間接キスと人魚
これが間接キス……
血が頭に上りすぎて意識が飛びそうになるが、なんとか踏みとどまる。
初めての間接キスはペンネグラタンの味とスプーンの金属の味がした。
その後も、依織が嬉しそうにスプーンを口に運んでくれるので、なにも言うことは出来ずに、最後まで食べさせてもらった。
「おいしかったですね」
「うん」
さっきから俺は「うん」しか言えていない気がする。
依織と水族館に来て、手を繋いでランチを食べさせてもらって、間接キス。
あまりに現実感が無さすぎて、頭の理解が追いつかない。
こんなことが俺の人生で起こって大丈夫なのか?
これじゃあまるでリア充みたいじゃないか。しかも相手は依織だ。
俺が想いを寄せていた高嶺の花とも言うべき相手。おそらく学校でも一番人気のある女の子だ。
しかも、明らかに依織からも好意を寄せてくれているのがわかる。
舞い上がってしまうのも仕方がないことだろう。
だけど、この好意は付き合っている相手に向けてくれているものだ。
依織の中で、俺は好意を向けるべき相手だが、俺は違う。
本当は、俺は違う。
初めは純粋に依織の助けになりたい。そのためなら恋人のふりをしようと心に決めた。
だけど、俺はそんなに強くない。鉄の意思を持っていれば揺らぐことはないのだろうが、俺にはそんな高尚なものはない。
実際に依織と一緒に生活して、こんなに笑顔で好意を向けられたら揺らいでしまう。
「睦月さん、どうかしましたか?」
「うん、どの魚にしようかな〜って考えてたんだ」
「あ〜、わたしはやっぱりあのアザラシみたいなお魚さんがいいかなと思ってるんですけど、このあともっとお気に入りができるかもしれません」
「そうだな。俺はイルカにしようかな」
「睦月さん、イルカは魚じゃないです」
「まあ、水族館にいる生物ってことでおまけしてほしいな」
「わかりました。それじゃあ、魚以外でもいいことにしますね」
「そうしてもらえると助かる」
ランチを終えたので、再び水槽展示に戻ろうとするが、立ち上がって進もうとすると、依織が自然に手を繋いできてくれた。
その俺よりも小さな手を少しだけ強く握ると、依織も少しだけ強く握り返してくれた。
「睦月さん、あれってマナティじゃないですか?」
「ああ、そうみたいだな。俺にはジュゴンと区別がつかないけど」
「たしか尻尾のひれの形が違ったような気がします」
「そうなんだ。くわしいね」
「人魚のモデルっていわれているので興味があったんです」
この生物が人魚のモデルか。
マナティは水の綺麗なところにいるイメージなので、この生物を人魚と間違えるのは無理があると思う。
依織が海を泳いでいたら人魚と間違えるのも納得だけど、マナティはひれの感じ以外は人魚要素を感じることができない。
「顔もかわいいですね」
う〜ん、かわいいといえばかわいいのか?
正直よくわからない。
依織はかなり気に入ってようでずっとマナティが泳いでいる姿を嬉しそうに眺めている。
人魚のモデルを眺めている本物の人魚といった感じで圧倒的に依織の方がかわいい。




