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~17~


その日、ロベルトから返事が届いた。

いつもは書いたことのない季節の挨拶から始まり、用件だけを淡々と紡ぐその言葉がひどく滑稽で、それを書いた者の思いを慮ることができた。

筆跡の違う、その手紙はロベルト本人ではなく代筆によるものだろう。


『こんな醜聞持ちの性悪女に、たとえ頼まれても手紙なんか書きたくないわよね』


手紙には『会って大切な話がしたい』と、書いてあった。

いつものような想いを綴るものではなく、事務的な内容。

会って、何の話をするつもりなのだろう?

噂通り養子に入り婚姻を結ぶつもりなら、独身時代の身辺整理だろうか?

そんなこと気にしなくても元々誰も知らないのだし、話したところで自分の話など誰も信じてはくれないだろうに。


『誰にも話してなんかあげない。

この想いはきっと色褪せたりしない。

だからこそ、これから先何があっても耐えられる。

今更会っても運命はもう変えられない。なら、会わない方が良い』





社交シーズン最後の王妃主催の舞踏会。

侯爵令嬢として出席しないわけにはいかない。

それにルドー侯爵令嬢として最後の参加になるかもしれない。

セイラは父母のためにと、重い足を引きずるように参加することにした。


ガーラント辺境伯家とはまだ正式な書面での婚約を結んだわけではない。

それでも社交界ではすでにその噂が飛び交っていた。


父母とともに足を運んだ舞踏会。

今までは噂を恐れ父母の陰に隠れるようにしていたが、今のセイラはもう失うものはない。

これが最後になるかもしれない華やかな世界を、胸に刻もうとしていた。


「セイラ様」

ふと、背中から声をかけられる。聞き覚えのない女性の声。

振り返ると茶会などで見覚えのある令嬢方が数人。

その後ろに隠れるようにアローラの姿があった。


『ああ、そういうこと・・・』


セイラは覚悟を決めて返事をする。


「これはこれは、マルグレート様。お久しぶりでございます。いつぞやの茶会以来でしょうか?お元気そうで何よりですわ」

「ええ、お久しぶりね。セイラ様は・・・まあ、色々と大変でしたわね?

陰ながら心配しておりましたのよ。もう大丈夫ですの?」


扇の下の口角は上がり、目元は獲物を見つけたような目でセイラを見据えていた。


「ご心配していただきまして、ありがとうございます。

それほど親しいわけではないマルグレート様に心配していただくとは思いませんでしたわ。

持つべきものは友達ということでしょうか?」


嫌味を込めて返事をすると余程面白くなかったのだろう、ギリリと歯ぎしりが聞こえたような気がする。


「そうそう、セイラ様はご婚約されるとか?しかもお相手はガーラント辺境伯様ですってね。自分の親よりも年上のお方の所に嫁ぐお気持ちはいかがです?

さぞや可愛がっていただけるんじゃないかしら?たとえどんな娘でも若さに敵うものはないでしょうから?おめでとうと言ってよろしいのかしら?」


後ろに侍る他の令嬢達がクスクスと笑い出す。

周りの貴婦人方もニヤニヤと扇の下で嘲笑っているのがわかる。

セイラは冷静を装い、澄ました顔で


「お祝い、ありがとうございます。どんな方でもご縁ですから、穏やかな夫婦になれればと今から楽しみにしておりますの」

渾身の笑みで迎え打つ。


泣いて逃げ出すことを期待していたであろうに、セイラは笑みを浮かべるほどの余裕を見せてくる。その姿が面白くないのだろう。


「アローラ様、ご親友だったセイラ様の晴れの門出ですわよ。お祝いを述べて差し上げたらいかが?」


その言葉に他の令嬢から背中をドンッと押され前に出てくる。

セイラを前に俯き、目を合わせることができないでいる。

無理やり引きずりだされたのだろう。こんな人たちに囲まれている事をレインハルドは知っているのだろうか?と、セイラは心配になった。


「アローラ、もう大丈夫なの?」

ビクッと肩が揺れると、マルグレートがズイッと前に出て


「大層な余裕ですこと。誰のせいでアローラ様がこんなに気落ちされていると思っているの?今まで散々虐めてきたあなたが今更心配できる身分だとでも?

あなたって本当に最低な方ね。ガーラント辺境伯様との婚姻で逃げるのでしょう?

どこまで自分勝手な人なのかしら。

そうそう、まだアローラ様に謝ってないそうじゃない。

そうだ!今この場で謝りなさいよ。自分のしたことを反省して、謝ってから嫁ぐのがよろしいのではないかしら?ねえアローラ様、それが良いと思わない?」

「え?私はそんな・・・」


アローラが視線を泳がせ始める。

それはそうだろう、セイラはアローラを虐めたことなど一度もない。

本当に親友だと思っていたのだから。その親友が舞踏会という公衆の面前で頭を下げろと言ってくる。

負けてはダメよ、ここは強く言った方が良いと周りに急かされると、さらにアローラは

オドオドし始める。


「アローラ」

セイラが名を呼ぶと、マルグレート達が早く謝れと囃し立てる。

謝るのは簡単だ。今更自分の名をこれ以上落とすことはないのだから。

それでも貴族令嬢としての矜持がそれを許さない。

自分に非があるのなら、いくらでも頭を下げる。しかし、一片の非もないのに大勢の目の前で謝るなど、罪なき罪を認めるようなことなど出来はしなかった。

それでもアローラの為、今、目の前で怯えるように震えるかつての親友を救えるのはまた、自分だけなのだと・・・


震えるアローラは俯いたまま、セイラを見ることはない。

周りの視線を痛いほど感じる。今日の舞踏会で一番のショータイムなのだろう。

今謝罪をすれば全てが終わってしまうことになるかもしれない。

家族にも迷惑をかけ、ルドー侯爵家の名に傷をつけることになるだろう。

まとまりかけたガーラント辺境伯との婚約も白紙になるだろう。

きっとロベルトも呆れかえり、二度と会えることはないだろう。


それでも、全てを手放せば救われるのだろうか?

アローラの嘘も、今この茶番のような一幕も。


いっそ消えてしまえたら良いのに。


『もう、疲れたわ・・・』



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