姫路 遥
翌日、二つばかり先の駅にある総合病院に足を向けた。
特に花束とかは買わずにやって来た。病院について、エレベーターに乗り、5階で降りる。廊下を歩いていき、病室を開けた。
大部屋なので、音に気を遣いながら、奥にあるベッドまで行く。
そこのカーテンを開けると、姫路遥がいた。一つ年下の近所の子。
ウチの高校に通っているが、病弱なので、入退院を繰り返している。
そんな遙が微笑むと、それは儚げで、守ってやりたくなって……
「あ、哲君。来てくれたんだ?」
「おうよ。体調はどう?」
「うん、平気。さっきまで微熱があったけど、哲君が来てくれから、治っちゃったよ」
「なんだそれ? オレは遥の薬かよ?」
「うん、そうかもしれないね」
遙がクスクスと笑ったので、オレもつられて口の端を上げた。
「と、これ。差し入れ的な見舞い。お前の好きなお菓子も入ってるから」
「うん、ありがとう。後で頂くね。それより、またアレを入れてきたんじゃないよね?」
「いや、入れてきたが?」
「もう、そういうのは止めてよねって言ったよね?」
「ちょっとバイトを頑張ったからな。店長が多めにバイト代をくれたから、問題ないって」
「……受け取っておくけど、来月からはやっぱり止めて欲しいかな」
遙は口を尖らせた。
アレっていうのは、要は商品券だ。前に金を包んだら、遥から思いっ切り怒られたから、それ以来商品券にしている。
言っちゃあなんだか、姫路家もあまり裕福ではない。それなのに、遙が入退院しているので、あちらの家計も大変だと容易に察しがつく。だからこその商品券なんだ。
つまるところ、オレは金が要る。お袋への生活費と姫路家への商品券を買うお金が。だから、オレはVTuberやって金儲けしている。
守銭奴と言われようが、二人のためなら気にしない。二人の役に立ってくれたら、それだけで満足なのだから。
「でもさぁ、哲君」
「なんだよ?」
「ウチの高校、一年前から校則厳しくなったなったよね。なのに、バイトなんかして平気?」
「バレないように上手くやってるから、大丈夫」
オレはドンと胸を叩く。まぁ実際のとこ、VTuberやっているのが、いつか学校にバレやしないかと、ビクビクしているのだが。
しかし、ウチの高校は自由な校風っていうから、入学したのに。いざ入ってみたら、いきなり校則が厳しくなり、バイト厳禁となった。
それが、あの石田の父が絡んでいるのだから、たまったもんじゃない。
なんだそりゃの詐欺状態だっての。
オレはベッドの脇にあるパイプ椅子の背にもたれた。
運悪くかどうかは知らないが、ウチの母はこの病院の看護師を長年やっている。となると、遥とも当然親密なわけで。家も近所だしな。
難しい顔をしていると、遥が話しかけてきた。
「ねぇ、哲君。学校のお話をして」
「よしきた。――と言いたいところだが、学校のネタはあんまりないな」
「もしかして、ハブられているとか?」
「馬鹿言え、遙。オレなんか、モテちゃってモテちゃって、そりゃあリア充してますよ。学園生活、バンザーイ」
「クスクス。そうなんだ?」
「お、おうよ……」
何やら本当は、クラスで陰キャですってのが見破られている気がする。彼女の透き通った瞳を見ると、見透かされているような……
まぁ、互いに幼馴染みだしな。言葉にせずとも、分かるところはあるし。
「なぁ、遙。学校より、今、VTuberってのが熱くてだねぇ。花園チョコラのチャンネルが面白いんだよ、これが。彼女、女の子のくせに神ゲーマーでさ」
「うんうん。それで? どんなゲーマーなの?」
「それはだなぁ。なんつーか、反射神経が尋常じゃないっていうか……」
といった具合に、見舞いに来たのに、何故かあの宿敵となったチョコラの話題になってしまった。だが、遙も喜んでいるみたいだし、まぁいいか。
ふと窓から外を見ると、青空の向こうにどんよりとした灰色の雲。そろそろ5月は過ぎ、梅雨の時期になるのか。
ぼんやりとそう感じながら、遥と世間話に花を咲かせた。
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