元気なしの石田
「ウッス、石田」
朝、昇降口で石田と出くわしたので軽い挨拶をする。
「お早う、山田」
「昨日の配信見たよ。また好評だったな」
互いにVをやっていることは秘密なので、そこは声を潜めた。
「あ、うん。ありがと」
石田がそう応えるも、なんとなしに声に張りがない。どうしたんだろうかと彼女を見ると、伏し目がちであった。心なしか落ち込んでいるように見える。
いつも元気一杯の彼女とは、どことなく違う印象を受ける。
とはいえ、人間誰でも悩み事の一つや二つあるもので、それが思春期なら尚更。一人で考えたい事もあるだろうし、こういう時は放っておいた方がいいかもしれない。
だが……
「なんかあった?」
ついつい訊いてしまう。
ああ、「余計なお節介しないでよね!」とか言われそう。
そう思って身構えたが、石田は視線を落としたままだった。
靴を上履きに履き替え、二人で廊下を歩く。すると、たどたどしく石田が声を発した。
「あのね、山田」
「お、おう」
「い、いや。やっぱ何でもない」
「そうか……けど、石田さ」
「なに?」
「なんかさ。些細な事でもいいから、困ったことがあったら相談してくれよ。普段はお前から助けられてばかりだから、力になりたいんだよ、オレ」
「うん、ありがと。けど、もうちょっとだけ自分でなんとかしてみるから」
「……分かった。だけど、無理はするなよ。もし、オレに頼りたくなったら、いつでも相談してくれ」
「うん」
話しているうち教室に着いたが、石田は目を伏せたままだった。元気者の彼女がそんな調子だと、どうにも気になってしまう。
そうこうしているうち昼休みになったので、教室を出て、人気のない体育館裏へと行った。
ポケットからスマホを取り出し、トークアプリでナデ子先輩を呼び出してみる。
「もしもーし。どうしたの、上杉君?」
「もしもし。あの、ナデ子先輩。単刀直入に伺っても宜しいでしょうか?」
「んーと。それは話題によるねぇ」
「えっと……実は石田のやつ、妙に元気がなくてですね。ナデ子先輩なら、その辺の事情、知っているかもと思いまして」
「ああ、うん。知ってるよー」
「本当ですか? 石田になにか問題でも起きたのですか?」
「問題って言えば、まぁそうかな。上杉信玄君が秘密厳守してくれれば、喋ってもいいけど、約束出来る?」
「はい、勿論です。この会話は、自分の胸の中に閉まっておきますので、どうか」
「分かりました。あのね、上杉君。織田ヨシモト君って知っているかな?」
「はい、知っています。チョコラとナデ子先輩と同じ事務所のVTuberですよね? イケメンキャラで人気の」
「そう、それ。で、その織田ヨシモト君が、チョコラ――というか、石田美鈴ちゃんをいたく気に入ってしまってですねぇ、激しくアプローチしているのですよ。『今度、デートしようよ』とか『飲みに行こう』とかってね」
「そんなことが? それで石田はなんて?」
「正直迷惑に思っているみたい。でも、V同士だし、同じハコにいるしで、石田ちゃんは強く言えなくてさ」
そうだったのか。だから、石田のやつ元気なかったんだな。
どうにかしてあげたいが、今回の件について介入することなど無理そうだ。そもそもオレは、チョコラがいるハコに所属している訳でもなく、単なる外野でしかないからな……
難題が湧いて出てきたせいか、眉間に皺が寄ってしまう。
「ねぇ、上杉君。石田ちゃんから聞いたんだけど、貴方、同じ学校に通っているんでしょ。この件は、貴方が直接どうこう出来る話じゃないんだけど、せめて石田ちゃんが学校にいる間は優しく接してくれないかな?」
「分かりました。オレ、少しでも石田の力になりたいんで、なるべくアイツのケアに回ることにします」
「ふむふむ。そっかー。いやー、上杉君は漢だねぇ。まっ、そんな訳だから、石田ちゃんのこと宜しくね」
「了解です。それじゃあナデ子先輩、失礼します」
「はーい」
そこで画面をタップし、通話を切り上げた。うーん、あの石田がそんなことに巻き込まれていただなんて。……まぁ、素は美少女だし、当然男子から言い寄られることもあるか。
けど、他の事務所の問題だし、オレはタッチ出来ない。なら、せめて石田に優しくしてみよう。
そう考えをまとめ、教室に戻った。




