二章⑫
12
「えーっと、つまりその女の子がアリスターくんの魔術の先生……ってこと?」
落ち着きを取り戻し、アリスターからの説明を聞き終えたミアが半信半疑といった様子で訊ねる。ちなみにメディアはミアから距離を取り、アリスターの背に隠れながら顔を覗かせていた。
「でもその子、幼女だよ?」
食卓の椅子に座りながら、ミアが小首を傾げた。アリスターの肩に置かれたメディアの手に力が入り、少し痛い。表現はさておき、ミアの疑問については察しがついた。
「メディアが幼女なのは、見た目だけの話だ」
説明を加えると、メディアが爪を立てて握り締めてきた。かなり痛い。
「まだ赤子だった頃、俺様はメディに拾われた。それから数年し物心がついた頃、つまり俺様が記憶する最古のメディの姿も、いまと全く変わらない。ざっと十年以上前から同じ容姿を維持し続けているわけだ」
成長も老化もしないその姿は不老不死を思わせ、彼女が人智を超えた存在であることのなによりの証左だった。なぜその姿がミア曰く“幼女”のもので固定されているかはアリスターにも不明だが。
説明を聞き終えたミアは目を見開き、唇を震わせながら言う。
「つまりメディアちゃんは、こんなに幼い外見をしておきながら、本当はあたしたちよりずっと年上の大人ってこと……?」
「そう言っている」
「……合法ロリ」
ぽつりとミアが呟く。その言葉の意味が掴めず、アリスターは困惑げに眉をひそめた。
直後、
「きゃあーーー!! なにそれ最強じゃん! 最強属性持ちだよメディアちゃん!」
勢いよく椅子から立ち上がり、両手で口元を覆うミア。突然の反応にアリスターとしては呆気に取られるばかりだ。
「う、うむ。まあ、間違ってはいないな」
たしかにメディアは最強の魔術師であり、アリスターと同じく四色魔術師という最強の属性持ちでもある。しかしいまの会話から、どうしてミアはそのことを見抜けたのだろうか。
謎は深まる一方だ。しかしアリスターがそれを問い質すより前に、ミアが動いた。食卓を回り込むようにし、アリスター……ではなくその背後に隠れるメディア目掛けて駆け寄ってくる。
「とりあえず! とりあえず一回、ぎゅってさせて! そのサラサラな髪、結ってあげる! ねっ、ねっ!」
「ひぃぃ……!?」
ミアの剣幕に気圧されたのか、メディアが悲鳴を上げた。駆け寄ってくるミアから逃げるため、これまた食卓を回り込むように駆け出す。
「待ってよメディアちゃーん!」
「なな、なんなのよあなた……!」
ぐるぐる、ぐるぐる、と。アパートメントの狭いキッチンを舞台に、食卓を中心にした追いかけっこは何周か続いた。
滑稽と言えばあまりに滑稽なその光景を前に、アリスターは内心で大きな衝撃を受けていた。
これまでメディアと過ごしてきた暮らしの中で、これほどまでに感情豊か(その種類はさておき)な彼女を見ることはほとんどなかったからだ。
農村において村人たちと接する時やこのアパートメントを借りた時など、そうした場面においてメディアはその見た目ではなく実年齢相応に落ち着いた振る舞いを見せてきた。彼女が素の顔を見せるのはアリスターと二人きりでいる時に限られ、それでもここまで感情を露わにすることなどなかった。
にもかかわず今日会ったばかりのミアにより、メディアは新たな一面を見せている。いったい彼女のなにが、メディアにそうさせているのか。
「こ、こらアリー! 見てないで助けなさいっ」
「ん……あ、ああ」
メディアの声に思考を中断し、アリスターは右手を振るった。背後を駆け抜けようとしていたミアの首根っこを軽く掴み、その足を止める。
「ぎゃっ」
「落ち着けミア。出会って早々、俺様の師を追い掛け回すな」
「で、でもそこに合法ロリがいるんだよ……?」
ミアが真剣な目をして訴えてくる。まずその言葉の意味を聞くところから始めるアリスターだった。
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