山田哲はお金が欲しい
築30年のボロアパートの階段を昇ると、ギシリギシリと鉄の軋む音がする。
安っぽい鉄階段は、所々錆びていて、そこを踏み抜きやしないかと、毎日ビクビクしながら上り下りしている。
「ただいまー」
鍵を回し、ドアを開ける。玄関口で靴を脱いでいると「お帰りなさい」と、狭いキッチンから声がする。あ、母さんは今日、夜勤じゃなかったんだな。一応、金を下ろしてきて正解だった。
母さんが料理を作っているので、オレは自室に入った。
母さんは看護師をしていて、女手一つで養ってくれてる。実にありがたい話だ。
けど、母さんのシフトは、滅茶苦茶。夜勤もあれば、日勤もある。看護師は過酷な仕事だと、なんとなく知ってはいる。あまり無茶もさせたくないなぁ……
そんなことを考えながら、机の前の椅子を引き、そこに腰を落ち着ける。
鞄から教科書などを取り出し、ざっと宿題をこなした。
あらかたの宿題を終えた時、隣室の居間から声。
「哲、ご飯出来たわよー」
「分かった。すぐ行く」
そうして、襖を開け、隣室へ。6畳の畳部屋が我が家の居間――というかリビングとなっている。あとは、狭いキッチンとお袋の部屋あるだけ。所謂2LDKというやつだ。
「いただきまーす」
手を合わせてから、箸を掴む。
手作り餃子を「あちあち」と頬張ると、パリッと焼けた皮の食感がして、噛み心地がよい。勿論、刻んだニンニクやニラ、ひき肉の味付けも抜群だ。
ご飯をおかわりして、他愛もない話をする。
「学校はどうだい?」
「まぁ、普通に過ごしているよ」
「この前の中間試験の成績はどうだったの?」
「なんとか学年10番以内を確保したよ」
「そうか、そうかい。哲は私と違って頭がいいからね。このままならいい大学にいけそうだね」
「うん、まぁ、ね……」
そこで言い淀んでしまう。ウチは母子家庭で、金銭的な余裕はない。故に、大学など行きたくても行けない。そんな現状。
高卒で働くしかないよな、実際……
今はVTuberをやって、稼いでいるけど、頼りすぎるのも危険だ。余程の大物VTuberなら安泰だろうが、オレの人気はアホほどあるわけでもない。
ただ今は、投げ銭をしている子がいてくれるからいいけど、ファン心理など移ろいやすいもの。それは重々承知している。
まぁけど、高卒で働いても、今の収益より大分落ちることになるよなぁ……
そう思案しつつ、食事を終えた。母さんが旨い手料理を振る舞ってくれたので、オレが洗い物をする。
それが終わってから、部屋に戻ろうとしたが、ふとあることに気付いた。
「母さん、これ。今月分」
銀行の袋に入った15万円を差し出した。
「3月から毎月じゃない。いいのかい? だって、お前が頑張ってバイトして稼いだお金でしょ。自分のお小遣いにしなさいって何度も何度も」
「いいから、取っておいてくれよ、母さん。それから、あんまり無理なシフト組むなよ」
つい声が尖ってしまった。母さんはしゅんと萎れてしまったので、居心地の悪くなり、とっとと自分の部屋に戻ろうと襖に手をかけた。
「と、哲」
「なんだい?」
「明日は遙ちゃんのお見舞い行くの?」
「ああ、そのつもりだけど」
「そう。彼女、いつも寂しそうにしているから、そうしてあげるといいわ」
「うん。だね」
そこで会話を打ち切った。
明日は土曜日だし、時間的余裕がある。
遙に会いにいかなくちゃな……
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