二章⑪
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「ここだ」
アリスターは二階建てアパートメントの前で立ち止まり、そこを親指で示した。
所々に汚れの目立つ土壁。主な建材である木が半分腐っているのか、踏めば軋んだ音を響かせる床。建て付けが悪く、開けるのにもちょっとしたコツを要する扉。
そうした特徴を有するアリスター宅を前に、ミアはぽかんと口を開けて呆けていた。
「……ここなんだぁ」
「うむ。遠慮するな、入れ」
慣れた手つきで扉を開け、ミアに入室を促す。彼女は一瞬だけ躊躇するような素振りを見せた後、「お、お邪魔しまーす」と足を踏み入れた。
扉の先には申し訳程度の玄関があり、正面に二階へと続く階段、左手に廊下が伸びている。アリスターの住まう部屋は一階のため、廊下を進む。
廊下の最奥、自らの部屋へと続く扉を開け、その中へミアと共に入る。
食卓に突っ伏しているメディアの姿が視界に入った。
「おいメディ起きろ。帰ったぞ」
メディアに歩み寄り、その肩を揺らす。彼女は「みゅう……」と目をこすりながら、顔を上げた。
「……えーと、アリスターくん?」
扉の前に立ち竦んだままミアが声を発する。顔だけをそちらへ向けると、彼女はメディアを指差し、
「その子は、アリスターくんの妹さん、とか?」
「いや、違うが」
「それじゃあ……ご近所の子とか?」
「近所に住んでるだけの他人が家で寝てたら怖いだろう」
質問に対し、アリスターは律義に答える。にもかかわらずミアは一歩後ずさり、唇を震わせながら声を上げた。
「そ、そそれじゃあ……! まままさか誘拐とか……!?」
「……あ?」
どういう思考を経てかはさておき、とんでもない誤解をされていることだけはわかった。自身の名誉のため、アリスターは口を開いた。
「なにがどうなって、この俺様が誘拐犯になる?」
「だ、だって! 妹でもご近所さんでもないこんな小さくて可愛い子がお家にいるなんて、それもう誘拐以外にないじゃん!?」
それはさすがに理論が飛躍し過ぎではないだろうか。
「ダメだよ、アリスターくん! どんなに可愛くても、子どもはダメ! それは趣味とか好みじゃなくてただの罪だからね!」
メディアの肩を掴み、アリスターから引き離すミア。強引なその所作にメディアがあからさまに眉を顰める。
「アリー、なにこいつ」
不機嫌さを一切隠さない声色でメディアが言った。アリスターが答えるより前に、ミアがメディアの肩を抱きしめながら叫ぶ。
「もう大丈夫だからね! お姉ちゃんが助けてあげるから!」
「……アリー、あたしが許すわ。この女をぶち殺しなさい」
心底鬱陶しそうな顔を浮かべるメディアに、アリスターは小さく首を振る。
いくらメディアの頼みでも、初めてできた友人を問答無用でぶち殺すわけにはいかなかった。
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