噂になると嫌だから
そうして歩いて、校門を出ると、後ろから「やまだー、ちょい待ってー」と声がした。この声音は石田か。ヤツと関わると、イマイチ碌な事にならない。無視しよ。
そうして、校門から50mも行ったところで、後ろからガッシリと肩を掴まれた。振り返ると、石田が息を切らせている。
「どったの?」
「いや、たまには一緒に帰ろうかと思ってさ」
「噂になると嫌だから」
伝説的な某恋愛ゲームのキャラのように石田を無視して行こうとすると、彼女がピッタリと横についた。やれやれ、コイツに皮肉は通じないか。
諦めて二人で歩道を行く。
駅の近くまで行くと、石田が「ちょっと付き合いなさいよ」とオレの手を引っ張り、駅裏の方へと誘った。というか、拉致された。
少しばかり歩くと、大きくもなく、小さくもない至って普通の公園があった。駅裏なので、ウチの高校の生徒の姿はなかった。
「なんか飲む?」
公園の前に設置された自販機の前で足を止め、石田に訊く。
「わっ、奢ってくれるの? ラッキー。それじゃあ、あたしは午後ティーで」
ポチっとなと石田が自販機のボタンを押す。彼女が取り出し口から紅茶を取り出したのを見てから、自分用に微糖の珈琲を買った。
それを手に園内に入る。多少、子供達が遊んでいるが、それほど多くはない。そもそも遊具がないしな。
「今の子供は可哀想だな」
「なんで?」
「危険とか煩いという名目で、次々と遊具が撤去されてさ。今じゃブランコすらない。寂しいもんだよ、全く」
「んー、そうねー。言われてみればそうかも。ウチ等の小学生の頃までギリそういうのがあったかなーって印象」
「だな。しかも低学年までだ。遊具撤去ときて、次にボール遊び禁止。ほんじゃ、何をして遊べばいいんだか分からんよな」
「うん、そうかもね……」
ちょっとばかりしんみりとしてしまった。
二人で園内を散策し、手近にあるベンチに腰をかけた。
「あっと、そういえばさ。ちょっと聞きたいことが」
「何かね、山田君」
「んーと。なんていうか、昼に女子達が『上杉信玄』の話してたじゃん。声音が一緒なのに、よくバレなかったって思うのだが?」
「ああ、それ。そりゃそうよ。言ったらなんだけど、アンタ、教室ではあまり喋らない『地味男君』なんだし。つまりさ、そういうキャラに――ううん、レッテルを貼られているの」
「まぁ、そだね。確かに」
素直に石田の言葉に頷いた。
「人間、先入観から意識のフィルターが出来る。つまり、アナタは教室ではあくまで『地味男君』だから、そうなってしまうのよ。人の意識のフィルターは、恐ろしいもので、アナタの声音が『上杉信玄』と同一でも、あの地味男君がそうだと考えもしない」
「成程な……」
「そんなものなのよ。精々、感じたしても、ちょっとイケボだなーとか、ちょっと上杉信玄に似てるなー程度にしか思わない。頭の中で、地味男君と上杉信玄とはイコールとはなり得ないの。だから、ちょっと似てるなーと感じても、それをすぐに否定して、上杉信玄とはならず、地味男君のポジションで固定してしまう。人の先入観なんてそんなものよ」
オレはちょっと目を凝らして石田を見た。
「何よ?」
「いや、お前。意外と説得力あんのな。ちょっと感心した」
「そりゃ、説得力ありまくりでしょ。ああいう生業していれば、自然と洞察力とトーク術が上達するものよ」
「ふむ、確かに」
プルタブを押して、一口珈琲を飲んだ。やや甘いはずのそれは、少しビターに感じた。
そこからちょっと考え、ポンと手を叩いた。
「じゃあ石田はオレのことどう思っていた?」
「まぁイケボだけど、地味よねーくらいにしか思ってなかった。だって貴方、極端に口数が少ないんだもん」
「あ、そうなん」
オレはがっくりと項垂れた。
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