ダジャレの否定から始まる恋 ーその駄洒落は許せなかったー
「テツヤ君とマナちゃんが待ってるわ。はやくー」
「ハイハイ、今行くよ母さん」
急かす母を言葉でなだめ、上着を着ながら玄関へ。
「今日から高校1年生。頑張ってね、チコウ」
「うん」
俺の名前は古久和地口。今日から地元の高校へ。
「おう、待ったぜ」
「はやくいこー」
幼馴染の二人が玄関で待っていた。
「全く、とっとと着替えてこいよ」
「悪い悪い」
男の方はテツヤ、金髪で短気で、少々口が悪いが友達思いのいいやつだ。
「ふふ、そんなに怒らなくても」
「まあ、そうだな」
女の方はマナ。俺達の世話役。この二人とは昔っからの幼馴染。幼稚園から一緒という筋金入り。
「それじゃ、いこうか」
三人で学校へ。
「それにしてもよかったー。クラスも一緒なんだよね」
「だな。やりやすい」
「ハハハ、腐れ縁ここに極まれりだな」
桜の木が植えてある道を歩く。ひらひらと桜の花が舞い落ちてくる。
「今年は満開だね」
「去年は雨ですぐ散っちゃったよな」
会話をしながら学校へ向かう。
「着いたぜ」
県立佐賀高等学校。これから俺達が3年間勉強するところだ。
「お、メチャ美人の先輩が」
テツヤが指差す方を見る。
「うわー、大量のイケメンに囲まれてる」
校庭で黒髪ロングの先輩がイケメン達を相手にお話をしていた。
「ありゃー高嶺の花だな。ライバルが多いし強すぎる。顔面偏差値どんだけだよ」
「ハハ、俺達には関係のない世界だな」
そしてその集団を通り過ぎようとしたとき。
「それでね、食べようとした時に箸を落としちゃったのよ。そのときに箸が走ってね」
黒髪ロングの先輩が駄洒落を。背筋に寒気が。
「ハ、ハハ」
イケメン達はどう反応したらいいか困っている。何人か顔色が悪い、校長の話を聞いて倒れそうな人みたいな顔になっている。
「なるほど、アレかな」
異様につまらないダジャレを言う美人がたまにいる。まわりからちやほやされ、それを咎める者が居なかった場合、そうなってしまうことがあるらしい。
「桜の花が舞いすぎて参っちゃうよね~」
「そ、そうだね」
イケメン先輩たちが脂汗を流している。参っているのはイケメン先輩たちの方だよ。そして。
「どうした、チコウ?」
「おい、まさか。やめろ!」
俺も我慢の限界だった。テツヤの制止を聞かず、ロング先輩のところへ。
「先輩」
「?」
「ダジャレを甘く見ると、(社会的に)死ぬよ?」
「えぇッ?」
「駄洒落は単純にして究極。そして――」
(あちゃー、始まっちまった。マナ、止められそうか?)
(あーなっちゃうと無理だね。途中で止めると余計ややこしくなる)
(そうだな)
(ハァー、普段は良い奴なのに。ダジャレが絡むとおかしなことに)
「というわけなんですよ。先輩」
「ハッ!?」
唐突に我に返る。しまった、やっちまった。つまらないダジャレを聞くと説教したくなる癖がこんな時に発動するなんて。
唖然としているロング先輩とイケメン先輩達。
「す、すみません。コイツ、こだわりが強すぎてたまにおかしなことを言うんスよ。スンマセン。ほら、お前も謝れ」
「すみませんでした」
「じゃこれで」
(逃げるぞ!)
「ダダダダ」
昔からよくある流れ。テツヤが謝りに入って速攻で連れ去っていくパターン。
ゴメンねテツヤ、俺またやっちゃったよ。
「ハァー、たくっ。お前は」
「わりぃ」
「まあ、退屈はしないけどな」
翌日。
(あ、昨日みたいにイケメン引き連れてるな)
(よし! コソコソと登校するぞ!)
(なんで私まで……)
一週間後。ロングの先輩はいつものようにイケメンをまわりにはべらせている。
「よかった。あれから特に問題は起きなかったね」
「だなー。反省しろよ? チコウ」
「すみませんでした」
会話をしながら下駄箱へ。
「それでよー」
「おや?」
話をしながら靴を取り出そうとしたら中に手紙が入っていることに気がついた。
「なんだそれ?」
「う、うそ!? チコウに限ってそんなこと」
「いつもいい人なのになんでこんなことをしてしまったんだ、みたいな言い方はやめて」
ひと気の少ないところまで行き封筒を開ける。
「ラブレターか?」
「お前ら着いてきたんか。まあいいけど」
「んーと」
『今日の放課後、校舎裏、理科室の裏で待ってます』
「これは!」
「こら、勝手に見るな」
「ど、どうする? チコウ」
「んー」
「好いてくれるのは嬉しいけど、俺はその子のことを知らないからね。断るさ。知ってる子だったらまた話は別だけど」
「そ、そうか」
「チコウらしい」
(マナ、俺達もいくぞ)
(ええっ、それは相手側に悪いんじゃ)
(もしかしたらイケメン先輩たちの誰かって可能性もある)
(そっち系!?)
(そうじゃなくて。ロングの先輩に恥をかかせたとかそんな感じでシメるかもって話だ)
(なるほど)
放課後。
「じゃあまた明日」
「またな」
「じゃーねー」
俺は指定された場所へ向かった。そしてそこに居たのは。
「ロングの先輩?」
(なにーーー! どうして先輩が!)
「太砂玲よ、皆からはレイって呼ばれてる
「古久和地口です」
「チコウ君、実は」
(チコウが落とされちゃう!)
「私の、ダジャレの先生になってもらいたいの」
「ズルー」
「ん? お前らなんでこんなところに」
「あ、いけない」
「いけない、じゃないだろ」
「ふふ、仲がいいのね」
「すみません、レイ先輩」
「気にしないで」
「私達も。マナです」
「テツヤです」
「レイよ」
「それでどうかな? 受けてもらえる?」
どうしようかな。ああ、でもこの前迷惑かけたし少しくらいならいいかな。
「いいですよ」
「やったー!」
俺はその時、レイ先輩の嬉しそうな笑顔を見たときドキリと心に来るものを感じた。コレはいったいなんだろう。
「あ、それで今日はあまり時間がないから明日からお願い! これから考古学の先生の遺跡探しのお手伝いに行くのよ」
「佐賀市に遺構か。俺も探しに行こうか?」
「ん?」
「先輩、今のわかりませんでした?」
「え?」
「ダジャレはもう始まっている」
「どゆこと、マナちゃ……、ハッ!」
「ほほぉ! メモメモ!」
結構強引なダジャレだったけど気が付かなかったか。まあ、ここらは徐々に。
「ありがと! また明日!」
「いえいえ」
これから騒がしくなりそうだ。今まで以上に。