表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/62

三章③

3

「解せんな」

 ランスロットの長広舌とは対照的に、アリスターは端的に言い返した。

「そこまで俺様が欲しいと言うのならば、なぜその男に襲撃させた?」

 アリスター個人の感情としては、襲撃されたことに特段怒りを覚えてなどいない。むしろレイリーが見せた見事な戦術にはいっそ感銘を受けたほどだったが、それはそれ、だ。

 欲する人材に危害を加えんとしたランスロットの指示には、明確な矛盾がある。その真意はなんだったのか。

「それについては、すまない。きみを試させてもらったわけだが、いまのとなっては弁解の余地もあるまい」

 ランスロットが小さく頭を下げる。言動とは裏腹に、その表情から謝意は伝わってこなかった。

「レイリーはもともと大陸中の戦地を駆け巡る傭兵でね。重ねてきたその武功に目をつけ、私のもとに士官してもらった。非魔術師だが、魔軍の一兵卒ごとき相手にもならない強者だよ」

「その男の強さならよく知っている。が、俺様は配下自慢をしろと言ったのではない」

 声音に苛立ちを滲ませ、アリスターが言う。ランスロットは肩をすくめ、悪びれることなく続けた。

「たしかに私は四色魔術師が欲しいと願った。ただそれは、将来有望な若者という意味ではなく、すぐさま私の役に立つ即戦力が欲しいという意味だ。だから、はたしてきみが後者たりえるかどうか、レイリーを通して試験させてもらったわけさ」

「簡単に言ってくれるが、貴様の言う試験とやらに落ちるということは、死を意味するわけだ」

「殺せ、とまでは言ってないよ」

「殺すな、とも言われてませんがね」

 レイリーが口を挟む。ランスロットは彼に横目で一瞥した後、両手を広げて言った。

「まあいいじゃないか、過ぎたことは。それに、きみが遅れを取ることなど万が一にもない。そうだろう?」

「無論だ」

 しかしだからといって看過できることでもない。

 戦闘中に見せたレイリーの攻撃。初撃の不意打ちも含めたそれらには、明確な殺意が込められていた。アリスター相手に手心など加えていられない、というレイリーの判断だったのだろう。

 その判断自体は妥当なもので、アリスターとしても理解できた。そこに怒りは覚えない。

 やはり気に入らないのは、そのような状況を生み出した張本人たるランスロットだ。

 この憤りを向ける前に、アリスターはもう一つの疑念をぶつけた。

「件の魔女になれと言ったな、この俺様に」

「変わった表現をするね。それが最悪の魔女のことを指しているのなら、その通り」

「ならば俺様も、用済みとなれば切り捨てるか?」

 出来るものならやってみるがいい、という気迫を言外に含め、言い放つ。

 ランスロットは両手を掲げる降参の姿勢をわざとらしくも取り、

「まさか。私を祖父や父と一緒にしないでくれ。そもそも『彼女』を“最悪の魔女”などと呼ぶ状況を作ったこと、それこそが彼らの誤りであったというのが私の考えさ」

「なんだと……? どういう意味だ」

訊ねる声がほんの微か上擦る。そんなアリスターの反応にランスロットは小さく笑みを浮かべた。

「そもそも、どうして『彼女』を“最悪の魔女”として処刑するに至ったか、きみは知っているかな?」

「……この国を裏切った、という流言飛語ならば聞いたことがある」

 実際のところメディアは存命であるわけだが、いまそのことについて抗言する意義はあるまい。

「そう。だがその詳細は明らかにされておらず、噂程度の話しか世間には流れていない。そのように王宮が情報統制をしたからね」

「勿体つけるのはやめろ。王室の身分である貴様ならば、その詳細を知っているのだろう。さっさと言え」

 アリスターが苛立ちを露わに詰め寄る。さすがにランスロットも一瞬眉をひそめたが、すぐさま表情に余裕の色を浮かべ、続けた。

「その通り。戦勝の大功労者として厚遇をもって王宮に迎えられた『彼女』は、とある魔術の研究に取り掛かった。その内容というのが死を超越すること――不死の魔術だったらしい」

「不死?」

「そう。まあ、古今から権力を握った者が求めるものではあるし、魔術を極めた『彼女』がそれを求めたとしても不思議ではない」

 訳知り顔で語るランスロットに対し、アリスターの胸中では違和感が渦巻いていた。

 不死? あのメディアが、はたしてそんなものを望むものだろうか?

 アリスターの中に確固として存在するメディアの実像と、ランスロットの語る彼女の姿が一致しない。

「だから当時の国王――つまり祖父も特段問題視はせず、研究用としてこの部屋も宛がった。そうしてしばらく任せていたんだが、ある日その研究の具体的な内容を知り、祖父は血相変えたらしい」

「具体的な内容? 不死の魔術だろう」

「そのための手段、と言ったほうがいいかな。『彼女』は不死の魔術を開発するために、生きている人間を利用していた。人体実験というやつさ。その対象は当時戦禍により王都にあふれていた孤児たちだった」

 孤児。その言葉に、アリスターの脳裏を覚えていないはずの記憶がよぎる。

 メディアがかつての王都で、赤子であるアリスターを拾い上げる場面だ。

 そこに二人以外の者は存在せず、言うまでもなく他者の血など一滴も流れていない。

 が、

「そうして何百という孤児たちを研究のため消費――殺していたことが分かり、祖父は『彼女』の処刑を決めた。それが事の顛末さ」

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


『ブックマーク』と『いいね』をいただければ嬉しいです。


また、もしもお気にいただけたなら、評価もお願いします。

下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価ができます。最小★1から最大★5です。

『★★★★★』なら、なによりの喜びです(╹◡╹)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ