格好いいじゃん
その時、ギャルソンさんがネクタイを持ってきてくれた。貸しネクタイとかか?
「お客様、席のご用意が出来ました。ご案内します」
「うん、お願い」
ギャルソンさんが頭を下げてから、席に案内してくれた。
窓際の絶好の席。窓から町並みがよく見える。オレは、完全にお上りさん状態になる。
程なくして前菜が運ばれてくる。
「頂きます」と口にしてから、緊張しつつ、フォークを掴んだ。
「で、条件って何さ?」
「うん。それなんだけれど、貴方が上杉信玄様ならってことで思い付いたの」
「思い付いた? なにを?」
「今度ウチの高校にゲーム部が出来ます。貴方、そこの部員になりなさい。以上」
「は、はぁ?」
「ほら、学校間での経営競争も熾烈だからさ。少子高齢社会だし。だから、ウチの学園も特色を出さなきゃって。それがeスポーツなわけよ。目指せ、ゲーム甲子園ってね」
成程ね。学校としては、悪いやり方ではないな。面白そうな部を新設し、なんらかの特色を出すのはいいことだろう。
オレはうんと頷く。
「だが、却下の方向で」
すげなく断ると、石田はがっくりと項垂れた。が、すぐに顔を上げ、食ってかかる。
「何でよ? アタナはゲーム部に入って、部の予算で新作ゲームをやり放題。そして、期を見て、私がパパに貴方もVTuberをやっていることを明かして、裏の許可を取る。おいしい話じゃない?」
「まぁ、確かに。けど、単純に時間がない。受験勉強しつつ……いや、或いは大学を諦めるかもしれないけれど。兎に角、勉強して、配信もやって、その上部活までしたら、時間が持たないよ」
「なによそれ?」
「仕方ないじゃないか。時間は有限なのだし」
「じゃなくて、『大学を諦めるかも』っていう方よ」
「単純にウチは貧乏です。したがって、国立大学に合格しても、学費を捻出出来るかどうか」
「ふーん。そうなんだー。それはそれは……」
対面の石田が舐めるようにこっちを見てくる。なんなだよ、おい。
「ならさぁ、学費くらい貸してあげよか? 無利子、無担保、無期限で。パパに頼めばそのくらい」
その言葉を聞いた瞬間、頭に血が上った。そして、テーブルを鉄槌で叩いてしまう。
「人の施しとか、結構。そりゃあ、君から見れば、オレなんてしがない男だろうけれども、一応、矜持くらいは持ち合わせているよ」
「へぇ、意外。アンタって、案外男らしいんだ?」
「さぁね。ただ単に、借金が嫌いなだけの小心者なんじゃないの?」
ムッとしながらも生ハムを咀嚼する。何コレ? やたらと旨いんですけど。
「ところで、アンタ18よね? いつ誕生日だったん?」
「今年の3月」
「だよね~。あそこの規約はうるさいからねー。18才未満はスパチャ禁止だから」
「だな」
「ね、ね。それでさ、上杉信玄さん」
「今度はなんだよ?」
「パパの知り合いのVTuber事務所に入らない? ウチに入れば、もっと人気が出るから。てか、事務所に入らない個人で、よくVTuberとして、そこそこの人気があるわよね、アンタ」
「それも断る。大手に属するのは嫌だ。自由にやれなくなるかもだしな」
「でも、アンタさぁ。多少人気があるっていっても、VTuberで中の下くらいっしょ? スパチャで幾らか稼いでも、個人ならそれで限界だって」
「まぁね。それは分かっているよ」
「なら、もっと上を目指さない? 上杉信玄さん」
「それも結構です」
「あっそ。まぁこっちの話は無理に勧めないけど」
「それは幸い」
「けれども……」
なんか石田の目が光った。え、ちょっと怖いんですけど。
「ゲーム部の方は引きませんー。絶対に入って貰いまーす」
「拒否したら?」
「パパにチクって、貴方は停学です」
「……なんでそんなにオレに拘る? そこが理解出来ないね」
「だって、貴方のゲームしてる姿勢、格好いいじゃん」
「初見プレーで、すぐ死にますが?」
「それでもくじけず頑張って、最後はクリアーするじゃない。ああ、頑張っている男子って素敵! ついつい応援したくなっちゃう! ――という酔狂な女子がいるかもしれません。つまり、アナタは新設するゲーム部に、ピッタリの人材なのよ」
「買い被り過ぎでしょ、ソレ」
「まぁまぁ。兎に角、貴方は新作ゲームをやり放題だし、忙しければ、部活に顔だけ出したら帰っていいからさ。どう? 悪い条件ではずだけれども」
「断れば停学ですか……」
「そうなるかもねー」
石田がニタッと微笑んだ。コイツ、意外と腹黒だな。
しかし、逃げ道はなさそうだ。ここは承諾するしか、手はないか……
眉根を寄せながらも、手を差し出す。石田は笑顔のまま、オレの手を握った。
「商談成立ね」
「ああ……まぁ、しゃーない。ところで、件のゲーム部とやらは、いつ出来るんだ?」
「部室の空きがなくってね。でも、そうね……再来月の7月には部を新設したいわね」
「そうか」
互いに喋っていると、メインディッシュである牛フィレ肉のステーキが運ばれて来た。鉄板の上で、ステーキがじゅうじゅうと音を立てている。これまた旨そうだな。
「さ、食べましょ、食べましょ」
「今更だが、石田よ」
「何よ?」
「オレ、手持ちが多くないのだが……」
石田はうーんと声にし、少しばかり思案した後、「ここは奢りで。山田がゲーム部に来てくれる前祝いってことにしておくわ」と告げた。
この実に旨そうなステーキ。高くつくのか、そうでないのか。
それはどう転ぶか分からない。しかし、今は、どこからどう見ても美味しそうなこのステーキを堪能することにしよう。
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