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四章④

4

「な、なんだね君は。このクラスの生徒じゃないだろう」

 教壇に立つ教諭と思しき中年男性が胡乱な目をアリスターたちへと向けてきた。

 それを無視してアリスターは堂々と講義室を闊歩し、ブリジットが座る隣まで来たところで足を止めた。

 彼はブリジットの瞳を真っ直ぐ見つめ、言う。

「ブリジット、ランスロットの件は聞いたか?」

「……なんのことでしょうか?」

 外向けの仮面を着けたブリジットが楚々とした動作で首を傾げた。

 仮面の出来はさておき、答えた瞬間の彼女の瞳に映った揺らぎは、本当に何のことか分かっていないようだった。

 まだブリジットの元までランスロット暗殺の情報は降りていないのだろうか。

 しかしそうなると、一つ違和感が生まれる。

 ちらり、と。

 アリスターとブリジット、二人の目線がまるで図ったかのように同時にエドワードへと向けられた。

 侍従長たる彼がランスロット暗殺について知らないはずがない。なんなら彼がここにいる理由も、それをブリジットに伝えるためとすらアリスターは思っていたのだ。

 だが予想に反し、ブリジットはなにも聞かされていなかった。これはどういうことか。

 二人からの目線を受け止めたエドワードは、観念したかのように言った。

「場所を変えましょう」


 講義から途中退席し、一行は花園へと場所を移していた。

 ちなみにエミリーの姿はない。ブリジットに付いていこうとした彼女を、エドワードが制したのだ。

 爵位を持つという彼からの命令に逆らえるはずもなく、上げ掛けた腰をエミリーは渋々と下ろしていた。

「それで、どういうことでしょうか。ランスロットお兄様になにかあったのですか?」

 花園に設置された東屋の椅子に着いたブリジットが、仮面を着けたまま言った。

 ライルを仲間に引き入れたことを、アリスターは昨夜の帰り道でブリジットに告げていた。そのためこの王女然とした仮面は、エドワードに向けてのものだろうと推測する。

 東屋にはテーブルと四脚の椅子があったが、着席しているのはアリスターを含む学生の三人だけで、エドワードはブリジットの後ろに直立して控えている。

 問いに答えたのは、情報の出所でもあるライルだった。

「ライル・サラーと申します、殿下。もともとは俺の父親からの情報になるのですが……」

「存じていますよ、サラーさん。貴方のお父上ということは、陸軍中将殿からの情報ですね。十分信頼に値します。それと、そんなに畏まった話し方はおやめ下さい」

 ブリジットがそう言うと、ライルは待ってましたと言わんばかりにいつもの調子を取り戻し、

「そいつは助かる。じゃあ単刀直入に言うと、今朝王宮でランスロット殿下の死体が見つかった。それも見るからに殺されたと分かる惨殺体でだ」

「……は?」

 ブリジットの顔から仮面が消えた。その表情が驚愕に染まっていく。

「で、それをアリスター様に伝えたところ、だれが下手人か探るために現場を見たいな……って話になりましとさ」

「王女ならば王宮への出入りも容易だろう。よし行くぞ」

「いやちょっ……だから待ちなさいってば!」

 ブリジットが声を上げた。仮面を忘れたその声音に、思わずアリスターは彼女の背後に立つエドワードへと目を向ける。

 はたしてエドワードは「ふっ」と小さく笑い、

「お転婆なのは変わらないようですね、殿下」

「う、うるさいわねっ。こんな時に猫なんて被ってられないわよ。それよりランスロットが殺されたってどういうこと!? 本当なのっ? 誰に!?」

 一瞬顔を赤らめた後、食って掛かってくるブリジット。その様子から、どうやらエドワードは彼女の本性について承知しているらしい。

 話が早くて助かることだと思いつつ、アリスターが口を開いた。

「それを聞くべき相手は俺様たちではなかろう。どうなんだ、エドワード。貴様ならもっと詳しい情報を掴んでいるのだろう?」

「はて。何故そう思われたかな?」

 とぼけるエドワードに、アリスターは「はっ」と鼻で笑う。

「つまらん駆け引きはよせ。ライルが話す最中、貴様には一切の動揺がなかった。それでなくとも侍従長という貴様の地位を考えれば、王宮内における王室の殺害事件など把握してなければおかしい話だ」

「……なるほど」

 呟いたエドワードの気配が変わる。侍従としてあくまてブリジットの影に潜んでいた影の薄さから一転し、まるでその手に見えない剣を握っているかのような圧倒的な存在感を放っていた。

「……え」

 背中越しにもそれに気付いたのか、ブリジットが背後を振り返る。一方でライルは座りながらにして一歩後ずさっていた。

 アリスターをして肝が座っていると評価させる二人を、ただの気配で動かす。それがエドワード・マクシムという男の実力の証左なのだろう。

「さすがは未来の四色魔術師、なかなかの目を持っているようで」

「欲しいな」

 噛み合わない会話を経た後、ブリジットからの催促を受けてエドワードが言った。

「ええ。確かに今朝、王宮内にてランスロット殿下のご遺体が発見されました。その他にも二十人ほどの近衛兵の遺体もです」

「なんで先にそれを言わなかったのよ!?」

「言おうとしたところ『遅刻するから後にしてくれ!』と殿下からお叱りを受けましたので」

「……そ、そうだったかしら? まあ過去のことはいいから、続けてちょうだい」

 後半になるにつれ尻すぼみしていったブリジットの戯言を受け、エドワードが言う。

「なにぶん発見したのが今朝のことですので、下手人の特定などには至っておりません。ただ一つ考えられる危険性を摘むため、私が殿下のもとへ配属された次第です」

「危険性っていうのは?」

 ライルの問いにエドワードは簡潔に答えた。

「次に狙われる者、ということです」

 一瞬の間が生まれた。エドワードが自身の言葉を継ぐ。

「下手人は王室の方々を狙っている恐れがある。そうした懸念を陛下は抱いておられます」

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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