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私が悪役令嬢にならないと人間が滅亡するらしいので  作者: 西玉


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24 王宮を退出し、マーベラと出くわす

 リーゼは王城を出る馬車の中で、ドラゴン探知の杖に魔力を込めた。

 ドラゴンならいるはずだ。リーゼの知るドラゴンを、ドラゴン探知の杖で見つけたこともある。

 だが、杖はリーゼの感覚に、ドラゴンはいないと訴えてきた。


 効果範囲があまりに狭くては、ドラゴン探知は意味がない。巨大なドラゴンを肉眼では見つけられない程度に広範囲までカバーできなくては、魔道具としての意味がないのだ。

 少なくとも、王都全域ぐらいは探知の範囲内のはずだ。

 リーゼにはわからなかった。


 カレンに尋ねるしかない。何より、ドラゴンの血を求めるのであれば、カレンに近づかなければならないだろう。

 あとで再び試そうと思いながら、リーゼはドラゴン探知の杖を荷物にしまい、馬車の窓の外に視線を向けた。


 まだ王城の敷地内だ。兵士たちが訓練しているのが見える。

 主だった兵士たちは戦場に出て、一人も戻らないという。現在城にいるのは、王族を守る近衛隊と戦場に呼ばれなかった新兵、もしくは老兵だけだ。

 兵士たちは、人間がすでに敗北していることを知っているのだろうか。


 人間の守りが存在しない以上、魔族は大挙して押し寄せかもしれない。

 その時、兵士たちは国民を守れるのだろうか。

 ぼんやりと考えていたリーゼの視線の先に、見覚えのある体つきの剣士がいた。


「止めてくださる?」


 リーゼが鋭く言うと、御者が手綱を引いた。

 まだ完全に止まっていない馬車の扉を強引に開けて、リーゼは飛び出した。


「マーベラさん!」


 木剣を振るい、対峙する兵士の剣を弾き飛ばした女性が振り向いた。

 兵士としては華奢だが、女性としてはたくましい。

 訓練着姿が実に似合っていた。


「いつから城にいたの? 寮にいないから、探したのよ」


 マーベラは、訓練相手に礼儀正しくお辞儀をすると、リーゼがいる場所まで小走りに駆けてきた。

 木剣を腰に持ち、駆ける姿はまさに兵士そのものだと、リーゼは寂しく感じた。

 リーゼの目の前で、マーベラが膝を付く。


「リーゼ様、お別れです。私は父の跡を継ぎ、軍に入隊します。貴族であることを忘れ、一兵士として魔族と戦います」


 マーベラは、リーゼを真っ直ぐに見た。

 これが、尊敬していた父親を殺された娘の決断なのだ。

 リーゼは言葉を失った。だが、黙ってはいられない。もう一人の親友をも失うことになる。


「待って。マーベラさんが入るのは、近衛隊ではなかったの? マーベラさんが近衛隊、ヌレミアさんが宮廷魔術師になって、私とラテリア様に仕える……そう約束したのではなかったの?」


 かつて三人でした約束だ。約束したのは、リーゼとラテリア王子が婚約したと発表されて、すぐのことだった。

 3人はずっと一緒にいられる。そのはずだった。

 マーベラは、リーゼを真っ直ぐに見た。


「一人でも多くの魔族を殺す。今の私には、それ以外のことは考えらません」


 膝をついたマーベラの前に、リーゼが腰を曲げて視線の高さをあわせた。

 リーゼは、マーベラの頬に触れた。


「魔族が死ぬところを見たいのですか? それとも、自分の手で殺さなければ気が済まないかしら?」

「自分の手で殺したいのは確かですが……より多くの魔族を死に追いやれるなら、その方が本望です」


 リーゼは嘆息した。このまま放置すれば、マーベラは対魔族との闘いおいて、間違いなく先陣を切るだろう。

 実際、現在の王城にマーベラ以上の戦士はほとんど残っていないのだ。

 個々の強さは、魔族は人間を上回っている。


 マーベラがどれほど強かろうが、魔族全員を殺せはしない。

 だが、魔族は全滅する。その可能性がある。

 リーゼは、マーベラに顔を寄せ、耳元で囁いた。


「これから先、100日もせずに魔族の間に疫病が流行るわ。その病は、魔族を絶滅に追いやる。私は、そう告げられたわ」


 マーベラの目が、リーゼを凝視していた。


「一体、誰にですか?」

「わからない。でも……女神ではないかと思う」

「……信じられるのですか?」


「私は同時に、このままでは100日後に人間は一人もいなくなると告げられたわ。人間を一人でも多く100日後を越えて生き延びさせることができれば、魔族は勝手に全滅するのよ。マーベラさんはどう思う? 何もしなければ、100日後に人間は一人もいなくなる。それが、現実的ではないと思う?」

「わかりません」


 マーベラは視線を外した。それが真実なら、どれだけ体を鍛えても意味がないと感じているのかもしれない。


「つまり、まず先に人間が全滅する可能性は、あると思うのでしょう?」

「人間が……すでに大戦で敗北しているのであれば、そうなるのが当然なのでしょう。リーゼ様は、では……人間を生き延びさせるために行動をしているのですか?」


 リーゼは小さく頷いてから続けた。


「もし生き残れば……魔族が苦しんで死んで行く様を見ることができるのよ。疫病が広まり出して、その10日後には魔族は全滅するとも言われたわ。もしそれが嘘だったとしても……本来私たちが全て殺される時期より、10日だけ長く生きてみることが、それほど辛いとは思わない」


「かもしれません」

「だったら、せめて自分から死ぬような選択はして欲しくない。マーベラさん、ヌレミアさんが怪我をして、ドラゴンの血が必要なの。協力してくれないかしら」


 マーベラは、リーゼを見つめた。


「リーゼ様、一つ教えてください。昨日、父の仇、魔族将軍レジィがドラゴンの襲撃で逃走しました。リーゼ様……ドラゴン探知の杖をお持ちですよね。リーゼ様が解放したのですか?」

「違うわ。私も知ったばかりよ」


 リーゼは即答した。レジィの逃走にリーゼが関わっていると思われれば、マーベラの協力は得られない。マーベラを永遠に失うことになるかもしれない。

 その思いが、リーゼに咄嗟に嘘をつかせた。もちろん、リーゼはドラゴンに情報を教えはしたが、直接レジィを解放したわけではない。


「わかりました。リーゼ様、明日は学園でお目にかかります」

「ありがとう。マーベラ」


 リーゼは、汗にまみれた親友の、女性にしてはたくましい体を抱きしめた。

 馬車に戻り、再びドラゴン探知の杖に魔力を注いだ。

 結局この日はドラゴンを発見できず、魔法学園の講義も終わっている時間だった。


 リーゼは途中教会に寄り、祈りを捧げてから寮に戻った。


 人間の滅亡予告日まで93日

 魔族が滅びるまで103日 

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