チョコラと上杉信玄の成功を祈って
「い、いや……その……。いや、待てよ。そっちこそなんだよ? 石田美鈴がチョコラちゃんとかおかしいだろ! ウチの高校、バイト禁止なんだし」
「ちょ。シー!」
あ、大勢の人の前で言い合いとかマズいな。
「取り敢えず、お茶しましょうよ、お茶。付いていて来なさい」
「いや、帰りますので遠慮します。互いにバイトの件は、秘密厳守ということで」
「その辺も含めての話なのよ。いいから来なさい」
「や、やめ。拉致するとかヤメロー」
オレは石田に襟首を引っ張られ、そのまま引きずられていく。
「いや、ちょっと待ってくれ。まだナデ子先輩と合流していないのだが?」
「さっき、先輩から『熱が出たので行けなくなったいましたー』って元気な声で、電話があった」
何だソレ、ハメれた。元からナデ子先輩は、オレと石田を二人きりで引き合わせるつもりだったんだな。
って、それより。
「おいおい、こっちは道玄坂の方じゃないのか? 連れ込むのか? このオレを連れ込もうっていうのか?」
「はぁ? なに言ってんのよ。東Xに行くのよ、東Xに」
「X急? お前、服でも買うの?」
「いいから付いて来なさい」
「はぁ……」
とぼとぼと石田の後を付いていく。デパートに着いて、エレベーターに乗り、8階で降りた。彼女はそのまま歩いて行き、フレンチの店に入る。
「これはこれは、石田様。いらっしゃいませ。本日はご予約されていましたか?」
「あ、支配人さんどうもー。えっと、してないけど、席は空いていますか?」
「……そうですね。只今、満席ですが、あと15分もしたら一つ席が空くかと。急なお越しですが、なんとか致します」
「お願いします」
「ではこちらへ」
ギャルソンさんが先導し、カウンターに案内した。
天井からシャンデリアが吊されていて、大きな窓からは渋谷の町並みが一望出来る。シックで落ち着いた雰囲気の瀟洒なフレンチ。こんな店、始めて来たぜ。ゴクリ。
「お飲み物は如何しましょうか?」
石田は如何にも場慣れしている感があり、壁に掛かっている黒板の品書きを見て、即決する。
「じゃあ、私は絞りたてグレープフルーツジュースで。ねぇ、山田。アンタは?」
「お、オレンジジュースいいかな?」
「畏まりました」
な、なんか、コンビニジュースより、桁が一つ多いのだが……それにオレはそんなに洒落た格好していない。ドレスコードとか大丈夫なんかな?
「え、ええと。ここはなんなの?」
「ウェイティング・カウンター。席が空くまで、ここで飲んで待つのよ」
「は、はぁ。そんなのがあるんだ……」
細長いグラスに氷が入ったフレッシュジュースが置かれた。
「まぁ、とりま乾杯」
「か、乾杯。って、なにに?」
「チョコラと上杉信玄のますますの成功を祈ってとかどう?」
「あ、ああ。任せた」
「じゃあ、チアーズ」
「か、乾杯」
互いに軽くグラスを合わせる。
一口飲んでから、石田にメニューが渡された。彼女はそれを眺め「6000円のランチコース、フィレ肉の方で。二人前でお願いします」と口にした。
ギャルソンは「畏まりました」と告げ、去って行く。
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