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一章②

2

 ヴェルランド王国は大陸中央部に位置する小国だ。東西の大国に挟まれたこの国は絶えず侵略の脅威に晒され、二十年前に起こった戦争時には亡国の危機にすらあった。

 そんなヴェルランド王国が今日も独立を保っていられる要因、それは他国と比べて特に秀でた魔術師戦力によるところが大きい。人口差から単純な兵力における彼我の差は明らかである一方、実戦に耐えうる魔術師の数において王国は他国を圧倒していた。

 もちろん一人前の魔術師が畑から生えてくるわけもなく、それらはすべて王国が国策として育成してきた人材に他ならない。

 幼少期から魔術の素養を有するか否かの(ふるい)が掛けられ、才ある者への魔術教育を施してきたのだ。

 その教育過程における最高学府――十五歳より入学の認められるその校名を『ヴェルランド王立魔術学院』という。


 宝の山だな、とアリスターは自らの周囲で整列する生徒たち――同級生を前に心中で舌なめずりをする。

 学園施設の一つである講堂にはおよそ二百名の少年少女たちが集められていた。学校というものに始めて入学するアリスターにとって、人生初の入学式である。

 檀上では学長らしき老人が長々と講釈を垂れており、それを聞き流しながらアリスターは、成人男性と比べても頭一つ分高い長身を活かし、周囲の生徒たちを見回していた。

 この場にいるということはすなわち王国中の、少なくとも同世代においては最も魔術の才覚に富んだ者たちということだ。現時点における能力はさておき、そこには無限の可能性がある。

 欲しいな、と思わずにはいられない。アリスターの目的のためには、少しでも多くの、有能な人材が必要だ。

 ふと目線がぶつかった。相手はアリスターから数メートル斜め後ろに立つ男子生徒。アリスター以上の長身で、褐色の肌を持つ彼はかなり目立つ存在であった。にやり、と口の端を上げるその男子生徒の表情に、アリスターもまた笑みを浮かべる。

 魔術の才覚は知る由もないが、あの恵まれた体格……欲しい!

「……続きまして、新入生代表の挨拶へと移ります」

 檀上端に立つ司会らしき男が言った。その内容に思わずアリスターは声を上げる。

「新入生代表? なんだそれは」

「ほら、よくあるあれでしょ。入学試験の成績優秀者が挨拶するやつ」

 答えは真横から飛んできた。目を向けると、そこには小柄な女子生徒。

 栗色の髪は肩辺りで切り揃えられ、一見して活動的な印象を覚える。同世代の女子生徒としては小柄な彼女はアリスターを見上げ、小さく微笑んでいた。

「よくあるのか、そんなものが」

「あれ知らない? 入学式あるあるだと思うんだけどなぁ」

「俺は入学式というものに出るのはこれが初めてだからな」

「え、嘘! 初めて? 本当っ?」

 目を丸める女子生徒。コロコロとよく変わる表情だ。

「しかし挨拶か……困ったな」

「どうしたの?」

「いやなんの用意もしていないからな。まあ即興でやるしかないか」

「新入生を代表する気満々!? なにがどうしてそんな結論に至ったの!?」

「ん? 成績優秀者が挨拶するんだろう?」

 だとすれば俺以外の適任者がいるとは到底思えない。アリスターの本心からの言葉に女子生徒は乾いた笑みを浮かべ、

「羨ましいくらいの自信っぷり……。でもたぶん、代表はきみじゃないと思うよ」

「なに――」

 アリスターの疑問の声を遮るように、司会の声が響いた。

「新入生代表、ブリジット・ヴェルランド!」

「はい」

 一人の女子生徒が登壇する。炎のような煌めきを放つ長い赤髪をたなびかせ、彼女はこちらを向き、挨拶を始めた。

 横の女子生徒が小声で囁く。

「ね? きみがどんなに成績優秀か知らないけど、今年はあの方――この国の第三王女のブリジット様がいるから。あの方の入学が決まった時点で、新入生代表も自動的に決まったんだって」

「王女、だと……」

 思いもよらなかった展開に、ほんのわずか、アリスターの胸中を動揺が走った。

 が、すぐに判断する。

 なんと好都合だろうか!

 アリスターがこの学院に入学した理由。絶対に実現すると誓った目的――この国を転覆させるにあたり、王室の人間を手中に収めることが出来ればこれ以上の助けはない。

 欲しい。欲しい、欲しい! 彼女――ブリジット・ヴェルランドが欲しくて仕方ない。

 抑えきれないその衝動に、アリスターは従った。

「――この学園に入学できた歓びを胸に、今後もより一層の精進を」

「ブリジット王女!」

 新入生代表の挨拶の最中、アリスターは声を張り上げ、それに割って入った。

 檀上で呆気に取られるブリジットと目が合うと、アリスターは不敵に笑い、衝動のまま叫ぶ。

「俺の名はアリスター・ドネア! 俺はお前が欲しい!」

 一瞬の間。

 直後、悲鳴と嬌声が講堂に響いた。


ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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