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第21話 ただの門番、旅立ちを共にする

 骸骨軍団襲来から数日が経った。


 ビビット族は平穏を取り戻したようで、そうでもなかった。


 俺は大樹の麓まで見回りに行くと、エルフたちの武術訓練の声が聞こえてくる。


 白銀の剣による、一糸乱れぬ型稽古。

 弓術による遠当て。

 そしてエルフ同士の連携。


 エルフは見麗しい外見とは裏腹に、戦える者が多い。

 仲間同士の連携を重視しているのも、自然の厳しさを知っているゆえか。


 そんな彼らの訓練を見守っているのは、金髪碧眼の美少女エルフだ。

 美少女エルフは俺と目が合うなり、笑顔で手をあげる。


「盟友!」


 美少女エルフは俺に近寄ってきて、たおやかに微笑んだ。


「盟友っ、ボクらの武術講師になってくれる気になったんだね⁉」

「はは、俺はただの門番だよ。エルフに教えることなんてないさ」

「またまたー。このこのー」


 美少女エルフは、膝でこのこのーと突いてきた。


 やけに距離感の近い、このエルフ。


 実はモルルだ。


 美少女化していた。


 メメナ曰く『稀にある』とのこと。

 エルフ、特にビビット族は魔素を体内に多くとりこんだ一族で、外見はヒトでも構造はモンスターに近いらしい。


 モンスターは魔素の影響で、その特性が色濃い姿になる。

 より生存に特化した姿になりやすいのだとか。


 似たような原理で、エルフに美男美女が多いのは魔素のおかげであり、繁栄しやすい姿になっているらしい。


 ちなみに、メメナはこうも言っていた。


『エルフは見た目以上に歳をくっていたり、なかには成長期に魔素不足で姿が子供のままのエルフもいるんじゃよ。兄様♪』


 すごいやエルフ。

 すごいやビビット族。


「しかし……モルルが女になるなんてなあ」

「うん、ボクも驚いたよ。

 きっと母様(かあさま)のような立派な(おさ)になるため、魔素がボクの理想の姿に変えたんだろうね」


 モルルにとって立派な長とは、メメナに他ならない。


 みんなに慕われる長になりたいがために、女になったのかも。

 それがモルルの見解だ。


「ふふっ、ほんと……盟友が女になったボクにひかないでくれて嬉しいよ」

「そりゃあ、だって、俺たち友だちだろう?」


 防衛戦後、モルルから友人になって欲しいと握手を求められた。

 俺も友だちになりたいと思っていたので、熱い友情の握手で応えたのだが。


 そのすぐあと、モルルは美少女化した。


「盟友……」


 モルルは瞳を潤ませていた。


 そうさ。

 種族や性別が違ったところで、俺たちの友情は変わらない。


 モルルも同じ気持ちなのだろう。


 だから盟友とは親友だからと、モルルのスキンシップが激しくなったり。

 盟友とは親友だからと、一緒に森を散歩したり。

 盟友とは親友だからと、一緒に食事をしたり。

 盟友とは親友だからと、一緒にキノコベッドで寝たりしても、すべては変わらぬ友情ゆえ。


 お風呂を一緒に入りかけたときは、さすがにサクラノに止められたが。


『師匠! 女子とお風呂に入るのは一線を越えているかと!』


 だよなー。

 ちょっと新しい扉がひらきかけていたので、サクラノが止めてくれて助かった。


『師匠、気を付けてください。

 彼が美少女化したのは、絶対にメメナのようになりたいがためではありません。絶対に』


 サクラノは確信したように言った。

 俺たちの友情を、なにか邪推しているのだろう。


「ところで盟友。今日もうちで食事をするかい? 

 なんならまた歓迎会をひらくよ?」

「あ、や、それは……」


 このところ毎日のようにモルルの家に誘われていた。


「――こらこら、兄様が困っておるじゃろ」


 メメナが苦笑しながらあらわれる。


「ほーれモルル。みんなの面倒をみるのはお前の仕事じゃろうが」

「はーい、母様」


 モルルはしぶしぶながらも訓練に戻った。


 あいかわらずの母様呼び。

 性別が変わっても、モルルの性癖は変わっていないようだ。


「すまんのう兄様、迷惑かける。ワシの家系は情が深いところがあってな。

 相手を一度気にいると、これじゃ」

「迷惑どころか毎日楽しいよ」

「そーかそーか。迷惑ではないか。

 ならば今晩はワシと一緒に寝ようではないか、なあ兄様♪」


 メメナが妖しく微笑む。


 メメナとモルルはどうやら親族らしく、情が深い家系なのはたしかなようで、最近はメメナからの熱心なお誘いも増えていた。


 まあ、子供が大人の真似をしたいだけなのだと思う。


「しません」

「むー、つれないのー」


 唇をとがらせたメメナに、俺は苦笑する。


「それで、()()()()()()()()()、メメナ?」

「うむ。それじゃがな――」


 〇


 その翌日。

 気持ちの良い早朝。


 大樹の麓で、俺とサクラノは大勢のエルフに囲まれていた。


 今日は旅立ちの日。

 俺たちを送り出しにきてくれたのだ。


 精霊王がいなくなったので掟はなくなったのだし、すぐに旅立っても良かったのだが、それには理由があった。


 エルフたちの視線は、俺の隣にいるメメナに注がれている。

 メメナは腰に、魔導弓と、見た目以上に収納できる魔導ポーチを身に着けていた。


「メメナ様! どうかご無事で!」

「メメナ様! お身体にはお気をつけください!」

「メメナ様! どうかどうか――」


 メメナは旅の無事を祈られていた。


 エルフだけで故郷を守る必要ができた今、外界との交流は今まで以上に必要だ。

 橋渡し役として、外へ交流しに行くエルフを募集したのだ。


 そこで手をあげたのがメメナだ。


 当初みんなは反対したのだが、モルルが次期族長として十分に育ったこと。

 今までみんなを守っていたメメナの好きにさせたいと、誰もが考えたこと。


 そして、少女が根は自由奔放な性格であることを知っていたので、望みを叶えることにした。


「かあさま! かあさま! どうかどうか、ご自愛くださいませ……!」

「わかったわかった。なにも泣かんでも。

 せっかく綺麗に育った……やー、綺麗な女の子になったのじゃから」

「かあさまー‼」


 モルルは性癖全開にしながら泣いていた。


 ひとまずメメナは、ボロロ村の村長と、黄金蜘蛛のスタチューに会いに行く予定だ。

 それまでの護衛として、俺とサクラノが一緒に行くことになった。


 いなくなった精霊王を探す目的もあるらしいが、これはまあ建前だろう。


「――それではな、皆の者。息災じゃ」


 メメナは、エルフたちの顔を一人一人たしかめるように言った。


 エルフたちが別れを惜しむようにメメナを見つめている。まるで子供のように。

 メメナは彼らの視線を母親のような慈愛に満ちた笑みで受け止めていた。


 だが誰も引き止めはしない。

 全員、巣立ちのときだった。


「行こうか、兄様。サクラノ」


 俺たちにふりかえったメメナの笑みは、未知への好奇心であふれていた。



 そして、だ。

 俺たちはこのあと、またもや失踪するはめになる。

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