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君の幻想をぶち壊し

「でもさぁ、アンタとあの可愛い可愛い花園チョコラちゃんがコラボしてから感じた。ひょっとしたらって」

「そうなんだ?」

「うん、そう。あのコラボの日の翌日、教室でアンタと絡んで、益々疑念は深まったわ。けれども、あの上杉信玄様が山田の訳ない。そう自分の心に言い聞かせていたのよ。――うん、今にして思えばそう感じる」

「フムフム。じゃあオフ会で、オレと会ったときは?」

「嗚呼、上杉信玄様が、やっぱり山田だったんだって悟ってガッガリ」


 ああ、そうですか。済みませんね、君の幻想をぶち壊しちゃって。イマジンブレーカーでサーセンでした。


 不満げな顔をすると、石田が指で頬を突いてきた。


「――というのは嘘で、意外とガッガリしなかったんだなー、これが。寧ろ、この人が上杉様で良かったつーか。貴方、そのダッサイ伊達メガネを取ると、そこそこイケてるし」

「え、マジでそう思ったの?」

「コラボした時も感じたんだけど、実際の貴方って実は頭も回るし、トークも上手い。けど、そのことを知っているはクラスであたし一人だけじゃない? なんかさ、上杉様の秘密を専有してるのは、あたしだけと思うと、ちょっとした優越感があるんだよねー」

「はぁ、そーッスか。けど、オレが上杉信玄だとバレたら困る。くれぐれも内密に」

「それはお互い様でしょ? 私も花園チョコラなわけだし。お互いにVをやっているってのは、秘密ってことで」

「互いの秘密をシェアするってことか?」

「秘密のシェア、ね……アンタ、やっぱ上手いこと言うじゃない」


 石田はニンマリと微笑みながら、紅茶を飲んだ。彼女のか細い喉が上下し、それが不覚にも色っぽく見えてしまった。


 そのことを気付かれまいと、そっぽを向き、口にする。


「しかし、いきなり一緒に帰ろうだなんだなんて酔狂な。何かあったのか?」

「なによ? たまにはクラスメートと一緒に下校して悪いの?」

「いや、そういうことじゃないけどさ」


 と、石田はハーっと徐に溜め息をついた。あれ? なんかマズいこと言ったかな。


「実はなにもない訳でもなくて……あのさ」

「え、なに? ひょっとしてオレ、何かしちゃいましか?」

「実は小さなお願いがあるんだけど、いいかな?」

「お願い? ゲーム部のことは、ある程度把握しているが、そのことではなく?」

「そっちの方じゃなくて、もうちょっと小さいお願いなの」

「まぁ、内容によってはオーケーだけど。何?」


 隣の可憐な女子に目をやると、彼女はぷるぷると打ち震え始めた。と、次の瞬間。


「こ、紅茶ご馳走さまー。やっぱ、あたし行くわ」

「お、おい」


 止める間もなく、石田は立ち上がり、駆けていってしまう。オレは彼女を追うわけでもなく、座ったまま遠くなっていく後ろ姿を見ていた。


 なんだったんだ。

 あの石田の小さなお願いって、一体……


 少しばかり惚けながら空を見上げると、これでもかとばかりに空が茜色に焼けていた。


 飲みかけの缶コーヒーをちびちびと飲み、それを飲み干してから、ようやくベンチを立とうとすると、ポケットから振動が伝わった。スマホのバイブか。


 ポケットからスマホを取り出し、スリープモードを解除し、ラインを立ち上げる。石田からのラインか。


「あのね。やっぱり小さなお願い、言ってもいいかな?」


 それに対し「どうぞ」と返信する。


「や、山田。アンタにじゃなくて、上杉信玄様にお願いがあるの。あのね……」


 石田が上杉信玄にお願いだと? なんじゃそりゃ。


「あの……信玄様。『お早う、美鈴』と『それじゃあお休み、美鈴』と『よく頑張ったね、美鈴』って。そう言って欲しくて、その……」


 なんだこの細やか願いは。それぐらいお安い御用なのだが。だって、オレが上杉信玄なのだし。


 そこでふむと思案し、文字をタップする。


「了解。じゃあ、上杉信玄にそうリクエストがあったって伝えておくよ」

「本当に?」

「うん。今夜にはそのリクエストが上杉に届くかもな」

「やった! えへへー。サンキューね、山田。信玄様に宜しくねー」


 その後、グッドのスタンプが送られてきた。


 まぁ、石田――いや、花園チョコラ――いや、オレの動画配信の熱心に応援してくれているモモさんの頼みなら、きかなきゃいけないだろうな。


 そんな風に感じながら、家路についた。


 そして、部屋に戻ってから「ぐあああああ」とのたうち回る羽目となる。


 石田から要求された台詞を言うのが、恥ずかしくて堪らん。だが、今更断るわけにもいかんだろ、こりゃ。


 PCを立ち上げ、マイクに向かい、石田のリクエスト通りの台詞、全三種類をどうにかこうにか言い放った。


 上手く録音か確かめるのもこっぱずかしいので、音声データをとっとと3つのMP4ファイルにして、PC版のラインからその音声データを石田に投げつけた。


 そうして10分もした頃、石田からラインが来た。

 見ると「ありがとう」と可愛らしいスタンプだけが、無愛想に貼られていた。

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