薔薇姫とたわいの無いおしゃべり。お父さんとうじょー!
前回のあらすじ。
薔薇姫こと、水浅葱美波さんは、僕と山景の関係を薔薇だと思っていました。
いや、なんで?
まぁそんなことは事実無根なので、全力で否定しました。
おかげで水浅葱さんは頬を膨らませて、ご機嫌ナナメです。
でも僕は知っている。頬を膨らませるってことは、そんなに怒ってないということを。
本気で怒ってるなら、めっちゃ冷たい目で睨んでくるだろうからね。この人なら絶対。
「み、水浅葱さん。そろそろ機嫌直してくれない?もう10分もたったよ?」
「薔薇だってこと認めるの?」
「いや認めるも何も、そもそも違うから……」
「じゃあ無理。許さない 」
水浅葱さんは変わらずご立腹。
どうにして、機嫌直してくれないかな?
え?何?口調?素じゃないじゃないかって?
水浅葱さんが混乱するから、いつも通りにしたんだよ。今考え事してるから黙って。
どうにか機嫌直してくれないかな?
う〜ん…………
ガチャ
「ただいまー今帰ったぞー」
1階から聞こえる野太い声。
これはヤバいやつかな?
水浅葱さんの方を見れば、私焦ってますってデカデカと書いてあった。
「お父さん………」
これは………フラグかな?
「あれ?靴がこんなに?……美波の友達か?」
凄い、玄関で喋っているはずなのにめっちゃ聞こえる。
てかフラグだね。これ。
「2人とも隠れて!!」
「なんでだ?」
「お父さん彼氏とかに厳しいから!」
「俺彼氏じゃないけど」
「山景馬鹿いってないで隠れるよ!」
The王道のシチュエーション。
女友達の家に来たら、お父さんとはち合わせる。
その後だいたい彼氏と間違われるんだよね。
僕らは急いで隠れ―
「隠れるとこ来ないじゃん!」
「え?えっと、ほら、ベットの下とか!」
「入らないよ!」
ベットの下って………数cmくらいしかないじゃないか!
「えっ、えーとじゃあこっちっ!」
「えっでもここって…….」
「いいから!ほら神崎くんも!」
「おっ、おいっ!!」
「美波〜。ってあれ?お客さんいないのか?」
「えっ?うっうんいないよ」
「そうか.……じゃあなんで靴が?」
「知らないよ。宿題はじめるから出てって」
「お?おお。分かった」
そう言って水浅葱さんのお父さんは去っていった。
僕らが隠れていたのは、ドアのすぐ横。
開けた時、ドアで視界が遮られるところだ。
めっちゃ怖かった。だってお父さん、勢いよく開けるんだもん。あともう少し前にいたら、絶対顔面強打してたよ。
「ふぅもうそこにいなくてもいいよ」
「うん。わかった」
「あっそうだ美波〜」
ガチャ!
ゴン!
痛っっったーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
僕が1歩踏み出した途端勢いよく開かれる扉。
当然僕の顔に向かってくるわけで………顔面強打した。
スっっゴイ痛いめっちゃジンジンする。
「あれ?今なんか……って大丈夫かい?君!?」
「ふ、ふぁい。たいひょーふてふ」
「ほんとかい?こんな顔にケガしてないかい??」
「ふぁい」
水浅葱さんのお父さんが僕と同じくらいの目線になって、僕の顔を覗き込んできた。
はっきりいってやばい。イケメン。ものすごう顔が整っちゃる。
「ちょっと見せて。うーん大丈夫みたいだね。よかった。こんな可愛い女の子の顔に傷なんてつけたら誰に恨まれるか分からないからね」
「ふぁい。ありがとうごひゃいます」
何この人何この人!!!!!!
性格までイケメンじゃん!!!!
安らぎ低音ボイスに優しい口調。
それに今ナンパまがいのこと言ったし。
しかも素だろうな。
絶対モテるよこの人。
男の僕でもドキドキするよ……
「あれ?どうして君たち男子の制服を来ているんだい?」
!!!
そうだった。今、学校帰りだ。
つまり、制服を着ている。もちろん、男用。
なにか言い訳しないと!
「私達、今度女子会があってぇー。そこで出し物しようってなったんですぅー。それで、男装はどうかなって思ってぇー、ちょっとやってみたんですぅー。」
山景が間の伸びた言い方で説得してる。
内容としてはいいんだけど、なんか、めっちゃあざとい感じになってるよ?なんかくねくねしてるし、大丈夫?色々。
「そうなのか……なるほど。でも言っちゃ悪いけど、2人ともあんまり男子には見えないよ?男装してても、可愛い女の子のままだ」
グサッ
あっなんか刺さった心にグサッて、僕女の子じゃないよね?大丈夫だよね?誰か大丈夫って言って……
「ほんとですかぁー?」
「うん…どこからどう見ても、可愛い女の子だよ。もうちょっと本格的に男っぽくならないと、男には見えないかな………」
「わかりましたぁー」
グサグサグサッ
あぁもうダメ。悲しくて死んじゃう。
高校生になって少しは男っぽくなったと思ったのに…
いや、確かに恋文も増えたよ?でもさ、心のどこかで昔よりはって思ってたんだよ。僕はちゃんと男っぽくなってるって。それなのに……うぅ……
「じゃ、僕はもう戻るよ。2人ともごゆっくり〜」
笑顔で去っていく水浅葱さんのお父さん。
僕らは軽く頭を下げて、見送った。
「.……石田くん。大丈夫?」
「ん?あぁ、もう大丈夫。大分痛みも無くなったよ」
水浅葱さんが眉を八の字にして聞いてきた。
罪悪感があるのか、申し訳なさが全身からしみ出してて、可愛い。
「そうじゃなくて、なんか落ち込んでる?」
「え?」
「きっと、可愛い女の子にしか見えないって言われたからじゃないか?」
「うるさい。この悪女!」
「は?」
水浅葱さんが小声で笑ってる。
どうやら悪女と言ったのがツボに入ったらしい。
「待て純、なぜ俺が悪女になる?」
「え?神崎くんまじで言ってるの?」
「え?」
「山景、君の負けだ」
「いやどう言うことだ?」
「うるさい!」
「えぇー……」
山景は理解出来てない顔をした。
まぁ当たり前だよね。ナチュラルであんなにあざといのいないもん。ああいうのはだいたい悪役のなんだよ。
「ふふふっ……2人っていつもこんな感じ?」
水浅葱さんは口に手を当て、上品に笑う。
普段学校では棘がある分、これは強烈だった。
普通の男子ならば、一瞬で惚れていただろう。
しかし、無類の可愛いもの好きであり、常日頃から山景の可愛さを堪能していた僕には、せいぜい、ちょっと照れさせるくらいだ。
「……どうしたの?」
「いや、ちょっと天井が見たくて」
「でも、手で顔ごと隠してるじゃん」
「いや、違うんだよ。心の目で見てるんですよ。はい」
そうなんですよ。別に照れてん訳じゃないんですよ。
いやね?確かに照れてはいますよ?でも、ちょっとだよ?ちょっと。断じて、照れまくって、顔がやばい事になってるとか、そういうことじゃないんですよ。
心の目で天井を見ているんですよ。はい。
そんな事を考えていたら、もう落ち込んでた気持ちはどこかえ言ってしまった。
「………まぁいっか。山景くん。石田くんとは、いつもこう?」
「……まぁそうだな」
水浅葱さんの質問に山景が少し苦い顔をした。
「毎回山景が変なこと言って僕が指摘してあげるって感じかな」
「その言葉そっくりそのままお前に速達で送り返してやる」
え?僕としてはそういう認識だったんだけど??
「あれ?石田くんもう大丈夫なの?」
心の中で山景に抗議していると水浅葱さんに心配された。
多分落ち込んでたからかな。
「あぁ、うん。なんか大丈夫になった」
「流石勉強のできる馬鹿だな」
「関係なくない?」
ほら、こういうとこ、変なこと言ってるよね?
水浅葱さんは苦笑いをして何も言わなかった。