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34 オッサンとくまさん

天使と見間違えてしまうような意中の女の子がゼロ距離で抱きつきついてきているのだから、健全な男子高生としては当然といえば当然だ。

だが、まずい。

このままでは、絶対にまずい。

俺は必死に煩悩を振り払うべく精神を集中させる。

俺に抱きついてきているのは、オッサンだ。知らないオッサンが俺に抱きついてきているんだ。

この柔らかい感じは………太ったオッサンだ。

それしかない。

今までの人生でオッサンが抱きついてきていることを想像したことも望んだこともないが、この時ばかりは必死の思いでイメージした。

オッサン。オッサンだ。

イメージを固めようとするが、俺に抱きついてきている依織の感じといい匂いが俺のイメージを邪魔する。

どうしても、依織をオッサンだとは思えない。

くっ……どう考えても無理がある。

俺はオッサンを諦め、ここ数日培った石のイメージに切り替える。

俺は石だ。無機質な石。強固な石だ。

そう頭の中で繰り返すが、


「くまさん……」


依織の寝言がひとこと耳に入った瞬間、全てのイメージは霧散してしまった。

もう無理だ。

このままだと本当にヤバい。

もう限界を迎えつつあるのを感じて俺は覚悟を決めた。


「依織、起きて。依織」

「う、う〜ん。くまさん」

「依織、くまじゃないんだ。睦月だ。起きて」

「くまさん。睦月くまさん」


依織の中で俺はくまさんになっているのか。依織の寝言があまりにかわいいので平時であればいくらでも聞いておきたいところだが、今は緊急時だ。


「依織、俺はくまじゃない。朝だぞ! 起きて!」


声を少し大きくして依織へと呼びかける。

依織が声に反応したのか一瞬腕の力が緩んだのでこのままいけると思ったのが甘かった。

一瞬緩んだと思ったのに次の瞬間再びぎゅっとされ、しかも俺の胸で依織が頬擦りしてきた。

俺の心臓はほぼ活動限界寸前まで大きく跳ね、今までに味わったことのないような幸福感が襲ってくるが、これ以上は無理だ。


「依織〜! 起きて〜。朝だ〜!」

「う、う〜ん睦月くまさん、朝ですか?」


俺の必死の呼びかけに、ようやく依織が目を覚ましてくれたようだが、まだ半分寝ぼけているみたいだ。


「そうだよ。朝だ! 朝だから起きて〜!」

「あ……はい。あれ……くまさん。えっ……睦月さん」

「そう、俺だよ。おはよう依織」

「え……あの……これって。すいません。本当にごめんなさい。わたし……」


依織が目を覚ましてようやく現状を把握してくれたようだが、想像を超える事態に依織もフリーズしてしまったのか、ゼロ距離で俺を見つめ依織の時が止まった。

永遠にも感じる数秒間が経過していく。


「依織、腕を……」

「あ、はい」


沈黙に耐えきれなくなって依織へと声をかける。

我に返った依織がゆっくりと腕を離してその場からゆっくりと起き上がるが、元々色白の依織の顔が文字通り茹で蛸のように真っ赤に染まっていく。

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