第23話 ただの門番、とりあえずサクッと倒す
「うぎゃおおおおおおおおおお！」
洞穴で、影をまとったモンスターの絶叫がひびいた。
俺の門番ストライクが致命傷になったか、影をまとったモンスターは全身から黒い霧を吐きだして、さっくりと消えていく。
「ふー……ビックリしたあ。いきなり湧くんだからさ」
俺は息を吐きながらロングソードを鞘に納める。
旅の途中ちょっと休憩にと洞穴に入ったら、モンスターがいきなり襲いかかってくるんだものな。
俺が手早く片づけたからか、サクラノが少し物足りなそうだ。
「師匠、今のモンスターはなんでしょう？ 初めて見るモンスターでしたが」
「俺も見たことはないな」
「この地の支配モンスターでしょうか？」
「ないない。だって雑魚だったし。姿が珍しいだけのモンスターだよ」
冬眠から目覚めた獣ばりに獰猛だったが、まあ楽に倒せて良かった。
倒したモンスターが気になるのか、ハミィは洞穴内を観察している。
「せ、先輩……。洞穴内に封印の痕跡があるわ……」
「今のは封印されていたモンスターってこと？」
「ええ……。災いを呼ぶモンスターだったらどうしよう……」
「うーん……それにしては洞穴に簡単に入れたし、俺たちが来るずっと前から封印は解けていたんだよ。今のはそこに居ついたモンスター。気にすることはないさ」
心配していたハミィを安心させるように言った。
実際、この地で災いが起きたって話は聞かない。おそらく封印されていたモンスターはとっくの昔に滅んだのだと思う。
と、背後でありえないものを目撃したような声がする。
「そんな……たぶん、ヴァニーだよね……」
スルだ。
俺たちの向かう先に用事があるらしく『旦那ー。護衛を頼むよー！』とお願いされた。彼女には双子やココリコが世話になっているし、快く承諾していた。
なんだか狼狽しているようだが。
「スル？ なにか気づいたのか？」
「？ な、なんだい、旦那！」
「なんだいって……もしかして今のモンスター知っているのか？」
「いやいや知らないよー！ それよりもさっ、旦那、めちゃくちゃ強いね……？」
スルは俺をまじまじと見つめてきた。
護衛を頼んできた手前、労っているのだと思うが、そこまで大袈裟に褒めなくても。
「そこまで持ちあげる必要はないぞ」
「も、持ちあげる気なんて、うちは……」
「これでも俺は王都の兵士だったしな。王都の兵士ならこれぐらいできて当然だ」
「…………旦那みたいな兵士ばかりなら王国は世界を支配しているよう」
スルの笑顔にちょっと距離を感じる。
血気盛んだねと言いたいのだろうか。
うーむ。武闘派な仲間たちに影響されてか、最近は問答無用でモンスターをばっさばっさ斬っている気がする。
自省すべきかなと考えていると、サクラノが彼女に耳打ちしようとした。
が、メメナが笑顔でそれを制する。
「そうじゃなー。兄様は元王都の兵士じゃからな。とっても強いんじゃよ」
サクラノが困ったようにまばたいた。
「メメナ……？ 師匠はたしかに元王都の兵士ですが……」
「王都の兵士は手練ればかりじゃものな。なあサクラノ？」
「えーっと…………はい、そうですね」
サクラノはちょっと間をあけてからうなずいた。
スルが慌てたように叫ぶ。
「待って待って！ 本当に、王都の兵士が旦那みたいな強さだと思っているの⁉」
王都の兵士の強さをしらないのだろうか。
……そういえば悪魔族は定住ができないんだったな。契約のせいで王都に立ち寄れないのかも。王都で悪魔族は見たことはないし。
「ふむ？ スルよ、兄様が強いと困ることでもあるのかえ？」
「……それは、ないけどさ」
「ならば別によいではないか」
「…………うん」
スルは気まずそうに目を伏せた。
それからメメナはにんまりと微笑み、「それでは目的地に向かうかのー。もうそろそろじゃよー」と機嫌良さそうに鼻歌を漏らした。
今回の行き先は、メメナが申し出たことだ。
なんでも『極めて重大でとても見逃すことのできない』村があるらしい。
どんな村かは教えてくれなかったが、近いのならもう教えてくれるかな。
「なあ。メメナが行こうとしている村って、どんな村なんだ？」
「うむうむ、それはじゃな……」
「それは？」
メメナはにまーっとそれはもう愉快そうに微笑んだ。
「バニー村じゃよ♪」
