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二章①

1

 アリスター・ドネアはよく夢を見る。

 実現を願う将来の妄想に耽っているのではなく、睡眠時に訪れる幻覚のことだ。

 毎夜見るその夢の中でもアリスターは、メディア・スターと共にいた。彼女の容姿は現実のそれとまったく同じものだが、その雰囲気は大きく異なる。夢の中の彼女には普段見せる可愛げがなく、代わりとして常に怯えた目をしていた。

 所詮は夢の中でのこと、彼女が怯えている理由など細かな事情はわからない。だが、彼女が誰に怯えているかだけははっきりと伝わってきた。

 メディアが怯える相手――それは隣に立つアリスターだ。

 そんな彼女を引き連れ、アリスターは戦地を駆け巡っていた。どこの国とも知れぬ敵兵に放つ強大な魔術。その威力は凄まじく、現実のアリスターすら遠く及ばない次元であった。

 戦争と呼ぶにはあまりに一方的なその虐殺を行いながら、しかし夢の中のアリスターは、愉しんでいた。

 自身の一存によって他者の生命を踏み潰すことができる優越感。それに身を委ねることの多幸感。

 夢でありながらそうした感情は強い粘着性を持ってアリスターの心に絡みつき、離そうとしない。纏わりつくそれらを強引に振り払った時、決まって夢は覚め、アリスターの意識は覚醒する。


「……朝か」

 誰にともなく呟き、ベッドから起き上がる。隣でまだすやすやと寝息を立てるメディアに視線を落とすと、自然と頬が緩んだ。

 足音を立てず窓へと近寄り、そっと開け放つ。早朝の涼やかな空気を胸一杯に吸い込む。

「うむ。今朝も清々しい、良い朝だ」

 目覚めたアリスターには、夢を見ていたという記憶ごと消失しているのだった。


 ※※※


「おっす、アリスター様」

 学院生活二日目。アリスターが校門をくぐったところで声が掛かった。声のしたほうへ目を向けると、ライル・サラーが街路樹に背を預けながら片手を上げていた。

 たまたま居合わせた、という様子ではなく、わざわざ待っていたのだろう。アリスターは歩を止めることなく、応える。

「うむ。出迎えご苦労」

「おう! ……っていや、べつにお出迎えするために待ってたわけじゃねえんだけど」

 アリスターの傍らへとライルが歩み寄ってきた。二人は横並びにして校舎へ続く舗装路を進んでいった。

「そうか。貴様が出迎えてくれたと思って、俺様は嬉しかったのだがな」

「なんっ……!?」

 前を向いたままアリスターが言うと、ライルはのけ反るようにこちらを凝視する。褐色をした彼の顔が、ほんの少し赤くなっていた。

「お、おいおい勘弁してくれアリスター様。落とす相手が違うだろ。そういうのはあそこの女子たちに言ってやれよ」

「あそこの女子?」

 ライルが目線だけを右手へと動かす。釣られてそちらを見やると、二人組の女子生徒が遠巻きからアリスターたちをうっとりとした表情で眺めていた。

 アリスターと目が合うと彼女は顔を赤らめ、さっと顔をそむけた。実に不審な反応である。

「やつらはライル、貴様の知り合いか」

「いや? まあほら、アリスター様は言うまでもないとしてさ、俺も結構目立つほうだからな~」

 目線をライルへ戻すと、彼は笑顔を浮かべながら女子生徒たちにヒラヒラと手を振っていた。

 ふと湧いた疑問を口にする。

「目立つのか、俺様は」

「……いやいや、さすがのアリスター様もそれくらいの自覚はあるよな?」

 もちろんそんな自覚はなく、アリスターは首を傾げる。隣でライルが「嘘だろ……」と驚愕の表情を浮かべ、その場で立ち止まってしまった。無視して歩き続ける。

 少しした後、駆け寄ってきたライルが慌てた様子で、

「危ねえ、危ねえ。思わず意識が飛んじまった」

「大事に至らずよかったな。……なんだ、あれは」

 前方――校舎前にできた人だかりが視界に入り、アリスターの口から思わず声が漏れた。答えを期待していたわけではなかったが、意識の戻ったらしいライルが声を返してきた。

「そうそう、あれだよ。校舎に着いた俺が、わざわざ校門まで戻ってアリスター様を待ってた理由」

「どういうことだ」

「意味があるかは知らんけど、一応、忠告しといてやろうかなって」

 忠告? 誰が、誰に対して? なんのために? いくつもの疑問符がアリスターの頭を駆け巡る。

 と。

「うおっ、来た!」

 人だかりの最後尾に立つ男子生徒がアリスターの接近に気付き、声を上げた。男子生徒は飛び退くようにその場を離れ、アリスターに道を譲る。

 それからの光景はなかなか見ものであった。

 彼の動きが伝播し、人だかりを形成していた数十人規模の生徒たちが順番にこちらを振り返る。すると彼らは一様に驚きの表情を浮かべた後、アリスターに道を譲っていくのだ。

 結果、人だかりは左右二つに割れ、校舎へと続く一本の道がアリスターの前に現れた。

 その先、校舎前に立っているのは二人の女子生徒だ。見知ったその顔を確認し、アリスターは「ほう」と声を上げる。

 待ち構える女子生徒の片割れ――ブリジット・ヴェルランドは、そんなアリスターの反応ににっこりと笑みを浮かべ、言った。

「ごきげんよう、アリスターさん」

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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