第47話 ただの門番、下水道掃除に向かう
下水道入り口前。
普段は鉄格子で封鎖されている場所も今はすべてが取り払われていて、楽に往来できるようになっている。
俺は装備を確認しながら、軽い準備体操をしていた。
やっすい配給ロングソードは、エルフの鍛冶職人が鍛えあげた黒銀の剣に。
オンボロ兵士の鎧は、王都の上級近衛兵が使っている聖鉄の鎧に。
装備は新調した。
いやあ……お金って、あるところにはあるんだなあ。
俺なんかが一生縁がないと思っていた最上級装備をポンと用意してくれるんだもんな。シャール公爵。下水道のモンスターを狩るだけでこれだけ奮発してくれるとは、よほど雑魚モンスターが湧いているらしい。
仕事探しの旅に出る前、兵士長からもらった腰カバンも確認する。
見た目以上によく入る、魔術仕立ての腰カバン。
この中には回復剤、女神の涙、そして魔術探石を数十個ほど詰めた。
俺が下水道を先行しながら魔術探石を置いていくので、兵士たちがその跡を追う流れになっていた。
一挙に攻めなくていいのかと、各部署の隊長にたずねられたが。
『罠も結構ありますし、少数のほうが動きやすいんで』
何人かすでに罠にかかったのか、各部隊長はおっそろしい勢いで首を縦にふっていた。
……変な罠でもかかったのかな?
とかく少数精鋭で、ダンジョン化した原因のダンジョンコアを破壊しよう。
以前俺が王都にいたときはそんなものはなかったから……。
最奥で発生した魔素溜まりがダンジョンコア化したのか?
王都に帰ってくるなり下水道掃除とは俺もつくづく縁があるなあ。
そう苦笑していると、サクラノが緊張した面持ちでたずねてきた。
「し、師匠! ここが例の下水道なのですね!」
「うん、サクラノに何度か話していたやつだよ」
「ここが例の……。気合がはいります!」
「お、おう……そっか……」
王都の下水道でそこまで気合をいれる必要はないんだが……。
俺の修行場でもあったわけだし、感じるものがあるとか?
サクラノも変わった子だなーと思っていると、メメナが魔導弓の具合をたしかめながらたずねてきた。
「兄様がいたときと違って、ダンジョン化して広大になっておるようじゃが……」
「以前から下水道の順路が変わっていたから大差ないよ。
濃い気配を探っていけば、モンスターがよく湧いている場所にたどり着ける」
「順路が変わっていたって……妙に思わなかったのかえ?」
「? 王都の下水道ならそれぐらい設備が整っているだろ?」
「ははは、兄様らしいのう」
メメナはケタケタと笑った。
どのあたりが兄様らしいのだろう。
王都の下水道に詳しいあたり?
俺がどのあたりかなーと呑気に考えていると、ハミィがふるえながら尋ねてきた。
「こ、ここにたくさんモンスターがいるのね……? ハミィは足手まといになるんじゃ……」
「足手まといになんかならない。ハミィの魔術なら大丈夫」
「……ホ、ホント?」
「ああ、ホントにホントだ。
それに、俺一人だけならまだしも三人いるしね」
三人共、王都の兵士として十分やっていける強さだ。
下水道内部は俺が詳しいし、少数精鋭で攻めるにはこのメンバーが最善。
うまく連携のとれない兵士とよりは、仲間たちとのほうが圧倒的に動きやすい。
「頼りにしてるよ、三人共」
俺が笑顔でそう言うと、サクラノもメメナもハミィも表情をひきしめた。
「師匠……」
「兄様……」
「先輩……」
いやいやいや、表情が固いなあ。
今から死地に赴くわけでもないし、どーにも肩に力が入っているようだ。
魔王城に攻めにいくわけでもなし、ここは王都の下水道。
雑魚モンスターしか湧かないぞ。
そう言っても緊張がほぐれなさそうだ。
なら、ちょっと場の空気に合わせるか。
「行こう……! 王都を……世界を救いに!」
「はい!」「うむ!」「う、うん……!」
みんなノリノリだな。
面倒な下水道掃除を手伝ってくれる彼女らに感謝しながら、俺も世界を救うぐらいの気持ちで挑もうか。




