ダークデモンズ
例の事件から1週間過ぎた。
イケボの人気Vである織田ヨシモトが、昨夜突然引退発表をしたのだ。この件は、あの石田の親父さんが絶対絡んでいるんだろうと察し、背筋が寒くなった。
大きな権力と大人の事情。そんなものに巻き込まれれば、オレなどただの木っ端でしかない。だが、ガキはガキなりに精々抗うのみ。
そんな事を思いながら、購買で買ったパンを頬張る。いやー、昼下がりのぼっち飯っていいよねー。
学校の屋上に設置してあるベンチに独りして座り、昼飯を食っていると、石田がやって来た。
彼女は「ここ空いているかしら?」と尋ねる訳でもなし、当然の如くオレの隣に座る。
コイツ、遠慮というものを知らんのかと感じつつも、とあることを思い出したので、訊いてみることにした。
「あのさ石田。ちょっと訊きたいんだけど、いいかな?」
「何の話かによるけど」
「ゲーム実況でさ、プロムソフトのゲームしようかと思ってさ。ダークデモンズってやつ」
「いいじゃない! いいじゃないのよ、ソレ。是非やりなさいよ! あのゲームはマジ名作だから!」
「ああ、ゲームの評判がいいのは知っている。たださ……」
「なによ?」
「すんごく死にゲーだって話なんだけど。そんな難易度高そうなゲーム、初見で実況するのってどうなのかーって」
「そこがいいんじゃない。何事もトライアンドエラーだって」
うーん、確かに一理ある。特にコイツは、一流の腕を持つゲーマーな訳で、その言葉に妙な説得力があった。だが、それでもダークデモンズをプレーしてみることに戸惑ってしまう。
「今ならストアでセールしてるから、お手頃価格で入手出来るし。そしたらもうやるしかないでしょ。今っしょ!」
「お、おぅ……」
「それでも」
「それでも?」
「どーしてもアンタが不安だったら、私がヘッドセット越しにナビゲートしてあげるからさ。大船に乗ったつもりで、私にまーかせなさーい」
「お、おぅ。神ゲーマーのナビとか、心強いな。んじゃあ、思い切ってダークデモンズ買って、初見プレー頑張ってみるか」
「うんうん。それがいいよ」
石田は満面の笑みを浮かべている。
だが、何故だろう。その笑顔には、どうしようもない程の邪気が含まれている気がしてならなかった。
「ところでさ。あの……織田ヨシモトさんとパパの一件は、本当に感謝して……」
「あの一件はとっくに片がついた。もう話すのも、礼も不要だって、5日前に告げたはずだが?」
石田の声を遮るようにして、不機嫌な調子で口にした。
「……そだね。ゴメン」
「どうしてもお礼をしたいなら、ダークデモンズのナビで頼む」
「……だよね。ゲーマーならゲームで恩を返す。それでいいんだよね?」
「おうよ」
そう応じると、石田は心底嬉しそうな顔をした。うん、やっぱコイツは、弾けるような笑顔が似合う。明るさを取り戻してくれて、何よりだ。




