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四章⑤

5

 ブリジットの眉間にしわが寄った。エドワードの発言を受けてのものだろうが、その内心をアリスターは推し量れなかった。

 下手人は王室を狙っているというエドワードもといその主たる国王の読み。しかしそれには明確な矛盾がある。

「それならば昨夜、ランスロットだけに留まらず国王や他の王子連中も襲われているはずだろう。実際にそうした被害があったのか?」

「いいえ。そうした被害は一切ありません」

 不躾ともいえるアリスターの口ぶりにも表情一つ変えず、エドワードが答えた。

「ならば下手人の狙いはランスロット個人だったと考えるのが自然だろう」

「そうとも言い切れません。陛下の寝所などはランスロット殿下のそれと比べてもより厳重な警備が敷かれてありますので、下手人も断念したのかもしれません。あるいは昨夜はランスロット殿下のみを襲うことで、陛下や他の王室の方々に恐怖を与えようとした可能性もございます」

「それで王宮内に潜入している好機をふいにし、わざわざ警戒させる暇を与えたわけか。もしもそうなら下手人はとんだお人好しだな」

 アリスターが鼻で笑う。そんな彼の態度にもエドワードの表情は揺るがない。

「ご指摘はごもっとも。ただ他のあらゆる要素を排除し、ランスロット殿下が狙われたという事実だけを鑑みれば、やはり王室の方々の安全を確保することを第一とすべきでしょう」

「それは分かったわ。でもそれならどうしてエドワード、あなたがここにいるの?」

 ブリジットが眉間にしわを寄せたまま訊ねた。その瞳に宿る感情はーー明確な怒り。

 なるほど、とアリスターは頷く。ブリジットがいったい何に苛立っているのか、理解に至ったのだ。

 二色魔術師エドワード。ブリジットの魔術の師でもあった彼の実力は相当なもののはず。

 つまり彼は国王にとって側近中の側近、懐刀にも近い存在だ。次は自分が狙われるかもしれないこの状況で、その懐刀をブリジットのもとに遣わす意味とは?

 ブリジットが国王から深く鍾愛されている、ということならまだ理解できる。自身でなく我が子の安全を優先したのだろう、と。

 だが実態はそうではない。

 ブリジットから聞かされた話によれば、王室における彼女の立場はひどく弱い。王室にとって大事なのはブリジットという個人でなくその魔術の才覚に過ぎず、彼女はそのおまけでしかない。

 にもかかわらず国王はエドワードはブリジットに遣わした。それは彼女を守るためーー違う。

 彼女を見張るためだ。

 国王ひいては王宮は、ランスロット殺しの下手人としてブリジットを疑っている。

 たしかにブリジットならば赤色魔術によりランスロットの手足を引きちぎることは可能だろう。しかし赤・緑の二色魔術師である彼女では、黄色魔術の極致とも言うべき他者への自死の強制は不可能だ。

 王宮もそんなことは百も承知のはず。それでもブリジットに疑いの目を向けるのは何故か。

「どうしたの、エドワード。答えてちょうだい」

 ブリジットが重ねて言う。やがてエドワードは徐に口を開き、

「陛下のご命令です。それ以外の意味など必要ありますまい」

 これ以上の問答に応じるつもりはないということだ。

 ブリジットは「そう……」と呟いた後、席を立った。

「分かった。それじゃあアリスターくんの求めに応じて、王宮に行きましょうか。下手人の手掛かりを見つけられるかもしれないし、警護対象は固まっていたほうがいいでしょう!」

 挑発的な目をエドワードへ向け、ブリジットが言い放つ。

 もしも王宮がブリジットを疑っているという憶測が正しければ、この申し出は通らないはずだ。せっかく遠ざかった危険が再び接近するに他ならないのだから。

 はたしてエドワードは言った。

「申し訳ありません、ブリジット殿下。一時的にですが、殿下の入宮は禁じられております」

「あ、そ」

 直後、エドワードが消えた。

 赤色魔術により強化され、高速で振るわれたブリジットの右腕。それに捉えられたエドワードの身体は、花園の芝生に勢いよく吹き飛んでいったのだ。

「だったらいいわ、自分の足で行くから。年寄りはそこで寝てなさい」

「……おい」

 啖呵を切るブリジットに思わずアリスターが声を掛けた。

「そういうことなら、俺様に先に言え」

「このまま大人しくしてたらやってもない殺しの罪を被せられる。だから実力行使に出る。はい、言ったわ」

「先に、だ。まあ、それならそれでいい。話が早い」

 ブリジットにならい、アリスターも立ち上がる。それと同時に、芝生を転がっていったエドワードが起き上がるところだった。その顔には目立った外傷は見当たらない。

「不意打ちは失敗、か」

「お、おいおい……。マジでやる気かよ二人とも……?」

 いまだ席に着いていたライルが恐る恐るといった様子で声を発した。アリスターはエドワードを見据えたまま言う。

「貴様は他の者が入ってこないか見張っていろ。彼奴相手に戦力になるとは思っておらん」

「……そいつはずいぶんと懸命なご判断だな」

 言い置き、ライルは花園の出入り口へと駆けていった。言葉とは裏腹に状況判断の早さは流石だ。

「さてやるか」

「まさかあんたと共闘するとは思ってなかったけど」

「べつに俺様一人でもいいが、手早く済ませる必要があるだろう」

 講義中とはいえ、何者かが花園に出てくる可能性も否定出来ない。エドワードとの戦闘が見つかり、騒ぎになれば不利なのはこちらだ。

「念のため聞くが、彼奴は強いんだろうな?」

「ええ。……少なくとも、あたしよりは」

「ふむ。ならばいい」

 頷き、アリスターはエドワードへ向けてゆっくりと歩を進めた。

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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