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四章②

2

 一瞬にして後方へ流れ去っていく王都の景観。常人であれば道行く人々の顔などろくに識別できない速度だが、赤色魔術により強化した動体視力をもってすれば、瞳の色まで見極めることが可能だった。

 その代わり脚力については何の強化も施してはおらず、先行するアリスターにライルはすぐ追いついてきた。呼吸も大きくは乱れておらず、その身体能力の高さはあらためて評価に値する。

 駆ける足を止めることなくライルが口を開いた。

「ってか人探しって、アリスター様は誰を探してるんだよ」

「メディアだ」

 昨夜明かしたばかりのその名に、ライルは分かりやすく血相を変えた。

「メディアって……最悪の魔女かよっ!? なんだってこんな時に……!」

「その名で呼ぶな。今朝起きたら姿が見えなかったんだが、理由は知らん。それでライル、貴様のほうはどうした。詳しく話せ」

 角を曲がる。市場へとつながるその通りは朝だというのに多くの人混みに溢れ、さすがに駆け抜けることは出来ない。仕方なく早歩きへと足を緩め、アリスターは目を光らせながら人混みをかき分けていった。

「……ああ。これは今朝、親父から聞いた話なんだが」

 周囲に耳目があるためだろう、ライルは声を潜めるようして言った。

「ランスロット殿下が王宮内の自室で……殺されていた。それもその死体は手足をまるで力づくで引きちぎるように切断されていたらしい」

「ほう」

 昨日対面したランスロットの姿を思い返す。

 細身ではあったが、陸軍に籍を置いているだけあって最低限の筋肉は備えていた。そうでなくとも大の大人の手足を引きちぎることなど、常人には不可能だ。

 唯一、腕力強化を施せる赤色魔術師を除いて。

 しかし何故下手人はただ殺害するに飽き足らず、手足を引きちぎるなどという殺害方法を取ったのか。

 仮に赤色魔術師が下手人だとしても、単純に殴り殺せばいい。もしくは武器を用いれば、より犯行は容易となったろうに。

「ちなみに引きちぎられた彼奴の手足はどこにあったんだ?」

「そのまま部屋の中に放置されていたらしい。細かくどこかまでは分からねぇけど。……少なくとも持ち去られたりはしていない」

「そうか。ならば目的は、強い憎しみと考えるのが自然か」

 もしもランスロットの手足ーー特に手が持ち去られていれば、それが下手人の目的だった可能性が高い。指にはめられた指輪を盗もうとしたが抜けなかった、あるいは下手人を特定し得る物証をランスロットが死の間際に握り締めたなど、手を持ち去る理由ならばいくらでも考えられるからだ。

 もっとも下手人が赤色魔術師であることを考慮すれば、それら理由のほとんどは成立しないが。

 なんにせよ、殺害方法についてこれ以上論じる意味はない。

 それよりも大きな疑問があった。

「ひとまず下手人は赤色魔術師だと仮定しよう。しかし相手は一国の王子だ。移動中を襲うのならばともかく、その寝首を掻くなど普通は出来まい。王宮内ならば寝ずの番も相当数いたのだろう」

 昨日遭遇した近衛兵はただの人間でなく魔術師だった。その技量は定かではないが、数十人規模の魔術師による警備をどのようにして下手人は掻い潜ったのか。

「……だから殺られた」

 ライルが呟く。その表情はまるで血の気が引いたように顔面蒼白となっていた。

「なんだと?」

「夜間の警備にあたっていた近衛兵の全員、二十人の魔術師も殺されてたんだ。……正確には"死んでいた"」

「死んでいたとはどういう意味だ。下手人が忍び込むより前にその近衛兵どもは毒なりで殺されていたのか」

 訊ねるが、ライルはふるふると首を振った。

「俺も聞いた話だから、正直信じられねぇんだが……」

「その前提は知っている。勿体つけるな、言え」

 アリスターに促され、ライルが口を開く。

「自殺、していたらしい。王宮の廊下で、左右二列に分かれて整列するようにして、全員が短剣を自分の喉元に突き刺してよ……」

 馬鹿な、とアリスターは絶句した。

 王宮の守護を任された近衛兵が、下手人の脅しに屈し自害するとは考えられない。そんな近衛兵たちに自害を強要する術があるとすれば、思い浮かぶのは一つだ。

 黄色魔術による制御。人間を対象に、その意思を奪い、特定の行動を強制させる。しかもおそらくは二十人の近衛兵の全員を同時に。

 理屈としては理解できる。しかし現実として、そんなことが可能なのかとアリスターをもってしても疑問に思わされた。

 あらゆる生物は生まれながらにして魔術に対する抵抗力を有している。そのためいかに黄色魔術といえど、生物の行動を制御することは至難の業といえた。

 あるいは小動物を対象に、簡単な芸をさせる程度の制御であれば可能かもしれない。

 しかし人間を対象に、なおかつ自身の命を奪わせるなどという最大の抵抗を伴う制御など、アリスターを含むだれにも不可能だ。

 ただ一人の例外を除いて。

「……メディ」

 王国最強の四色魔術師。家族であり、師でもあるその名がアリスターの口からこぼれた。

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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