短編_血が滾る_WB
血が騒ぐ。
全身の血すべてが熱を帯びて沸騰するように、細胞1つ1つが活性化し体中を暴れまわる。
目の前の、人間をただただ殴りたい、黙らせたい、壊したいと本能が叫ぶ。
「っ…はっ…がっあ……。」
己の本能が暴動と化し、本来の生命活動にさえ、支障がでる。
つまり呼吸がまともにできない。
そんな状態でも、世の中の理を知る理性が、己を制御する。
「誰か、鷹さんを押さえ込め!これ以上怪我人を出すわけにはいかない!」
「来るっなぁ…」
自分を押さえ込める人間など、この辺りにはいない。むしろ被害者が増えるだけだと政鷹は周りと距離を作る。
が、うまくいかずに膝が折れ、胸倉を掴んで、呼吸に意識を向ける。
頭に血が昇ると昔からこうだ。
いや、ここまでひどくはなかった。昔であれば、一暴れしても構わない環境だったから。
今ではそうもいかない。自分が暴れまわった結果、巻き込まれる人間は多く、そしてその人間は政鷹にとって大事な人間である可能性が、今にはある。
自分が暴れて泣く人間もいる。
自分が壊すことによって、傷つく人間もいる。
自分が勝手をすることによって、怒り狂う人間もいる。
自分が罰せられれば、喜ぶ人間もいる。
よくも悪くも、今の立場は複雑だ。政鷹が望んでこの場に居る訳ではないが、存在する以上、もう自分勝手はできない。
嫌な汗が、全身に湧き出る。
手が震え、呼吸が浅く熱を持つ。地面がやたらと冷たいのは、体が沸点を超えていると感じるほど暑くなっているから。
制御しきれない。
「鷹さん、落ち着いて。」
脳の奥底に響く静かな声。
マグマのような熱が、一気に鎮まる。
荒々しく波をあげていた感情が、一斉にひいて、静かな水面へと戻る。
振り向けば藤原郁美、ただ一人が、政鷹の背を抱いてた。
「大丈夫、鷹さん。大丈夫だよ。」
ああ、こいつだったのか。