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特訓して人並み

「うんうん。上杉君は大分良くなってきたよー。あとは聞き込んで、メロディーと拍を覚えて、歌っていけばいいかもだねー」

「ありがとうございます!」


 そうアドバイスを受け、素直に喜んだ。


「次はチョコラちゃんの番だねー。歌ってみて?」

「はい、いきます」


 石田は席から立ち上がって熱唱した。けど、いくら熱唱しようが、元から下手は下手だ。


 だがしかし。彼女がそうして同じ曲を3回、4回と歌っていくと、なんだか聞けるレベルになってきた。

 少なくとも、怪音波、ジャイXンリサイタル級ではなくなってきている。


「うーむ。なぁ、チョコラちゃん。なんかまともになってきたんだけど、どうした?」

「貴方と同じよ。ボーカルのメロディーラインを意識して聴きながら、歌ってみたの。したら、自分の音程がいかに外れていたか、気が付いたのよ」


 ふむ、成程な。この辺は、ナデ子先輩のアドバイスが的確だったってことか。


 それから二人して、熱唱した。何度も何度も同じ曲ばかり歌った。

 いい加減、他の曲も歌いたかったが、「まずは同じ曲を歌い込むことで分かってくる」と、ナデ子先輩からアドバイスを受けたので、それに従った。


 いい加減歌い疲れて、スマホで時間を確認すると入店してから4時間も経過していた。


「チョコラちゃん、上がろうぜ。喉痛いよ」

「私も……もう限界かも」


 石田が上擦った声を出すと、スマホから拍手が聞こえてきた。


「うんうん、二人ともお疲れさまー。随分と良くなったよー。まだ時々音程を外す時もあるけど、始めに比べれば全然いいよー。始めは『時々』じゃなくて、『常に』音が外れていたからねー。あと1週間もカラオケで特訓すれば、人並みにはなれるよー」

 

 1週間の特訓で人並みだ、と……

 まぁ、元からド音痴だった者からすれば、まだマシな方か。


 スマホ越しにナデ子先輩に礼を述べ、そこで解散することにした。


 石田とオレは、共に精魂尽き果て、カラオケボックスを出てから、どうにか駅まで歩いて行く。




 そして、翌日の放課後、音楽室。


 合唱の指揮している女子の立ち会いの元、オレと石田は課題曲をどうにか歌い上げた。


「あ、あれ? 二人とも、大分良くなってよ。どうしたの?」


 指揮者さんは、目を丸くしていた。


「カラオケで特訓しました」

「同じく」


 石田に次いで、声を出した。指揮者さんは、成程といったかんじで頷いた。


「じゃあ、あと2,3回通しで歌ってみようか? 細かいところの指導は多けれども、いきなり細かく言っちゃうと混乱しそうだから、そこは徐々にいこうね」

「はい、お願いします」


 石田は慇懃に頭を下げた。そして、オレと目が合うと、不敵な笑みを見せる。


 まぁ、なんだ。いきなり二人共、歌ってみたとか出来そうにないけど、どうにか音痴からは脱出出来そうだな。この辺は、為せば成るといったところだろうか。


 少ないながらも、結果が着いて来そうなので、安堵した。


 オレも石田を見遣り、笑みをこぼした。

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