表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

美少女な男親友と女の子っぽい僕

「んんっ!……………いい朝だ…」


朝の5時、僕はベットから起き出して伸びをする。

窓からは朝日が差し込んでいる。朝の光は優しくて幸せな気分になるから好きだ。

僕はぱぱっと着替えて、リビングへ降りる。


「あら、おはよう(じゅん)ちゃんもうそんな時間なのね」

「おはようお母さん」


リビングにはお母さんがくつろいでいた。

うちの両親は、共働きで駅前のケーキ屋さん『Moment(幸せな)Heureux(時間)』を営んでいる。

ちなみにとても美味しくここら辺では指折りの名店だ。


今は職場の制服を来ているため、新作作りなどをしていて、こんな時間に帰ってきていたのだろう。


「お母さん、ココアがいい?それともコーヒー?」

「ありがとう。ココアを貰うわ」

「分かった。ちょっと待っててね」


僕は台所からココアパウダーを用意して早速作り始める。

僕のココアの入れ方はちょっと複雑だけどそうすることでより美味しくなるんだ。


「はいどうぞ」

「ありがとうね」

「いえいえ」


お母さんがココアを1口含む。

するとたちまち顔をパァーと輝かせて美味しいと言ってくれた。

何度も言われているけどやっぱり嬉しいな。


「じゃー僕はお弁当作りに取り掛かるよ」

「えぇ。……………純ちゃんがこうするのも今日で最後なのね…」

「学生寮に入るだけでしょ……そんな深刻そうな顔しないで、ちょくちょく帰ってくるから」


僕は料理を覚えるために毎日お弁当を作らせてもらっていたのだが、それも今日で終わりになる。

今日からは学生寮に住むことになった。

本当は入るつもりがなかったのだけれど、親友の神崎山景(かんざきさんけい)がそこで住んでおり、高校入学からのここ1週間、ずっと一緒に住もうと懇願されていて、仕方なく……そう、仕方がなく!OKしたのだ。


う〜ん。……これで良いな。

今日の最後のおかず、アスパラガスの肉巻きを詰めていたところでインターホンがなった。

今日は山景が家に寄ってくれる約束だから、きっと山景だろう。


「は〜い」


ガチャ


「おうおはよ…………う?」

「何?まじまじ見て、どうしたの?」

「いや、純……だよな」

「そうだけど?」

「いやすまん、その……エプロン姿だと女子に見えて……」


山景の言葉に自分の服装を見てみる。

学校の制服の上にうす桃色のエプロン姿。

男子にしては柔らかい黒髪はちょっとしたショートボブのようになっている。

エプロンが大きめで制服がほとんど見えないため、はたから見たら女の子に見える。


「…………山景だけには言われたくなかったけど、今回の場合は女の子に見えるね」

「あぁ……」


山景は『The可愛い系女の子』な男子だ。

クリクリな大きな目。

ぷにぷになほっぺ。

色白な肌。

艶のある綺麗な栗色の髪。

鈴がなるような可愛らしい声。

童顔で身長が低い。

最後のは僕もだけど…………

兎に角黙っていれば完全なる可愛い系美少女。


神様は何やってるんだろうね?

こんなに与えといて性別を男にするなんて、

あれかな?神様は俗に言う○○○○○なのかな?


「まぁいいや、もうちょい待っててね。お弁当包んでくる」

「あぁ。何がまぁいいやなのかわかんないけど」


僕は踵を返して、台所にトンボ帰り。

黄緑色の無難な風呂敷に弁当を包んで、リュックに入れる。


「お母さん行ってきます」

「行ってらっしゃい。店でも家でもいいから、たまに顔出てね」

「うん、約束するよ。じゃバイバイ」


お母さんが手を振って送り出すのを見ながら、僕は新しい生活への第一歩を踏み出した。






と、言っても生活はあまり変わらない。

強いて言うなら、暮らすところが学校の寮になっただけだ。

あれ?これが大きな変化なのかな?


「ねぇ山景。暮らすところが変わるのは大きな変化なのかな?」

「へ?いきなりどうした?」


横を歩く山景に問えば、心底不思議そうな声が帰ってきた。


「いいから」

「えぇ?……んーまぁ、環境が変わるからそうなんじゃない?」

「でも僕の場合変わんないよね、環境」

「うっっ………そんなふうにキョトンと首を傾げんな!動揺するだろ!」

「んなこと言われてもねぇ………で?僕の場合どう思う?」

「………知らね」

「ちゃんと考えてよー」

「……」

「さーんーけーいー」


僕は横から山景の右肩を掴んでゆっさゆっさする。


「やっ!ちょっ!やめっ!やめろって!」

「ちゃんと考えてくれる?」

「考えるからっ!やめろっ!」


考えてくれるそうなので、振るのを止める。

山景はしばらくフラフラしていた。

あれだね、フラフラする美少女って絵になるね。

あっ、山景は男か残念……でもないか。


「ふぅ………で?なんだっけ、純の場合が大きな変化になるかって?……まぁそうだな。俺は正直そこまで大きくないと思うぞ。人間関係とか変わんないし……」

「そっかぁありがと!」

「で?なんでそんな事聞いたんだ?」

「特に意味は無いよ?」

「ないのかよ!返せ!俺の時間!」

「いいじゃんどうせ登校しながらなんだし」

「もっと有意義な話があるだろ!」

「無いよ〜逆にあると思う?」

「…………無い、有意義な話ってなんだ?」

「ふふっ、でしょ!」


僕は人差し指を立てて、ウインクして見せた。


「………何それ」

「昨日テレビで見た女優さんがやってた」

「お前ついに自分が女子に見えるって認めたんだな」

「何言ってんの?僕は()()()()()()顔が女の子っぽいだけで正真正銘男だよ!これをやって見せたのは山景にやってもらうためだよ」

「いや、誰がやるかよっ!そんな事!」


山景はフンっっと顔を背ける。


「山景、いいの?そんな風に言っちゃって?」

「は?」

「僕が見たって言う女優さん。誰だと思う?」

「おまっ、まさか!」

「そのまさかでーす!深鷺熟柑(ふかさぎうかん)ちゃんだよ!」


その途端山景の顔色が真っ青になった。

深鷺熟柑とは今大人気の女優さんで、僕らの最推しの女優さんだ。

本名は神崎風香(かんざきふうか)。山景の双子の妹さんだ。ちなみにそっくり。

山景はシスコンで風香ちゃんはブラコン。

過去に色々あって、山景と風香ちゃんが1度だけ喧嘩したことがあった。

その時、風香ちゃんは謝りたそうだったけど、山景が聞く耳を持たず、その結果風香ちゃんがヤバいことになった。

僕は見たことは無いけど病人みたいに、元気がなくて、いつもボーっとしていて、壊れた機械のようだったという。

まぁそんなことがあって、山景は風香ちゃんを傷つけることに関して敏感になってるってわけ。


「山景なんて言ったっけ?『そんな事』だっけぇー?」


僕は自分のスマホを振りながらヘラヘラという。

連絡先は知ってるからね。


「この人でなし!」


うん、僕もそう思う。他人の弱みに漬け込むなんてサイテーだよね。でもしょうがないんだ。山景があまりに可愛いから。山景が悪いんだよ?ほんと、可愛いって罪だね。


「分かった。やるよ!やりゃーいいんだろ!」


山景は恥ずかしながらも、ちゃんとやってくれた。まじで眼福です!


「ありがとう山景!疲れたらこの写真を見て頑張れそう!」

「はぁ!?写真撮ったのかよ!?」


いや撮るよね?普通。可愛い子が可愛い行動してたら。

周りの子も撮ってたし。ボク、ワルクナイ。


「はぁ…………俺は最悪の親友を持ってしまったのかもしれない」


山景がガックリとうなだれる。

やっぱり可愛いけど、流石にやりすぎたかな?


「ごめん山景。これで許して?」

「ん?これは、…水族館のチケット?」

「そーそー、これで風香ちゃんと楽しんできなよ!」

「でも風香は仕事があるかもしれないぞ?」

「ふふんっ!ちゃんと予定合わせたに決まってるじゃないか!」

「……………俺は最高の親友を持ってしまったのかもしれない」


山景は目をキラキラさせて、チケットを見ていた。相変わらず可愛い。そして見かけ通りチョロい。

もちろん僕達は冗談でやってる。

………わかってるよね?


「山景……一応だけどさ、冗談だってわかってる?」

「ん〜?何が〜?」

「この話」

「えっ?チケットくれるのは嘘なのか?」

「いやそれはあげるよ。そうじゃなくて、さっきの脅しじみた会話の方」

「大丈夫わかってるよ。たまにホントにしでかしそうと思うけどな」

「ヒドイっ!傷ついたよ!慰めて!」

「へいへい………おい見ろよ薔薇姫がまた告られてるぞ。」


いつの間にか校門前まで来ていたようで山景が示す先には薔薇姫こと水浅葱美波(みずあさぎみなみ)さんがいた。

僕達と同じ中学校で、中学校の頃からなんでも出来るハイスペック美人だ。


対するは…………誰?あのイケメン?


「山景……あれ誰?」

「えっと確か、三年の柏木先輩だったと思う。バスケ部部長で不動のエース。オマケに成績優秀者。薔薇姫との関わりはないと思う」

「そっか、水浅葱さんも大変だね」

「あぁ」


僕達は少し近ずいて傍観者となる。

ギャラリーは結構いるようだ。

あれ、てかなんで山景そんなに詳しいの?

え?みんな知ってる?僕が知らないのがおかしい?そうなんだ……


「初めてあなたを見た時、胸が高鳴りました!流れるような綺麗な髪。誰とも群れず一人居たあなたは美しく、何処か寂しく、守ってやりたいと思いました!一緒に居たいとも!一目惚れでした!どうか俺と付き合って―」

「無理」

「えっ?」

「だから無理」


柏木先輩は呆然としている。

それもそっか、言い終わる前に断られたんだ。

断られることは考えても、途中で遮られるとは思わなかったよね。

水浅葱さんは構わずに続けた。


「まず、一目惚れって言ったわよね?それって結局外ズラでしょう?容姿とか、振る舞いとか、そんなのどうにだってできるわ。人の外側しかし知らないまま告白するって、正直ありえないと思うの。あと何?守ってやりたい?だっけ?結構よ!むしろ嫌、何が悲しくて全く好きでもなくましてやよく知らない男の人に守られなきゃならないのよ。意味がわからないわ。告白してくるのなら、私のことを私以上に知り尽くしてから来なさい!」


告白の場は静まり返った。

誰一人として音を発しない。

場に重く居心地の悪い空気が充満する。

これこそが彼女が薔薇姫と呼ばれる理由だ。

歯に衣着せぬ物言いをして納得するまで1歩も引かない。

しかし彼女の言っていることが大体は正しかったり、納得出来るものだったりするため、横暴という訳では無い。

堂々と美しく、近づくものに棘のある言い方をすることから、ついた二の名が『薔薇姫』だった。

しかしあの棘を持つ薔薇でも丁寧に扱えば、怪我することも無い。

彼女にはそんな一面もある。それも魅力のひとつなのだろう。


気づけば、ギャラリーが減っていって、柏木先輩もいなくなってた。

残ったのは僕と山景と水浅葱さんだけになった。

と言っても水浅葱さんは遠くにいるけどね。

彼女も疲れているように見える。

告白って受ける側も結構疲れるんだよね。精神的に……


「山景。もう行こうか」

「そうだな。行くか」


こうして、朝の告白騒動も落ち着いていった。

水浅葱さんお疲れ様。



昇降口で自分の上履きを―


バサバサバサッ


急に紙類が落ちる音がして、僕達は靴箱の扉に手を掛けたまま固まってしまう。

それは山景の靴箱から溢れ出てきた大量の恋文(ラブレター)達だった。


「…………多いね」


下に落ちた恋文ものだけでも、20枚くらいありそうだ。


「頑張ってね。山景」

「……いや、純のとこにも入ってるだろ。絶対」

「………まぁあったとしても、5·6枚でしょ」

「いいから開けてみろよ」


山景は恋文を集めながら言う。

1枚1枚大切に拾っているところとかポイント高いよね。


「わかったよ」


バサバサバサッ


「ほら俺とそんなに変わらないあったな。純もれっきとした、女っぽい男なんだよ」

「そんな……今まで貰っても4·5枚だったのに……」

「やっと周りがお前の魅力に気づいたってことだよ」

「女の子っぽいってのが魅力なんてヤダよぅ〜」


ガックリと肩を落とした僕に山景が背中をさすってくれた。多分こういうことするからモテるんだろうね。


「なぁ見てみろよ。あの2人超可愛くね?」

「ん?お前知らないのか?あの二人は四天王の2人だぞ」

「四天王って?」

「今年入ってきた1年生に凄く可愛い生徒が4人入ってきたんだ」

「へえ〜!」

「水浅葱美波 神崎風香 神崎山景 石田純の4人だ」

「ほうほう。ん?2人ほど男子っぽい名前がいるな」

「あぁ、いかにその2人は男子だ」

「えっ?嘘!?」

「本当だ。ちなみにお前が言ってた2人だ」

「は!?」


説明されていた方の先輩が目を丸くして、こっちを見る。とりあえず笑顔をかえす、目をそらされた。結構悲しい。


「じぁあの手紙は?女子からなのか?羨ましいな」

「違う。男子から。」

「マジで?」

「あぁ、アイツらと同じ中学だった奴らからの情報だからな。十中八九本当のことだろう」

「そうか……でもそれはそれで納得だな。あんな風に微笑まれたらイチコロだな」


なんかあの先輩たちに現状説明された気がする……


「はぁ……ほんとなんでこんなに増えるのさ!」

「多分俺たちが有名になる+魅了された人達が勇気を出すのに時間がかかったんだろ。それにそんなに嫌がるなよ。全部が男子からって決まったわけじゃないだろ」

「うぅ。今まで山景と僕への恋文全部男子からだったじゃん」

「今回もそうだとは限らないだろ。あと男子からの恋文の中から女子からの恋文を探すのは宝探しみたいで楽しいぞ」

「いやだよ!そんな宝探し!なった時の反動が大きいよ!」

「いいから。もう教室行くぞ」


僕は山景に引きづられて、昇降口を後にするのだった。

【注】恋文は全て回収しました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ