彼女の本性とお宅訪問
昇降口で恋文を回収した僕らは、現在恋文たちの処理におわれていた。
「終わんないよ〜。てか何この量!いまだに被ってないのが不思議なんだけど!」
「あれ?純知らないのか?告白の予定はファンクラブで管理されてるから、俺らは恋文に従えばいいんだよ」
「えっ?ファンクラブなんてあるんだ。山景はすごいな」
「他人事みたいに言ってんじゃねーよ。馬鹿なのか?お前もあるに決まってんだろ。だから被ってねぇんだろ」
「あっ。そっかぁ」
「純ってなんでこれで成績優秀者なんだ?」
「勉強と頭の良さは違うよ」
「そうかなぁ?」
そっかぁ山景にファンクラブあるのか。僕も入れるかな?
「ていうか早く終わらせろよ。もうすぐ授業始まんぞ」
「山景もう終わったの?僕まだ半分も読み終わってないんだけど」
「お前まさか全文読んでるのか?今は場所と時間だけ確認しとけよ」
「でも、全部読まないと相手に悪いでしょ」
「告白の前に全文読むんだよ。今読んでたら詰まるぞ」
「そっか!山景頭いい!」
「お前なぁ……」
「ちょっといいかしら」
「「え?」」
振り向くと腕を組んだ水浅葱さんが……なんでいるの?
しかもつり目で見るからにご立腹だ。
「水浅葱さん……なんでいるの?」
「私このクラスだけど。悪い?」
「あっいや、すいません」
水浅葱さん……同じクラスだったんだ。これはやらかした。
山景が隣でお前なぁ……って言ってる!
明らかに呆れられた。めっちゃ悲しいんだけど。
「えぇっと。で?何の用だ?」
「あなた達今日の放課後空いてる?」
「「無理」」
「どうして?」
「俺も純も告白されるんだよ」
「あら、モテるのね」
「全部男子からだけどな」
「…………じゃあ教室で待ってるから、終わったら来てちょうだい」
えっ、今の間何?いいんだよ。可哀想って言っても。あっ、待って言わないで、泣きそうになるから。
「別にいいが……だいぶかかるぞ?」
「なぜわかるの?」
「放課後に4件入ってるんだ」
「……………………………………大丈夫よ」
「本当か?」
「えぇ。どっちかはいるでしょ?」
「ごめん僕、告白6件ある……」
「………大丈夫か?」
「………………………………………………………………………………大丈夫。」
水浅葱さん結構迷ってたな。大丈夫かな?
なるべくはやく来よう。
「じゃあ放課後待ってるから。絶対来なさいよ」
「うん分かった」「あぁ。またな」
水浅葱さんとの会話が終わり、僕はまた恋文の処理に明け暮れるのだった。
今思うと、この会話に僕ほとんど入れてないよね。
このままでいいのかなぁ僕。
………いっか。
時は過ぎ、放課後。僕は水浅葱さんのもとへダッシュ中。
えっ?授業とか告白は?需要ないでしょ!割愛割愛!
「おまたせ〜」
「大丈夫今来たところよ」
「え?教室にいたんじゃないの?」
「ふふっ言ってみただけ」
あれ?水浅葱さん………なんか雰囲気が違う。
いつもは棘のある薔薇みたいなのに、今はまるで綿毛のたんぽぽみたい……
正直めっちゃ好み。このままじゃヤバい気がする。
「すまん。遅くなった」
「「大丈夫今来たところ」」
「………薔…水浅葱さんは違うだろ…」
「言ってみただけよ。 それに薔薇姫でいいわ」
「そうか、ありがとな」
「山景はどうして遅かったの?」
「ん?あぁ、最後のやつの告白が長かった」
「へえ〜教えてよ」
「最初にあった入学式から今日までの思いを語られた」
「え?1日単位で?」
「あぁ」
入学式からって、だいたい2週間分?まじ?何その、情熱。聞いてる方は地獄じゃん。
「神崎くん…全部聞いてあげるなんて、優しいのね」
「えっ?あ、あぁ。ありがとう」
「ちなみに水浅葱さんなら、どう振ってた?」
「私?多分2日目くらいに振ってだと思う。無理ですって」
「あー僕もそうかもね。」
「早くないか?2日目って」
「そうかなぁ?」
「神崎くんが優しいだけだと思うわ」
「そうか?」
「そうだよ〜。山景は優しいんだよ」
「あっでも、最後まで聞くと期待させちゃうかもしれないわね」
「あ〜そうかも」
「でもなぁ。最後まで聞かないと、相手からしたら酷く傷つくんじゃないか?」
「あ〜そうかも」
「いや、純はどっちなんだよ」
「どっちにも!」
「なんだそれ」
「なんでしょう」
僕と山景のやり取りに水浅葱さんは柔らかな笑みを浮かべて聞いている。なんかいいなこの空気。部屋全体が暖かくて優しい。
「もういいや、で?話ってなんだ?薔薇姫」
「ええ、でも、場所を変えましょう」
「え?ここで話すんじゃないの?」
「最初はそのつもりだったけど、時間が……」
時計を見ると、下校時刻の5分前。まじ?
まだ部活に入ってない僕らのはもう帰らなければならない。
「というわけで着いてきて」
むっかし〜むっかし〜ぼっくたっちは〜
ば〜らの〜ひ〜めに〜連れられて〜
彼女の家に〜き〜てみ〜れば〜
絵〜にもかけないうっつくっしさ〜
というわけで今水浅葱さんの家の前にいます。
なんで?
「えっと…水浅葱さん。なんで水浅葱さん家に来たの?」
「ここが1番安心するからよ」
「安心……ですか……」
「そう」
うん、よく分からないけどそういうことだ。納得しろ僕。
「さっ入るわよ。着いてきて」
えー、水浅葱さんの後について行った結果。
今部屋にいます。誰のって?わざわざ聞かないで、
もちろん水浅葱さんのですよ!なんで!?
わざわざ話をするために、部屋まであげる!?
どんな話するのさ!なんか怖いよ!
僕達あんまり接点なかったし。
「み……水浅葱さん部屋に入る必要あったのか?その……リビングとかでも……」
「リビングだと、両親に聞かれるでしょ」
「そういえばご両親は?」
「まだ帰ってないけど?」
「「えっ?」」
親………いないの?じゃ、リビングでいいじゃん。えっ?何?帰ってくるかもって?さいですか。
あと、親に聞かれたくない話って何?
水浅葱さんに警戒心ってないの?心配なんだけど!
心底不思議そうな顔してるよこの子!!
「でっ!本題入るわね!」
あれ?水浅葱さん……また雰囲気が変わった。
冷徹な彼女はどこへやら、僕らの前には可愛らしい笑顔の少女しかいない……………。
「水浅葱さん‥‥‥雰囲気変わったね‥‥」
「そうよっ。学校の私は猫かぶってるの」
「猫かぶってるって言うと学校での振る舞いが大人しく清楚って感じになるけど‥‥」
「えっ?私そうじゃない?」
「「‥‥‥‥‥」」
どうやら本当の彼女は……ほんの少し抜けてる子らしい。
……………………………まじ?