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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

巡合わせの神隠し

作者: もす

彼氏なし、友人なし、頼れる家族や親戚もおらず無気力に出勤している最中、唐突に社畜生活や待ち受けているセクハラクソ上司のくだらない説教などが全てどうでも良くなり、いつもとは違う方面の電車に揺られ数時間。

自分以外に周囲にスーツを着た人間がいなくなり、ぼんやりと流れる車窓を眺めていると、ふと潮の香りが少しずつ強まってきている事に気がついた。


蝉時雨の中、なにかに導かれるように辿り着いた海と山に挟まれた小さな田舎町で、不思議な雰囲気を漂わせた7歳程度の少女に懐かれ、少女に引きずられるように田舎町を堪能していた。

色彩鮮やかな緑や逐一変化する雲の峰、澄み切った一面の大海原など灰色一色の都会と比べたら天と地の差だろう。


太陽が頂上近くになり、普段碌に動かしていない体を動かしたからか、盛大に鳴った腹の虫が少女にも聴こえたのか、

「おねーさんお腹空いちゃったか。ちょっと待ってね、もう少しで家に着くから。そしたら、お昼作ってあげるね?」

「久しぶりのお客さんだから歓迎したいの。ダメ?」

と小さく首を傾げながら言われれば断れる筈も無く、半ば押し切られるように少し山奥に入った所にある小ぢんまりとした日本家屋に案内された。


家の中は誰の姿も見えなかったので少女の親御さんは仕事か何かでいないのだろうと思ったが、深く詮索はしないようにしておこう。

時折自分の周囲になにかが居るような気がしたが、見回しても何も見えず、嫌悪感なども感じる事もなく、少女も何も言ってこないのできっと気のせいだと思いたい。


ただ待っているのも申し訳なく思い、手伝いを申し出たが、

「おねーさんは今は待ってるのが仕事!」

「座って待ってなきゃお説教!」

と強制待機命令が出たのでアレルギー等は無い事を伝え、若干の落ち着かなさを感じつつもちゃぶ台の前で待つ事にした。


調理をする少女の後ろ姿からは微塵も危うさなど感じられず、普段から料理を作り慣れているであろう事が見てとれた。

風に揺れる風鈴や庭を横切る犬らしき小動物を見ていると、いつの間にか漂ってきた美味しそうな香りに腹の虫がまた騒ぎ出した。

「お待ちどうさま、いっぱい食べてね!」

「おかわりもあるからね」

そう言いながら少女は手早く配膳を終えるとちゃぶ台の反対側に座り、出来たばかりの昼食を美味しそうに食べ始めた。


少女に釣られるように食事に箸をつけ、かなり久しぶりに味わう誰かの手料理に舌鼓を打っていると、不意に涙で視界が滲んできた。


いきなり泣き始めた私に少女も驚いたようだが、理由をなんとなく察したのか即座に箸を置き、私の顔を自分の胸にうずめるように抱きしめると、赤子をあやすように優しく私の頭を撫で始めた。

「よしよし、良く頑張ったね」

「ここにはおねーさんをいじめるような奴はいないからね」

そんな事を言いながら私の頭を撫で続ける少女に、私は日頃溜め込んでいた愚痴や鬱憤をぶつけるように慟哭してしまった。


ひとしきり泣いた後顔を上げると、笑顔の少女と目があった。

「落ち着いた?」

その言葉に、今日初めて会った自分より遥かに年下の少女に抱きついて号泣したという事実を思い出し赤面しつつ頷いた。


温め直してもらった昼食を2人でまた食べ進めていると、

「そういえば、今日の夜お祭りがあるんだけど、おねーさんも行く?」

と少女が聴いてきた。

駅や町の一角でちらほら夏祭りのチラシを見かけたが、きっとそれだろう。

快諾すると、少女は嬉しそうに箸を進めていた。


昼食後も順調に引っ張り回され、気づけば空が紅に染まり、お囃子も風に乗って聴こえてくる中、私は少女に連れられて浜辺にやってきた。

「ここの景色ね、お気に入りなんだ!」

靴を脱いで海に入ると、足の間を通る波が引いていくごとに悩みもどこか遠くへ流されていく、そんな気さえした。


隣で貝殻を拾っていた少女を見ると、少女も視線に気づいたのかこちらに微笑み返してきた。

紅に染まったその笑みに、私はつい見惚れてしまった。

「なーにおねーさん、変な顔でこっち見て固まっちゃって」

「あ!もしかして顔に何か付いてる?」

私は首を横に振り、少女と笑い合った。


少女と手を繋ぎ、2人で祭の会場へ向かうと、少女の知り合いらしき人達数人が挨拶してきた。

皆親しげだったが、どこか少女を遠ざけているような、一定以上に踏み込まないように気を使っているような、そんな雰囲気を感じたように思えた。

「そんな怖がらなくても変なことしないのに、もー!」

挨拶をしてきた人達と別れた後、そんなことを少女は呟いていた。

声をかけてきた少女の知り合いは皆、年齢、性別などバラバラで統一感は無いもののどこかの民族衣装のような服装を着ており、なにかの動物を模した被り物を被っている人がいたりと、とても目立つ外見だった。

しかし周囲の人も気にした様子は無く、不思議と馴染んでいるように見えた。


りんご飴や射的、焼きそばや金魚すくい、お面に紐くじ、チョコバナナ、串焼きなど様々な屋台が並ぶなか、私はいつのまにか少女が買ってきた1本の綿飴を2人で頬張っていた。

その後も色々な屋台を一緒に回ったが、私が財布を出すよりも早く少女が2人分の代金を払ってしまうので、それには少し困ってしまった。


次こそ私が支払いをするという事を隣で並んでいる少女に伝えたが、微笑ましいものを見るような視線が返ってくるだけであり、結局支払いはさせてもらえなかった。

少女が財布代わりであろう巾着袋から、あまり見慣れない今より少し昔のお金を取り出していた事が不思議と印象に残った。

「この巾着欲しいの?これはお財布だからダメ。新しいの後で作ってあげるね?」

そういう意味で見てた訳じゃないんだけど…


祭も佳境に差し掛かり、盆踊りの櫓を囲む輪が3重目を作り始めた頃、祭の最後を飾る花火が盛大に打ち上げられた。

土手に座り夜空に咲く大輪の花束を見上げると、言い表せない寂寥感のようなものが胸を埋め尽くした。

少し手前に座った少女がこちらを振り返らずに、私に言い聞かせる様に呟いた。

「おねーさんさ、わざわざ嫌な思いをする為に帰らなくていいんだよ?」

「おいしいご飯も沢山作ってあげるし、無理やり朝早く起きなくてもいいんだよ?」

「時々お手伝い頼む事もあると思うけど、ずっとのんびり過ごせるから、ね?」

最後の方は嗚咽混じりの懇願であり、私は無言でただ抱きしめる事しかできなかった。


影を重ねてどれくらい経っただろう、それなりに長い時間のような気もするが、色彩豊かな光の花が散っていく端から咲き誇っているので5分も経っていないのかもしれない。

多少落ち着いたものの、未だ泣きじゃくっている少女に、私の思いを伝える事にした。


「え?おねーさん、帰りたくないけど、今日の宿の事を全然考えてなくて困ってた?」

「楽しかったからずっと一緒にいたい?」

「な、な〜んだ、そういう事はもっと早く言って欲しかったな」

「それなら家に泊まっていくといいよ!今日だけじゃなくて、明日も明後日もずーっと!」

冷静を振る舞いつつも喜色を隠しきれていない少女の頬を軽くつつきながら、私は少女と笑いあった。

2人共、今日一番の笑顔だっただろう。


祭の終了を告げるような特大の花火が打ち上がる中、立ち上がりこちらに振り返った少女の顔は不思議なほど妖艶だった。

花火を背負うその顔に、私は再び見惚れてしまい、唾を飲み込む事しか出来なかった。

「なーにおねーさん、変な顔で固まっちゃって」

「これからも変わらずよろしくね、おねーさん」

「あ、そうだ。自己紹介っていつもされてばかりでするのはほとんどしてなかったから、忘れてた。わたしの名前は     」


最後の花火が打ち上がる。

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