スマホのレビュー
「ああ、そういえば。昨日、そのスマホが話題になっていたね。最新型の発売日だったからな。以前ほど大きく話題にならないけれども……ってアレ?」
「どうしての、山田」
「いや、趣味で自作PCとかスマホのレビュー動画とか見たりするけど、アレって使えるのでは……」
「そう、それよ! いいじゃない、山田。最新モデルのレビューとか、皆興味があるし。配信するにはもってこいの話題じゃない! そりゃあ私達はVTuberで、顔出しの普通のYouTuberじゃないから、色々と制限はあるけれどもさ。でもさ、それでもイケるって」
「そうかもだが……オレのスマホは、ボロッちいやつだからなー」
「じゃあ、あたしがプレゼントしたやつ使いなさいよ」
「いや、あれは……まだ受け取っていいか、決めかねているしなー」
「じゃあ、貸しでいいから。兎に角、今日の配信は、スマホをレビューして場を繋いで、あとはお得意のレトロゲーム初見プレーすればいいじゃない」
「お、おう。せやな……」
石田の勢いに飲まれ、ついそう口にしてしまった。
「けれど、新型の使い方が分からん。ホームボタンのあるやつならまだしも、顔認証とかさ。そもそもホームボタンがなくて、どうやってホーム画面にいくんだよ?」
オレは頭を抱えた。
と、そこで珈琲が運ばれてくる。ウエイトレスさんは「どうぞごゆっくりー」と言って、カウンターの方へ戻っていった。
「あら、本当に美味しい。コクが深くて、風味があるわ」
石田は一口飲んで、そう告げた。
「だろ? マジで旨いんだって、ここのは」
「いや、自慢する前に、スマホの操作法くらいどうにかしようよ?」
「うー、どうしたいいだろう? 帰って充電して、その間にスマホの操作法をネットで調べて……」
「はぁ、しょうがないな。一通りの基本動作は、私が今ここでレクチャーしてあげるから。幸い同じ機種だしね」
「本当に? 宜しくお願いします、石田先生」
「あのさ」
「なんだよ?」
「いくらなんでもタップとスワイプは知ってるわよね?」
「それが出来ないで、どうやってスマホを操作しろと?」
「いくら山田でもそれは知っていたか」
おい、馬鹿にしているのか、石田よ。
それから石田は、スマホをタップし、顔を近づけ、ロックの解除をした。
SUGEEE! 一体どうなってやがるんだ!?
それからも石田のレクチャーは続く。スリープボタン長押しで、尻起動。画面の下からスワイプするとホーム画面に戻る。下の画面にあるジェスチャーバーを左右にフリックで、使用したアプリへの切り替え。
あとはコントロールセンターの呼び出しや、画面キャプチャーの方法などを教わった。
石田は出来の悪い生徒に教えるかのよう、懇切丁寧に指導してくれた。お陰で、一通りの操作法は覚えた。最後に彼女は「前のモデルからカメラが良くなったんだー」と付け加えた。成程である。
「じゃあさ、山田のスマホに私が撮った風景画像を送ってあげる。広角、超広角の写真があるから、それを配信で使ってよ」
「うう、何から何まで済みません、石田の姉御」
「いいっていいって」
石田はこんなこと何でもないとばかりに手を振った。
それから、すっかりと冷めてしまった珈琲を飲む。熱々だから、自家焙煎の香ばしさというものが出るのに、これでは勿体ない。
「すみませーん。珈琲のお代わり二つと手作りサンドイッチ追加で」
「はいよ」
ウエイトレスさんがオーダーを聞き、カウンターまで行き、マスターに注文を告げる。それを受け、マスターはさも面倒くさそうにドリップを始めた。
ここはシアトル系のこじゃれたカフェではない。マスターから聞いたところによると、平成元年の創業だそうだ。
昭和と平成が入り交じった、どことなくレトロな内装。壁には大きな柱時計がかかっていて、ゆっくりと時を刻んでいた。
「いいお店ね、ここ」
「お、分かる?」
「うん。なんかゆっくりと時間が流れていくっていうか。こんな場所で美味しい珈琲を飲んでいたら、思わず微睡んでしまいそう」
「そうそう。あと、ここなら読書にももってこいだ」
「かもねー」
そうして話をしていると、珈琲が運ばれてきた。
時折、それに口にしながら、石田と他愛もない話をした。シャキシャキレタスとトマトとチーズの入ったサンドイッチを頬張りながら。
一頻りお喋りを楽しんでから、席を立つ。
「じゃあ出ようか。ここはオレの奢りってことで」
「え、いいの?」
「うん。なんたってスマホの操作法をレクチャーしてもらったからな。お陰様で面白いレビューの配信が出来そうだよ」
「分かった。それじゃあ、奢られてあげる」
石田はご機嫌な口振りであった。
会計を済ませ、店の外に出る。それから、また二人で駅の方へと逆戻り。
改札口で石田と別れた。彼女は笑顔で手を振った。とびきりの笑顔で。
石田のお陰で、今日はいい配信が出来そうだ。
だが、石田から借りているスマホを充電しなくては話にならない。オレは大急ぎで自宅に戻った。
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