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大切なもの

「この場にはダチしかいないのに、それでも平身低頭かよ? 大体、お前はウチの部にいて、1年ながらホープだったろ? なのに、雑魚なチャラ男の小田とかから馬鹿にされても、何もしねぇ。あんなクズ、少しボコって黙らせればいいじゃねーかよ? 悔しくないのか、お前?」

「暴力沙汰は御法度だよ、大矢。オレはお前とは、違うんだ……」


 大矢は舌打ちし、拳をギュッと握り込んだ。


「やめて! 久しぶりに二人と会えたのに。これじゃあ、こんなのじゃあんまりだよ……」


 中野は瞳に涙を貯めていた。

 大矢はそれを見て、襟首を掴んでいた手を振り解く。


「なぁ、山田。なんか事情があって、クラスで地味男を演じているんだろ? 俺達、ダチだっただろ? いい加減さ、打ち明けてくれよ……」

「うん、そうだよ山田君。私達、仲良しだったじゃない。秘密は共有しよ? 辛いことがあるなら、言って! これでも言ってくれなきゃ、もう仲間じゃない……友達でもないよ……」


 こんなオレに対して、今でもそう言ってくれるのか、大矢に中野。ありがとな。


「お前になんの事情があるのかは知らねぇ。けど、相談してくれなきゃ分かんねぇんだよ。お前、クールを気取っているつもりかしんねぇけど、そういう態度って、かつての友達を突き放しているのと同じなんだよ!」


 大矢の怒声にピクリと身体を震わす。


 そうか……いつの間にか、かつての友達を突き放してのか、オレは。けど、そうかもしれない。本当にコイツ等を信頼していたら、相談していたはずだ。クラスで直接喋らなくても、連絡手段などいくらでもあるのだから。


 それでも、オレが上杉信玄だって打ち明けられなかったのは、1年の時の友達を信頼していなかった証左にもなるよな。


 オレはVTuberとして稼ぐ代わりに、大事な物を喪っていたのか。


 友情を、友達を。


 そういった大切なものをいつの間にか切り捨てていたんだな……


 けれども、大矢に中野は違っていた。コイツ等は、薄情なオレなんかをこうして心配してくれていたんだ。


「済まなかった大矢。それに中野。いくら秘め事があるとはいえ、それをお前達に話さないでいたのは、どうやらオレの失策だったらしい。そうして、友情を切り捨ててしまったのは他でもないオレだ。二人とも済まなかった。どうか許してくれ」


 二人に対して素直に頭を下げた。


「いや、許せねぇな。お前が本当のことを語るまで、俺は許すつもりねーから」

「大矢……」


 中野の方を見ると、彼女も頷いていた。こうなったら、もう降参するしかない。

 事実を語ろう。有りの侭の今のオレを。


 そう決心して、ポツリポツリと言葉を漏らした。


 2年になって家庭崩壊し、VTuberをやって金を稼がねばならなった事情を。訥々と、訥々と語る。


 喋り終えるまで、二人は黙って聞いてくれた。姫路遙のことは言及を避け、拙い説明だけど、どうにか喋り終えた。


 大矢はポツリと「そうか……」と告げた。

 中野はいつの間にか涙していて、うんうんと頷いていた。


 これでVTuber上杉信玄の正体を知る者は、三人となった。大矢に中野、そして、石田美鈴こと花園チョコラ。


「分かった、このことは口外しない。俺は金銭的な援助なんか出来ないけど、頑張れよ山田」


 大矢がグーの手を差し出してきたので、それに合せた。

 そうすると奴は、机に行き、そこでバッグを掴むと、図書室を出て行った。


「あのさぁ、中野。その、泣かなくていいから……」

「泣いてなんかいないもん」

「そうか?」

「そうだよ」


 中野はハンカチを取り出し、頬を拭った。


「たまにはさ」

「え?」

「たまには、1年の時の仲良し四人で集まろうよ。私、かおるんにも連絡しておくから」

「あ、ああ。だな……」

「あのさ、山田」

「ん?」

「今度、久しぶりにラインしてもいいかな?」

「ああ、大丈夫だ、問題ない。というか、これまで既読スルーしちゃってゴメンな」

「うん」

「それより、中野。その、オレのシナリオ、読んでくれるか?」

「うん。モチのロンですよ。私、文芸部の部長なんで、厳しくいくよー」

「いや、お手柔らかに頼むよ」


 そこで中野と顔を見合わせ、互いにクスリと笑った。


 ふと窓の外に目をやると、黄昏れている夕日が、辺りを赤く染め上げていた。

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