26 クリティカルヒット
明日HJ文庫モブから始まる探索英雄譚4発売です!
よろしくお願いします。
「依織、風呂空いたから」
「はい、それじゃあいただきますね」
入れ替わりで依織がお風呂に入っている間は、とにかく心の無い石になるしかない。
当然お風呂の水音やシャワーの音が聞こえてくる。
これは川と滝の音だ。いや大雨の音だ。
ひたすら自分にそう思う込ませようと雑念を払い集中しようとするが、集中すればするほど依織の気配を感じてしまう。
自分が入る時はよかったけど、終わってからが厳しい。
本来リラックスできるはずのお風呂が苦行だ。
俺が一人でもがき苦しんでいると、しばらくして依織がお風呂から上がってきた。
「睦月さん、どうかしましたか?」
「いや、なにもないよ。ちょっと瞑想していただけだから」
「瞑想ですか」
「気にしなくていいから」
「そうですか。それならいいんですけど、明日はどうしますか?」
「俺は、特に何も無いんだけど、夏休みの宿題でもやろうかなぁ」
「そうですね。私は………」
「ああ、大丈夫。一緒にやれば良いんだって。もしわからなかったら俺の写せばいいから。まあ俺もわからないところもあるかもしれないけど」
「ありがとうございます。でも、それだとズルですね」
「こう言う時はズルって言わないんじゃないか? 緊急措置というか、まあ、ある事じゃないか」
「ふふっ。睦月さんは優しいですね。ありがとうございます」
「っい、いや、そんなんじゃないって」
依織は時々さらっと俺が突然死してしまいそうな言葉をかけてくる。
全身の血液が沸騰して死んでしまいそうだ。
今ならわかる。依織はナチュラルな人たらしだ。
耐性の無い俺には破壊力が高すぎる。
どう見ても意識して発した言葉ではないのに俺にクリティカルヒットしまくりだ。
学校ではほとんで接点がないのでわからなかったが、依織の周りに人がいっぱいいたのは、外見だけではなくこういうところが大きかったのかもしれない。
依織の容姿でこんなポンポン、クリティカルな言葉をかけられたら、もう死ねる。
同性なら間違いなく友達になりたいと思うし、男子なら死ねる。
それは勘違いして告白する奴が絶えなかったのも納得だ。
俺は何となく場の雰囲気に耐えかねて、
「なんか暑いな〜良かったら涼みに外を散歩しないか?」
「はい、いいですよ」
依織と2人で外を散歩する事にしたが、外に出た瞬間俺はなんて馬鹿なんだろうと自分に呆れてしまった。
咄嗟に暑いから涼みに外に行こうと誘ったものの、クーラーの効いた部屋の中が外より暑いはずがなかった。
外の出た瞬間、モワッと生暖かい外気が押し寄せて来た。
せっかくお風呂に入ったのに汗が出てくる。
完全に失敗したが今更引き返すわけにもいかないので、そのまま近所をぶらぶら歩く事にした。
既に日が落ちているのに、まだまだ暑い。一瞬で身体全体が汗ばんでくる。




