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勝ち逃げとか許せねぇし

「き、貴様! それを渡せ! さもないと……」


 理事長は机の上にある呼び出しボタンを押した。すると、ボーディガードなのだろうが、屈強そうな黒服の男が室内に入ってきた。


「ソイツのスマホを取り上げろ! その音声データさえ消去してしまえば、どうということはない」

「理事長、ここにあるデータは差し上げてもいいですよ? けど、音声データは、クラウドと同期させていて、すでに共有フォルダにあります。そして、ナデ子先輩が共有フォルダにある音声ファイルをダウンロードした頃かと思いますけど?」

「なんだと?」

「いやー、その音声ファイルをナデ子先輩が放流したら、どうなるんでしょうね? あ、なんなら先輩のライブ配信中に再生するのもありかー。なんか、どこかの芸能事務所の社長さんが『VTuberなどガキのお遊戯だ。話題作りさえ出来れば、それでいい』とか仰っていたような、いなかったような……」

「そんなのハッタリだ。貴様、音声ファイルをクラウドにアップロードなんかしてないだろ?」

「じゃあ、ナデ子先輩がちゃんとデータをダウンロードしたか確認してみますね」


 スマホを数回タップし、ナデ子先輩に連絡する。会話が聞こえるよう、スピーカーのアイコンもタップした。

 数回の呼び出し音の後、先輩が応答した。


「はいはーい、上杉君。志那ナデ子だよー」

「どうもです先輩。あの、共有フォルダにある音声ファイル、ダウンロードされました?」

「したよ、したした。いやー、中々過激な内容だったねー。これ、ウチのチャンネルで流したら、なかなかに面白そうだねー。よく燃えそうだわー。大炎上ってやつ?」

「ですね。済みませんが、先輩。今、ちょっとゴタゴタしてるので、切りますね。今回は協力して頂き、どうもありがとうございました」

「はーい、またねー」


 オレは重たい息を吐いてからスマホをタップし、通話を切り上げた。


「美鈴、このナデ子とやらは誰なのだ?」

「あ、うん。うちのハコの先輩で、人気のVだよ」

「そうか……」


 理事長は事を把握したのか、歯軋りをした。そうしてから、重々しい声を出す。


「山田哲。君がしている秘密のアルバイトは、私の胸に秘めておこう。娘の活動も学校を卒業するまでは、認めることとする。その代わり、分かっているな?」

「ええ、分かっています。問題の音声ファイルなど、どこにも存在しません」


 理事長はその言葉に頷いた。

 それを合図に、オレと石田は強面の黒服の脇を悠々と通り、理事長室から退出した。廊下に出てから目をやると、石田は小刻みに震えていた。


「バカ。山田のバカ。パパに逆らった人とか、初めて見たよ」

「へいへい。どうせオレはバカですよ」

「私の……私なんかのために、デタラメ言って。挙げ句に退学させられそうになって。アンタって本当に大バカ者よ」

「まぁ、オレのライバルが早々に引退したら困るからな。花園チョコラがいるから、上杉信玄も頑張れる。それに、勝ち逃げとか許せねぇし」

「……ありがとう、山田。君のお陰で、どうにかVを続けられそう。本当に……本当にありがとう」

「だからそういうのは、もういいって。オレもお前には色々と助けてもらったんだしさ。だから、おあいこだって」

「おあいこ……そっか、おあいこかぁ」


 石田はようやく笑顔を見せてくれた。そして、彼女は拳を突き出す。

 そこに拳を軽く当て、グータッチを交わすと、彼女は照れくそうに、えへへとはにかんだ。

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