文芸部
放課後、図書室に行くと、何人かの利用者がいた。それぞれ、本を読んだり、勉強したりしている。
中野はカウンターの中にいて、オレに気付くと手を振った。彼女に「放課後、どこにいる?」とラインしたら、「今日は図書当番の日だから、図書室にいるよー」と返ってきたので、ここに来た。
とはいえ、利用者がいる静かな図書室でいきなり中野と話し始めるわけにもいかず、人がはけるを待つ。書棚から文庫本を取り出し、それを読むことにした。
5時半を回ったところで、オレと中野以外の利用者はいなくなった。彼女はカウンターから出て、こちらに来て、隣の席に座る。
「どもども。あれからTRPG用のシナリオ書いてる?」
「あー、たまにだな。思い出したように書く時が多いかな」
「そっかー。でもさ、動機はどうであれ、モノを書くのって楽しくない?」
「うん、それは同意。もっとも、オレに文才なんかないから、ハマる程ではないけどね」
「いやいや。文才とか、書いていかなきゃ分からないって。私もねー、最初の頃の作品は、すっごい下手くそだったんだー。けど、書いているうちに、ちょっとずつ、少しずつ上手くなっていったんだよ」
「んー。それって、運動と同じで積み重ねが大事みたいな? 素振りを繰り返すとか、シュート練習を何本もするみたいな? そうして掴んでいくことがあると?」
「そうそう。それに近いカンジ。けど、処女作からいきなり上手い人もいたりするから、そういう人に憧れたりもするけど」
「ふーん、成程ねぇ。ところで、質問いいかな?」
「うん、どうぞ」
「文芸部が廃部になるって、通知きた?」
「あ、うん……」
中野の顔がみるみるうちに曇っていく。
「あ、済まん。ストレートに訊きすぎた」
「ううん、いいの。まぁ、実績もなくて、部員も4人しかいないし、仕方ないかなって……」
「なんていうか、オレは中野ほど物書きにハマってないから分からないんだけど、部がなくると困るものなの?」
「そりゃあ、ね。確かに、執筆は一人でも出来るよ。でも、同じ志を持つ人から感想を貰いたい。それに何より、仲間がいるとテンションが上がって捗るよね。部員の作品を拝読させてもらって、『よーし、私も頑張ろう』って、発奮できるからさ」
「あー、それは分かる。仲間がいると、テンションも上がるよな」
「そうなんだよねぇ。あと、部員に私なんかより、凄く上手い人がいてさ。その人の作品を見ると、レベル差に落ち込んだりするけど、『今に見てろよー』って、逆に闘志が湧いてきたりしてさ」
「うん、それも分かるなー。体育でサッカーとかバスケやった時、上手い奴のプレー見てると、もっと上手くなりたいって燃えてくるからなぁ。ボクシング部でもそうだったし」
「そう、そうなんですよ。互いに切磋琢磨するっていうか。でも……」
「でも?」
「それももう出来なくなっちゃうんだよねー。あと、現国の先生から直接アドバイス貰たりも出来なくなっちゃうのかなぁ……あーあ、なんだか悔しいなー」
「それは分かるけどさ。でも、小説って、完成してから見せ合うことも出来るんじゃね?」
「うーん、そうなんだけどさ。それまでの過程も大事といいますか。部室の中で、部員達が集まって。で、タイピングの音だけが聞こえてきてさ。そういう空間が良かったんだよねー」
そこで言葉を切り、中野は宙を見た。そして、「寂しくなるなー」と、ポツリと呟く。
彼女は伏し目がちになり、しょんぼりと肩を落とした。
そんな彼女を励ましてやりたくなり、カフェに誘ってみるも、「有り難いけど、今日はいいかな」と、断られてしまった。
6時なり、オレと中野は図書室を出た。彼女は図書室の鍵を職員室の鍵置き場に返却した。そして、二人で昇降口を出て、グランドを歩いて行く。
その途中、中野はリュックを開け、そこから本を取り出した。
「ん? これ、どういった本なの?」
「文芸部の同人誌。良かったら読んでみて」
「へー、ちゃんと作られていて、普通の本かと思ったよ。装丁とかスゴイな」
「でしょー。えへへー。それを作るのに、部員でお金を出し合って作ったんだー」
「製本とかって、なんか費用がかかりそうだな」
「ビックリする程高額ではないかな。オンライン入稿OKの安い印刷所さんもあるし。それでも、高校生にとっては痛い出費だけどねー」
「じゃあ、有り難く拝読させて頂きます」と頭を下げると、中野は「いえいえー。そんな大層な物では」と手を振った。
そうして帰宅し、落ち着いたところで、合同誌――というか、同人誌を読み始めた。始めはそれほど気を入れて読んでいなかったのだが、中野の中編と、彼女がスゴイ人だという作者さんの作品は、素晴らしかった。筆力もあり、筋も良かった。
なにより、作品の熱量が凄かった。
中野。アイツ、ガチのマジで小説書いているんだな……文芸部の廃部、どうにか撤回すこと出来ないものだろうか。
唸りながら思案する。
そうして、熟考した後、閃いた。
文芸部の連中は、持ち回りで図書当番をしているのだし、今後は図書室を拠点にして活動すればいいのでは、と。
そのアイディアでいいだろうかと、早速中野にラインを飛ばすと、「学校で活動出来るなら、どこでも大丈夫です」と返信が来た。
文芸部の連中は、それでいけそうだ。
なら、文芸部存続の嘆願を誰に訴えればいいのか。手っ取り早いのは、ウチの学園で絶大な権限を持つ理事長に談判すべきなのだが……あの人とは、この前、一悶着あったばかりだしだなぁ。
そうなると、理事長の娘である石田に提案してみるのが、ベターな選択だろうな。




