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 村長は申し訳なさそうに頭を下げた。


「小さな村です、有事には力を合わせないと何も成せない。にも拘わらず皆の意見が(まと)まらない。お恥ずかしい限りです」


「そんな事はどうでもいい、よくある事です。それよりもゴブリンの頭数、巣の位置と地形、出来る限り知りたい。こちら側がどう動くか打ち合わせをする必要があるので」


 すると村長は大袈裟に苦渋の表情を浮かべる。


「その事なんですが……なんというか……申し上げ難いのですが……」


「……なんです?」


「んー……我々とてゴブリンを憎む気持ちは重々あります。しかし事は簡単ではなくて……交渉派の気持ちも汲まなければいけない所もありますし……我々としては襲撃後のリスクも考えて慎重に動かないといけませんしねえ……気持ちだけは何ともならない所がねえ……元々貧しい村な上に、あまりに急な事で準備もままならない部分もあって――」


 ――長々と……お前の言いたい事は分かってる。


 シヌシヌは村長の言葉を遮り、結論を述べた。


「要は村人は出せない、私達で勝手にやれという事ですね」


「いやそんなつもりはない、我々とて一緒に戦いたい気持ちはあるんですよ。ただ結果的にはそうなってしまいます、申し訳ないのですが……」


「こちらは最初からそのつもりです。問題ありませんよ、ではゴブリンについて聞かせてください」





 ゴブリンの情報を聞き出し村長宅を後にする一行、家を出た瞬間にチィコが不満を口にした。


「何なのあいつ!こっちが協力するって言ってるのに、グチグチ言い訳ばっかで」


「俺達だけでやれるって言ってたのはお前だろ。助けるって言い出したのもお前だ」


「だからってあの態度はないと思うな! もうちょっと言い方が……まあいいわ、私達六人で充分よね。冒険者チィコの初陣ワクワクワクワクワクワクワクワクワ!」


 ――やっぱりか……村長なんかよりこいつの方が厄介だな……。


 シヌシヌは溜め息混じりにチィコに通告する。


「連れてかないぞ……」


「別にいいわよ、勝手に付いていくから。好きにしていいんでしょ?」


「……」


「村に帰るとは言ったけど諦めた訳じゃないから! 私が役に立つ事を証明してみせる!」


 さてどうしたものか、シヌシヌは頭を悩ませた。





「先程は失礼しました」


 一人になったシヌシヌに声をかけた若者、さっき出会った襲撃強行派の村人だ。


「協力していただけるんですね、有難い。それなのに……村長は……情けない!」


「村長には村を守る責任がある。襲撃が失敗した時の事も考えなきゃならんだろ。もし襲撃者に村人がいたらその後の交渉も纏まらなくなる。村長は間違ってないよ」


 別にあの男を庇ってやる義理はないが……シヌシヌは村長をなんとなく擁護した。


「しかし通りがかりのシヌシヌさん達に全てを押し付けて自分達は何もしないなんて……出来ません。明朝に襲撃をかけると聞きました。俺の他にも強行派の人間がいます。仲間を集めますので協力してゴブリンを倒しましょう。俺の名前はジョフです、よろしくお願いします」


 シヌシヌは苦笑いで首を振った。


「気持ちは有難いんだけど……こっちにも諸事情があってな、君らと協力して一緒に戦う事は出来ないんだ。俺達は五人で向かう。君らは君らで勝手にこいよ」


 ジョフは怪訝な顔をする、シヌシヌの抱える事情を知らないのだから当然かもしれない。


「何故です!? 協力した方が勝てる可能性が上がるはずです」


「そりゃそうだ。でも出来ないんだよ俺達には。……そうだな、俺達が先に戦うから君らは巣の入り口付近で待機してるといい。勝てると判断したら突入すればいいし、負けると思えば撤退してもいい。どうかな?」


 ジョフは顔をしかめた。

 彼は真面目な好青年のようだ。


「そんな卑怯な真似……」


「甘いなあんた。村を守りたいんだろ? 女を助けたいんだろ? だったらあんたのすべき事は? 通りがかりの旅人五人の命と村の安全、どっちを優先すべきか分かるだろ? 自分にとって本当に大事な事があるなら手段は選ぶべきじゃないな」


 ジョフを諭すシヌシヌだが最後は自分自身に言い聞かせている気分になり、思わず乾いた笑いを漏らす。


「あ、そうそう出発は明朝じゃない。もうまもなく村を出て朝が来る前に終わらせる。もしあんたらも来るなら早く準備をするといい」


「え、もう出るんですか!?少しは休まれては!?」


「まあ、こっちにも諸事情があってな」


 チィコはもう明日の決戦に備え、床につきスヤスヤ眠っている。

 この隙にとっとと終わらせるに尽きる。

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