中野小町
放課後になり、いそいそと図書室に向かった。
扉を開けると、カウンターの中に確かに見知った顔――中野小町がいた。
黒のロングヘアに銀縁眼鏡。だが、眼鏡の奥にあるその瞳は、ぱっちりとしたもので実に愛らしい。二重まぶたの大振りな瞳に、ちょっと小さい形の良い唇。
眼鏡のせいか大人しそうな印象を受けるが、なかなかどうして。実に可愛らしいルックスをしている。
図書室にオレと中野の他、2,3人の生徒がいたので、彼女に気取られないようにカウンターとは反対方向の書架へと行った。
特に読みたい本などなかったが、本の背表紙を見ていく。すると、「TRPGのためのゲームブック」という本を発見したので、それを本棚から抜き取り、パラパラと捲ってみた。
ああ、これは使えそうだな。場所を覚えておこう。
他の書架も眺めてみる。一通りの本のタイトルを見てから、書架から離れ、カウンターに遠い席に座った。
それと同時に、3人の生徒が立ち上がり、小声で喋りながら去って行く。これで中野と二人きりになった。
「あれ、山田君じゃない?」
受付カウンターの中にいた中野がこちらに気付いたようだ。
「よ、よう。おひさー」
席から立ってカウンターまで歩いて行く。
「どう、B組は?」
「まぁまぁかな? そっちはどう?」
「文系狙いのクラスなんで、必死に受験勉強やってるよー。けど、世界史とか未だになんだこりゃだねー」
中野はクスクスと笑った。
彼女の顔を見ながら、1年の頃の思い出に胸を馳せる。あの頃は、普通に学園生活をエンジョイしていたな。
オレ、中野、今でもクラスメートの大矢武人に、仁科薫。この四人でよくつるんでいったけ。
だが、2年からのオレは陰になり、無口キャラを装った。もう慣れたものだが、やはり陽気に騒いでいた頃に焦がれてしまう。
身バレは勘弁なので、このまま陰キャでいなくてはならないが、どうにも暗い青春だよな……
頭を振ってから、ふと本題を思いだし、中野に尋ねてみる。
「中野ってさ。VTuberとか見てる?」
「ああ、ヒXキンとか? 見てるよー」
「いや、そっちの方じゃなくて。CGが動いて喋る方なんだけど」
「んー、なんとなく分かるくらいかなー。ね、ね、お勧めのチャンネルとかあるの?」
「あ、いや。オレもそんなに詳しくはないんだけどさ」
「そっかー。ねぇ、お勧めとかあったら、教えてね?」
「そうだ、ね……」
なんとなしに項垂れてしまう。一体、自分の正体をいつになったら、親しかった連中に告白出来るのだろうか。或いは、もうそんな日など来ないのだろうか。
なんとなくセンチメンタルになりながらも、それは置いておき、本命であるノートをバックの中から取りだし、中野の前に置いた。
彼女はキョトンとしてから、言った。
「これは?」
「一応、TRPGのシナリオなんだけど。なーんか、違うってか。その辺、中野は文芸部部員だから詳しいかと思ってさ」
「然程詳しくはないけど、多少の知識くらいはあるよ。うん、まずは山田先生のシナリオとやらを読んでみましょうか」
「あ、ああ。宜しくお願いします」
オレは慇懃に頭を下げた。と、その時、図書室の扉が開き、そこから不機嫌そうな顔をした男子がやって来た。
おいおい、このタイミングで大矢が来るかよ……
大矢はオレを一瞥し、席に座った。バックを開き、そこから文庫本を取り出す。なんというか、その表紙は萌えイラストが描かれていた。アイツ、強面のくせして、ラノベとか読むのか。
「あ、大矢君、久しぶりー。去年のインターハイ、凄かったね。2年ながらベスト4。ボクシング部の快挙だって、騒がれたりして」
「ああ」
声をかけた中野に対し、大矢はぶっきら棒な声を出す。
「それにしても久しぶりだねー。山田君に大矢君に私。こうしてみると、なんか1年H組の同窓会みたい」
「チッ」
大矢は露骨に舌打ちし、文庫本から視線を切り、こちらを見た。
「おい、山田。お前いつまでウチのクラスで陰キャやってんだよ? 辛気臭いっての。やめろって、そういうの。ムカつく」
「あ、ああ。済まん、大矢……」
「え? 山田君が陰キャ? それってどういう……」
中野は困惑気味だ。
「どうもこうもねーよ。事実だしな。なんだか知らんが、そこの山田哲君は、2年になってから、すっかり無口になりましたとさ」
「嘘でしょ? あの陽気だった山田君が、そんな風になるとか想像出来ないよ……」
「それが現実だったりする。まぁ、俺もそのことを今のクラスで騒ぎ立てる趣味はねぇよ。けど、今は1年の時、仲良しやってた三人だけしかいねぇ。なら、この場で少しばかりボヤくくらい構わないだろ?」
「その通りだよな、大矢……ありがとう、今のクラスでオレのことを黙っててくれて」
大矢に軽く頭を下げた。すると奴はガタリと席を立ち、こちらの方に歩いてきて、オレの襟首を掴んだ。
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