そんなことしちゃ、絶対駄目なんだから!
2つばかり先の駅で降車し、改札口を通る。
と、そこで、最も会いたくない奴が前方からやって来た。あの姿は、石田。
落ち込んでいる時、会いたくない奴ナンバーワン。しかも、スマホの一件もあるし。
気付かれずにやり過ごそうとするも、石田が手を振ってやって来た。
「うーす」
「う、うっす。いや、どうして石田がこの駅にいるんだよ?」
「いや、米沢の家に遊びに行って来て、その帰りなのですが?」
「あ、そうなんだ」
「うん、そうなんだ。あ、スマホのことなら、ゆっくりでいいからさ。私も押し付ける気まではないし。ハハ……」
石田は照れ臭そうに頬を掻いた。だが、その表情は心なしか曇って見えた。
「それよりどうしたのよ? 辛気臭い顔してさ」
「え? あ、そう見える?」
「見えるよ。何か悩み事でもあるの? 話なら特別に聞いてあげるけど」
有難い申し出だが、それはマズい。石田にウチと姫路家のことなど知られたくないしな。どう言い繕ったらいいかだろうか……
そうだ、配信のことを聞いてみて、話の矛先を逸らそう。
「いや、実はさ」
「実は?」
「今日のライブ配信のネタが思い付かなくてさー。こんな状態で配信したら、チャンネル登録してくれている皆に悪いし、いっそのこと今日の配信は取りやめにしようかなーと」
「そんなの……」
「え?」
「そんなことしちゃ、絶対駄目なんだから! 一回、視聴者の信頼を失ってみなさい。一気にチャンネル登録者数が減るから」
「や、やっぱりそうかな?」
「そうよ。ちょっと着いて来て。一緒にネタを考えてあげるから」
「あ、ああ。けど、石田さ。お前、この辺詳しいの?」
「え!? そ、それは、あんまり……」
「なら、着いて来て。取って置き穴場があるから」
その台詞を聞いて、石田は後ずさった。
「なんだよ?」
「穴場とかいうホテルじゃないでしょうね?」
「んな訳あるかよ。ほら、こっちだ」
オレが先行して歩くと、石田がその後を着いて来た。
暫く歩き、喫茶店に着き、そこの扉を開けると、カウベルがからんころんと鳴った。
無愛想なマスターがカウンターの中にいて、「いらっしゃい」の一言もない。
テーブル席につくと、代わりにウエートレスさんがお冷やを運んでくる。
「いらっしゃい、山田君」
「ども」
「注文はいつものブラックでいい?」
「はい」
「えっと、じゃああたしは、ロイヤルミルクティーで」
「ちっちち、石田よ。ここに来たら珈琲だ。なんたってここ、自家焙煎している拘りの店だからな」
「そ、そうなんだ。えっと。じゃあ、済みません。あたしもブラックで」
「はいよ」
顔馴染みのウエートレスのおばさんは、注文を聞き、カウンターに下がっていった。オーダーが入ると、マスターが丹念に珈琲をドリップしていく。
「あ、そうだ! 珈琲の豆知識とか、配信中喋ったらどうだろうか?」
「うーん。それは面白いアイディアだけれども、ウケは悪いかもねー」
「確かに。だよなぁ……」
「そうねぇ……こういう時は、ツイッターでトレンドでも見て、ネタを探してみようか」
石田はスマホを取り出し、画面をタップした。そのスマホは、昨日、石田が送ってくれた物と一緒だった。
少しでも「面白い」、「先が読みたい」と思いましたら、ブックマークと評価をお願いします。




