも……いえ、リーゼ様に邪魔されず、魔族との宥和を進めることができるから」


 リーゼは言葉を失った。リーゼが想定していたより、はるかに事態は進もうとしている。

 リーゼは首を振り、言葉を選んだ。


「ラテリア様にそんなに嫌われてしまったのは残念だけど、今はその話をしにきたのではないわ」

「ええ。私がラテリアと付き合うのが気に入らないのでしょう? 確かに、公爵令嬢様が平民の娘に恋人を奪われて、王妃にもなれなかったなんてことになったら随分恥ずかしいでしょうけど、民衆にとっては大好きな展開ですよ」


「そうでしょうね。でも、私の目的はそれでもないわ。キッシモはどこなの? あなたが連れていたドラゴンよ。ヌレミアさんを助けるのに、ドラゴンの血がいるの」

「そうですか。でも……とても残念です。ヌレミアさんは、助けられないのですね」

「ふざけないで! ドラゴンの居場所を教えなさい! あなたが飼っていたはずでしょう!」

「教えたら、ラテリアと一緒に魔王領に行くことはないと約束してくれますか?」


 リーゼは即答した。全てがカレンの狙いだったとしても、ヌレミアの命には代えられない。


「わかった。約束するわ」

「では、今日の夜、女子トイレの奥の部屋にいらしてください」


 カレンの表情が変わった。光の聖女とは思えない凄みを効かせている。


 リーゼはたじろがなかった。ヌレミアを救うのだ。リーゼはカレンを見つめたまま、しっかりと頷いた。


 人間の滅亡予告日まで92日

 魔族が滅びるまで102日 

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