抗ってやるよ
と或る日、学校から帰ってきたら、宅急便の箱が居間の座卓の上に置かれていた。オレ宛である。
だが、通販でなにか購入した覚えもない。おかしいな。
訝しがりながらも差出人を見ると、石田からだった。え、何? 時限爆弾でも入っているの、コレ。
さて、どうしたものかと唸っていると、スマホが鳴った。画面を見ると、ラインの通知が入っていて、それは石田からだった。
宅急便届いているでしょ? 開けてみなよ。
そんな文面だったので、早速返信する。
「爆弾じゃねーだろーな?」
「んなわけないでしょ。いいから開けてみなって」
箱を開けてみると発売されたばかりの最新モデルのスマホが入っていた。しかもSIMフリー版やつ。
今のスマホは、中一から使っているお古なので素直にありがたい。けど――
石田にそのまま通話してみる。
「スマホとか、ビックリしたよ。ありがとうな、石田。でも、なんだって急に?」
「それはアレよ。山田が持っているヤツは、大分型が古いやつだったから。新しいのじゃないと、ゲームアプリをサクサク出来ないじゃない。これからゲーム部を新設するにしても、上杉様の動画配信でも役立つっしょ」
「うん、それはそうなんだけどさ……でも、ゴメン。これは受け取れないよ」
「なんでよ!? 折角、私がプレゼントしたのに、それを無碍にするつもりなの?」
「流石にコレは高額過ぎるってか、Proじゃん。いくらなんでも、そこまで石田に甘えられないよ。ただでさえ、石田――いや、モモさんから沢山投げ銭をしてもらっているのに、これ以上は……」
「んなこといいから、いいから。気にしないで受け取りなさいよね」
「……なぁ、石田」
「なによ?」
「このスマホを有難く貰うかどうか、少しの間、考えさせてくれないかな?」
そこで石田は無言になる。なんとなく圧を感じる重たい空気。
少し間を置いて、石田は「分かった。それじゃあ」と言って、通話を切った。受話器越しにであるが、彼女の落胆した顔が見えそうだった。
こちらもやや気まずいままスマホの電源を落とす。
しかし何故、いきなり石田はスマホを送ってきたのだろう。
そのことについて、少し思考を巡らせてみると、先週、彼女との教室での会話を思い出した。
「そのスマホ、随分前の機種じゃない?」
「あ、ああ……中学の入学祝いに親父が買ってくれたヤツなんだ」
「中学生1年に買って貰った……ゲッ、それじゃあ6年間も機種変してないじゃん?」
「わ、悪いかよ……」
石田とそんなやり取りをしたな。けど、こんな些細なことを覚えていてくれただなんて感激だよ。
そして、古びれた自分のスマホを改めて見てみる。これは親父が買ってくれたものだ。だが、こんなもの。本当は今すぐにでも、窓を開け、放り投げてやりたい。
高校1年まで、ウチは円満だった。
だが、親父は消え去った。文字通り、蒸発したんだ。
高2になったその年の4月半ばの夜、親父は書き置きを残して、行方をくらました。
母さんとオレを捨てて、駆け落ちしたんだ。しかも、最悪なことに、相手はよりよって姫路遥のお母さんだった。
それから、山田家と姫路家は、坂を転がる石のように転落した。
ウチは父という大黒柱と共に家を失った。姫路家の父は、愛していた妻の失踪にショックを受け、気力をなくし、職を失う始末。
有名な私学であるウチの高校の学費とか、様々な負担が両家に重くのしかかった。
だから、オレはVTuberになって、動画配信で稼いでやろうと決意した。そして、18の誕生日ともに、スパチャも開設した。
クソッ、なんでだよ! どうしてこんなことになっているんだよ! 高1までは、陰キャでもなく、普通に級友もいて、楽しい学園生活を送っていたのに。なのに、なんでこんな!
怒りが収まらず、スマホを畳の上に叩き付ける。
大人の身勝手な行動により、子供が理不尽な目に遭い、振り回される。その結果、地面を這いつくばる羽目になったりもする。
そんなの許せねぇよ。許せるわけ、ないだろうが。
「けどなぁ、オレはそんなものに屈したりしねぇからな! もし、それが運命とか抜かしやがるのなら、抗ってやるよ。その運命とやらになぁ!」
荒い息を吐きながら、そう吠えた。
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