表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

ACT.3 Girl's innocence <2>

 ユスティティアの格納庫内、“ツギハギ”と称するに相応しいクラウルが一機、イモータルアウラの列に混じって並んでいる。

 ツギハギ――。それは、部位破壊されてしまったブラッドのクラウル、その右腕のパーツを別のアウラの物に挿げ替え、脚部も同様の処置で何とか揃えられている。

 故に灰色のクラウルの装甲の色とは馴染まないその漆黒の腕がアンバランスさと不出来さを形容する。ツギハギの中、ブラッドは機体のOSを起動しつつ通信機に耳を傾けていた。


『ブラッド、“ツギハギ”はどう?』


「前より全体的に出力が上がってる気がするんだけど」


『そりゃそうだよ、改良したもんね。ま、他のイモータルの余剰パーツを規格品に当てはまるようにしただけなんだけどさ』


「あれ? そうなの? 見た目的にはそんなに変わらないけどなあ」


 黒い腕の様子をチェックする。元々クラウルから派生する機体なのか、或いはフィーナが規格を合わせたのか……。どちらにせよ通常のクラウルよりもハイスペックなその腕はしっかりと馴染み、不都合があるようには感じられない。

 通常のクラウルの腕よりも僅かに長く、指も鋭い黒い腕――。かつてブラッドが乗っていた上下分断されていた機体の腕だけにその扱いはどこかしっくりくる気がしてならない。


『リペイントまで仕上げる時間がなかったからそんなだけど、やれるよね?』


「この際動けば贅沢は言わないよ。ありがとう、フィーナ」


 腕が違うだけに武装も変わってくる。腕部に内蔵されている小型のレーザーナイフが使用可能になり、装備武装はレールガンを腕に、ハンドガンを脚部にマウント。


『ブラッドは無理をせず、プロセルピナとウルカヌスの援護に回って。今回ので例の機体、確実に捕獲するよ。絶対に逃がさないようにね!』


「了解。クラウル・継ぎ接ぎグラフトで出ます! クリフ、アイリ、お先に」


 “グラフト”がリフトに移動し、隔壁が下ろされると同時にユスティティアの甲板へと移動して行く。そのコックピットの中、ブラッドは一人考え事に耽っていた。

 コスモスにやってきて一月。段々と仲間とも心を通わせて来た。コスモスの居心地は悪くない。ずっとここに居る事が出来ればどれだけ幸せか……そう考える。

 優しい優紀。明るいクリフ。ほうっておけないアイリ。イリウムとは結局多く言葉を交わせなかった事が悔やまれる。色々と考えた挙句、結局それは中断した。

 今は考える時ではなく動くべき時だ。最後の戦場では既に火の手が上がり、爆音と銃声が鳴り響いている。ギリギリまで陸に寄せながら航行するユスティティアの看板に乗り出し、リフトから足を踏み出す。

 看板をしっかりと踏みしめ、重い動作でグラフトは顔を上げた。カメラを最大まで望遠しても戦地の様子はハッキリと見て取る事は出来ない。しかしこれがコスモスの力を最大限に利用した、“最後の捕獲作戦”になる――。

 敵の目的がある程度見定まり、犯人の大まかな特定が出来たのは今から数時間前……。敵の手口も、大まかな狙いも、作戦内容も、既に充分過ぎるだけのデータをコスモスは手に入れていた。


「今回の事件、例の機体を開発したのは“香木原 誠”……。M.F.G.のアウラ開発者だね」


 数時間前、ミーティングに集まった一同の前でフィーナは作戦図面を広げながらそう切り出した。


「香木原はM.F.G.の技術者なんだけど、このアウラの映像データを見せたら直ぐにそうじゃないかって線があがったよ。元々香木原はフリーの技術屋で色々な会社を渡り歩いていたらしいんだけど、現在はM.F.G.に席を置いているのね。ただ正社員というわけではなくて、毎日出勤してるわけでもないと。そんなんだからM.F.G.も動きを気にしてなかったらしい」


 香木原は自らの開発するアウラを崇拝し、それこそが最強で後の世を切り開く存在であると信じてやまない、妄執的かつ非常に高い矜持を持つ男であった。

 彼が様々な会社を転々とした理由の一つに“実現不可能と思われるアウラ”の開発計画を持ちかけ、それを却下された事が上げられる。

 元々人道的観念やパイロットへの負担、コスト面などでも彼の開発するアウラは会社の利潤に沿う物ではなく、“ただ切り詰めたハイスペック”にしか興味を示さない香木原には企業も難色を示していた。

 結果、香木原は自分の理想を叶える為に様々な会社を渡り歩き、そして先日同じ企画をM.F.G.に持ちかけ、同じように却下されていたのである。


「調べたら香木原が渡り歩いてきた経歴と今回襲撃されてる工場との被害の順番がピッタリ一致してたんだよ」


「……つまり、あれか? 自分の才能を認めてくれなかった、計画を支持してくれなかった企業に片っ端から復讐してるって事か?」


「そういう事になるね。段々と大企業になって行ってるのは単純に彼が大きな企業に段々雇われるようになったって事でしょ。で、被害が丁度この順番だとすると――」


「――香木原はもう、M.F.G.しか狙わない。彼が最も期待を寄せ、しかし裏切った最大の“仇”こそ、M.F.Gだから……。そういう事ね」


 優紀が腕を組みながら捕捉する。つまり最早敵の狙いは定められたのである。とは言えM.F.G.は世界最大規模を誇る大企業でる。アウラ生産工場だけでもどれだけの数があるか分かったものではない。


「そこで、更に条件をつけて相手の動きを絞り込んだの。条件はまず“夜”である事。それから、“離脱能力を持たない”無人機インフェリアを同行させているという事」


 離脱能力を持たないアウラ、それはつまり作戦エリアに素早く移動する事が出来ないとも言える。相手にしてみればただの自爆用アウラ、そしてどれが自爆用アウラなのかを特定させない為のダミー数機なのだから、わざわざ帰還させる事は前提として居ない。

 それはつまり現地へは何らかの別の方法で輸送を行っているという意味でもある。陸路、海路、空路……。アウラを数機、目立たず輸送するのは難しい。毎回海の近くというわけではないのならば海路は難色。陸路は国教や様々な都市を越えて作戦展開されている事を考えると足が付きやすい。


「で、連中は結構高度な迷彩技術を持ってるみたいなんだよね。だからまあ……空路による降下作戦、この辺りが正解に近いかな」


 いくら迷彩で外部を装った所でその姿を確認する手段はいくらでもある。熱、動き、光……そうした特殊な装備を搭載させた探知用アウラをM.F.G.の各地に派遣するのである。


「工場周辺に探知アウラを設置して連中の動きに網を張る。コスモスの規模と能力で“強引に絡め取ってやる”感じだね。それに相手も行動拠点があるのか、ある一定のエリアしか襲撃して無いんだ。結構な広範囲になるけど、大まかな輸送機の作戦行動可能エリアが絞られるし、護衛範囲も大雑把に割り出せる」


 作戦はシンプルな人海戦術である。敵を察知したらユスティティアよりイモータルアウラを発進。現地での直接戦闘はプロセルピナ、ウルカヌスの二機で行う。

 作戦目標はアンノウンアウラの捕獲にある。このアウラを実際に作り上げたのが“どの企業でもない”というのならば、その裏には必ず大きな“蔓”が延びているだろう。アンノウンを捕縛できればそこから文字通り“芋蔓”に出来るかもしれない。

 戦闘エリア周辺には大漁のアウラを潜ませ、逃亡を阻止するようにエリアを形成する。M.F.G.の協力を得て、エリア内は完全無人とするのだ。

 基本相手は目立つ事を恐れ都市部の付近には攻撃を仕掛けない。それはコスモスにとってもありがたい事である。スポンサーでもあるM.F.G.さえ協力してくれれば、“心置きなく作戦に専念出来る”のだから。


「クリフはウルカヌス、アイリはプロセルピナで目標と戦闘。正しパイロットは殺さず、出来れば機体も大破はさせないで。ミネルアは遠距離からの援護、アンノウンが逃亡を図った時は最悪撃墜、それから周囲の自爆機の処理をお願いね」


「えーと、僕は……?」


 おずおずと手を挙げるブラッド。その様子にフィーナは苦笑を浮かべ、それから小さく咳払いする。


「ブラッドはクリフとアイリの援護。ミネルアが撃ち漏らすとは思えないけど、自爆されたら全員跡形も残らないから、周辺の自爆機、並びにダミー機を撃墜。その後やばそうになったら後退! 以上!」


「なあフィーナ、それブラッドは居ても居なくても同じじゃねえか?」


「うんまあ、ぶっちゃけね」


「酷いなあもう……。よおし、皆の期待を裏切って活躍しちゃうぞ〜」


 ブラッドのそんな笑顔に誰も真顔で答えようとはしなかった。ほぼ無視する形で話は進められる。


「たった一機が相手だけど、今回ばっかりは“やりすぎ”って事はないでしょ。絶対にこれで終わりにするよ! 諸君らの健闘を祈る! 以上!」


 フィーナの一声でミーティングルームから多くの仲間たちが去って行く。大きな人の流れの中、ブラッドは振り返ってアイリの後ろ姿を見つめていた。

 ふと思うのだ。もう少し、自分に出来る事はあったのではないかと。しかし今となっては全ては遅い。戦いを前に考えるような事ではない。

 炎の対岸……ブラッドは小さく呼吸を整える。操縦桿を握り締め、レールガンを片手にバーニアを暖める。

 背後、順番にリフトで昇って来たプロセルピナとウルカヌスがグラフトの前に出る。二機はグラフト同様にバーニアに火を灯した。


『先に行くぞブラッド! アイリ、付いて来い! ウルカヌス、先行するッ!!』


『了解……。プロセルピナ、ウルカヌスに続いてジャンプする。ブラッド……海に落ちたりしないでね』


「あはは、精々気をつけるよ」


 バーニアの炎を巻き上げながら跳躍するウルカヌス。それを追い掛けるようにプロセルピナも飛んで行く。二つの機体があっという間に遠ざかるのを見送り、アイリが自分の事を気にかけてくれたのだろうか? などと余計な事を考えつつブラッドもまたフットバーを蹴り飛ばす。


「援護宜しく、ユウコ。クラウル・グラフト、行って来ます!」


 ツギハギのクラウルがバーニアを瞬かせ飛翔する。光の軌跡を残し、海面すれすれを飛沫を巻き上げながら闇の中を突き進んで行く。

 目指すその先、視界が捕らえる紅く空を焦がし続ける戦場。ブラッドは陸を前にもう一度呼吸を整え、それから静かな瞳で最果てを見据えていた。



ACT.3 Girl's innocence <2>



「カギハラッ!! 戦闘エリアから離脱しろッ!! 連中、いよいよ網を仕掛けて来たぞッ!!」


 アザゼルのコックピットの中、マリスの怒号が響き渡る。先ほどから断続的に降り注ぐミサイルの雨、それを工場の影に紛れるようにして何とかやり過ごし続ける。

 コスモスが配備したアウラたちは全員が遠距離装備である。その全てが長距離砲やミサイルを発射し、アザゼルは完全な防戦一方に追い詰められていた。

 海沿いのM.F.G.アウラ生産工場。そこは今や完全な無人地帯となっていた。工場地区に紛れ込めば迂闊に攻撃されないと踏んでいたマリスの予想を裏切り、コスモスの砲撃は一向に鳴り止む気配を見せない。

 埋め立てられたポートアイランドの工場。無人の工場には火の手が上がり、アザゼルは熱の影に隠れるようにして息を潜めていた。六機連れてきていた自爆機は既に三機にまで減り、アザゼルもまた砲撃の雨に晒され装甲の各所に異常が発生していた。

 強い熱に囲まれ迷彩も役に立たない。脱出を断念し、円形の包囲網の中心部にある工場の真ん中に潜んだ途端に砲撃が鳴り止み、マリスは舌打ちした。


「あくまでここに閉じ込めるつもりか……! カギハラ、離脱しろ! 相手は長距離装備だ! 撃ち落されたいのか!?」


『し、しかし……! 私のアザゼルが……!』


「今はうろたえている場合か、“くそめがね”ッ!! アザゼルは絶対にやらせない……! わたしがアザゼルを守り抜いてみせる! おまえは帰って指でも咥えて待ってろ、“ばか”!!」


『ば……!? この天才に向かってばかとは何ですか、ばかとは!? ええい、もう知りませんよ! 絶対にアザゼルを無事に持ち帰って下さいよ、マリス・マリシャ!! さもなくば――!」


 マリスは通信機に手を伸ばし、それに拳を叩き付ける。通信が途切れ、代わりに砂嵐が飛び込んできた。


「判ってるよ……! そんな事は、言われなくても……わたしが一番――ッ!!」


 歯軋りし、操縦桿を強く握り締める。額から汗が流れる。絶体絶命と称するに何ら問題のない状況――。逃げ道は無く、こちらには飛び道具も無い。

 アザゼルが近接戦闘特化機体である事をコスモスは考慮して配置している。完全にこちらが後手――。いくらアザゼルが高性能なIMアウラだろうが、有効レンジが圧倒的に違いすぎる。文字通り“これでは手も足も出ない”。

 作戦指示を飛ばしていた誠の乗る輸送機がエリアから遠ざかり、無人機は全員作戦を中断させられ行動不能状態にあった。アザゼルの太股の内側、マニピュレータでコードを取り出し三機のアウラ全てに有線を繋ぐ。


「シェムハザ、連中に新しい行動シーケンスを入力する。こちらからの遠隔操作、許可出来るか!?」


『了解です、マスター。外部入力シーケンスの再インストール並びに三機のインフェリアへの指示プログラムのインストール開始します』


 “シェムハザ”。アザゼルに搭載された人工知能。それは戦闘中のアウラ動作補助だけではなく単独の戦闘を主眼に据えたアザゼルにとって必要な“臨機応変さ”を補ってくれる。

 通常無人機は誠が遠隔操作する機体。基本的な作戦行動、自爆へ向けたシーケンスのみを履行する。しかしこうなってしまった今自爆などされてはアザゼル諸共吹き飛ばされる事になる。それは誠も判っていて、既にその命令は遠隔操作で撤回されていた。

 残るはこの後この三機をどのようにして動かすかにかかっている。内臓されているキーボードを引っ張り出し、アザゼルのコンピュータに入力を続けるマリス。


『外部入力シーケンス起動。無線で操作が可能です』


 シェムハザの報告を受けアザゼルはコードを引き抜き格納する。それと同時に剣を引き摺り炎の中で移動を開始する。


「シェムハザ、続きを頼む! 三機に同じ行動シーケンスを入力してくれ!」


『了解。システムインストール作業を引き継ぎます』


 火の手があがる工場の中、陽炎の様に揺らいでしまう迷彩を解除し炎を突き抜けてアザゼルは全身する。コンクリで押し固められた大地、正面から疾走する影が三つ――。


「――――ブラッド・アークスのクラウルも居るじゃないか。こんな短期間で良く直す――!」


 相手の姿を認識したのはマリスだけではない。クリフ、アイリ、ブラッドの三人も既にアザゼルの姿を視認していた。


「あいつか……! 散々かき回しやがって!」


「クリフ、先に仕掛ける。援護して」


「殺すなよ! 貴重な情報源だ! 各機散開!」


 クリフの声と同時にプロセルピナが加速して正面から迫る。それをフォローするようにウルカヌス、クラウル・グラフトが左右から回り込む。

 プロセルピナは両手に構えた二丁のアサルトライフルを連射する。剣を盾に構えるアザゼルとの第一接触は擦れ違いで終了し、背後に回りこみ通り過ぎるプロセルピナの脇、ブラッドとクリフが同時に攻撃を開始する。


「壊さない様にって言うのはな……! 俺にはちょっと酷だぜ!」


 脚部に装備したミサイルを一斉に放出するウルカヌス。黒煙を巻き上げながら上空に浮かび上がり、軌跡を描いてアザゼルに襲い掛かる。

 そのミサイルから逃げようとバーニアを噴かして高速移動するアザゼル。ミサイルを迎撃出来る武装を持たないだけに結局は逃げ回る事しか出来ない。

 クラウル・グラフトがレールガンを放つ。紫電を帯びながら吐き出された弾丸はスケープゴートに直撃し、鈍い音を立てて瞬く。接触の衝撃と摩擦で一瞬闇の中に光が浮かび上がり、レールガンの威力を物語る。

 連射は出来ないそれを構えたままブラッドは後退する。アザゼルは剣を低く構え、在ろう事かブラッド目掛けて投擲した。

 アスファルトの大地の上を回転しながら滑る大剣。僅かに跳躍して回避するブラッドの背後、工場の壁に剣が突き刺さる。


「ブラッド、避けろッ!!」


 クリフの声で正面を見やる。アザゼルは腕から放ったアンカーファングをミサイルに突き刺し、体ごと捻るようにしてブラッド目掛けミサイルを投げつけていた。

 正面から迫るミサイルにブラッドはハンドガンで対応する。素早く引き抜き構え、弾頭を撃ち抜くと空中で爆発が起こった。瞬く紅い閃光の影に滑り込むようにして逃げ込んだアザゼルの上空、ミサイルは次々に誘爆して空を照らす。


「何も見えねえ……ッ!! こいつ――良く動きやがるっ!!」


 煙幕となったミサイルの爆風の向こう側、消えて行ったアザゼルの影を追うようにイメージし、両腕に構えたライフルを放つ。勿論命中させるようなつもりは無く、牽制による射撃。

 右にスライドしながらライフルを撃ち続ける。ミサイルの爆発、煙幕に巻き込まれてしまったブラッドはその間に脱出し、レールガンを構え直す。


「あっちこっち燃えてる所為で熱源が捕まえられねえ……! 迷彩破りとは言え、ちょっとやりすぎたか……?」


「ユウコ、無人機は!?」


 戦場から離れた海上、ユスティティアの甲板の上に腹ばいになってヨルムンガルドを構える優紀の姿があった。

 先ほどから自爆用の無人機を探しているのだが、工場地区に紛れてしまったのか出てくる様子が無い。歯がゆい感覚を味わいながら小さく唇を舐める。


「まだ見つからないわ! 工場地区にいるかも知れない! 自爆されたら全てがアウトよ、あぶりだして!!」


「あいつの相手は僕とアイリでやるよ!! クリフ、無人機の方を!!」


「おいおい、大丈夫なのかよ……? まあ確かに……こういう方が俺には適任だ――!」


 移動を停止し、腰を低く構えて肩、腰のミサイルの蓋を開く。同時に左右のライフルを構え、さらには肩に装備したレーザーキャノンにまでエネルギーを送り込む。


「ついでにアンノウンを炙り出すッ!! 行くぞッ!!」


 ライフルの引き金を引くと同時に全てのミサイルが上空に打ち上げられて飛んで行く。ウルカヌスは総火力に特化した重装アウラである。ミサイルが無人の工場に降り注ぎ、駄目押しのレーザーキャノンが一気に閃光を巻き上げる。

 大気を切り裂くような甲高い音と同時にウルカヌスは反動で僅かに後退する。ミサイルの雨が降り注ぎ、閃光の塊が工場区に飛び込んで行った瞬間、大爆発が中心で巻き起こった。

 熱風と轟音、拭き飛んで来る残骸の中三人は目を凝らす。巨大な炎の渦を見やり、ブラッドは冷や汗を流しながら笑う。


「……やりすぎじゃない?」


「ブラッド、クリフ!」


 アイリのプロセルピナが反応する。正面、炎を脇から突き抜けて迫る機影。プロセルピナのアサルトライフルが機影を捉え、弾丸が機体を貫通する。

 しかしそれは無人機であった。爆発しながら倒れる無人機の裏側、炎を突き抜けて飛来するアンカーファングがあった。

 それに間一髪反応し、回避運動を取るプロセルピナ。しかしその背後にあった鉄塔に牙は巻きつき、猛スピードでアザゼルが接近して来る。


「クッ――!?」


 正面から激突する。アンカーを巻き上げながらアザゼルは鉄柱目掛けて猛進し、プロセルピナと正面からもみ合った状態で鉄柱に激突する。

 プロセルピナとアザゼルの激突で鉄柱は哀れ圧し折られて倒れて行く。しかし根元に巻きついた牙は離れず、鉄柱の土台とアザゼルの間に挟みこまれるような形で身動きを封じられてしまう。


「アイリ!」


 ブラッドがレールガンを構えて前進する。それと同時にアザゼルはプロセルピナの頭を掴み、盾にするように前に突き出した。

 発射直前、エネルギーを収束させていたレールガンの銃口を僅かにずらす。青い弾丸は二機を逸れ、背後の貯水タンクに大きな穴を開ける。

 噴出した水を浴びながらアザゼルは瞳を輝かせる。プロセルピナを盾にしたまま身を乗り出し、腰と肩の牙を同時に放つ。その矛先はブラッドへと向けられている。

 腕からレーザーナイフを引き抜き、横に回避すると同時に牙の一つを切り裂く。アザゼルは身体を捻り、牙を巻き戻しながらその進路を変えて行く。

 背後から牙の突起が戻ってくるのに巻き込まれ、クラウル・グラフトの後頭部に衝撃が走る。同時に左足を背後から掬われ、クラウルは転倒する。


「ぐっ!」


 倒れながらもレールガンを構え、ブラッドは引き金を引く。閃光が瞬き、加速した弾丸は密接したプロセルピナの直ぐ脇、アザゼルの腕を貫いて吹き飛ばす。


「何だとッ!? この距離で……仲間が居るのに撃ったのか!?」


 プロセルピナを掴んでいたアザゼルの右腕、肘から先が圧し折れて消える。解放されたプロセルピナは腰部にマウントしていたナイフを手に取るのではなく射出し、アザゼルの頭部に当てると同時に体当たりで距離を離す。


「俺が足を止める!! アイリ、ブラッド!!」


「了解……!」


 ウルカヌスがレーザーキャノンを放つ。それは怯んだアザゼルの足元に着弾し、閃光と衝撃と爆発を巻き起こす。機体を大きく弾き飛ばされアスファルトの上にアザゼルは転倒する。


「アイリ、左右から回り込んであいつの動きを止め――? アイリッ!! 後ろだっ!!」


「え……?」


 ブラッドにしては珍しい、本気の叫び声。アイリがふと背後に視線を向けた時、そこには既に巨大な剣を振り上げた無人機の姿があった。

 回避運動を取るには遅すぎた。しかし機体を捻り、攻撃を何とか致命傷から遠ざける。振り下ろされた巨大な剣はプロセルピナの左腕、肩から鋭く入り、肘辺りまでを縦に切り裂いてしまう。

 衝撃と同時に火花が散る。剣をを振り下ろしきった無人機の動作は鈍い――。一息に近づいたブラッドが巨大な黒い腕で無人機の頭を掴み、大地に叩き付ける。

 同時に左腕のレーザーナイフで倒れた無人機を一薙ぎ――。機体から素早く離れたブラッドはナイフを格納しながらアイリを庇うように前に出る。


「後ろからだと……!? この無人機、ただの自爆用だって聞いてたが……!?」


「クリフ、あいつが来る!」


 アザゼルは既に鉄塔にアンカーを伸ばし、そこにぶら下がり起き上がると同時に空中に跳躍していた。月を背に舞うアザゼル。その背後、ブースターが一気に瞬いてプロセルピナに迫る。

 “グリゴリ”と呼ばれる特殊ブースターの加速――それは通常のアザゼルの機動を大きく上回る。一瞬で接近するアザゼルにレールガンの弾丸は空しく空振り、ブラッドはアイリを庇うように腕を交差させる。


「ブラッド……!」


 加速し、目前にまで迫るアザゼル――。それは、適切な判断だったのかも知れない。

 アイリは咄嗟にプロセルピナの片腕でクラウル・グラフトを突き飛ばしていた。彼女自身自分でも何故そうしたのかは判らない。

 確かにどちらにせよ、あの加速で突っ込んでくるアザゼル相手にクラウルで庇ったところで効果は薄い。だがそれでも自分を庇おうと前に出たブラッド……彼を突き飛ばしたのは何故?

 それは拒絶とは最も遠い拒絶――。アイリ自身が驚いている間にアザゼルは飛来し、プロセルピナを蹴り付ける。


「うあッ――!?」


 アザゼルは空中でバーニアを噴かして旋回し、回転するようにしてプロセルピナの頭部を蹴り飛ばす。大きく拉げると同時に勢い余って引き千切られ、プロセルピナの頭は吹き飛んで行く。

 回転しながら着地し、背後に倒れたプロセルピナ目掛け一斉にアンカーファングを放つアザゼル。その攻撃から庇う様にウルカヌスが前に出た。


「アイリをやらせるかよ!!」


 全てのアンカーを防げたわけではない。幾つかはプロセルピナを貫通し、しかし致命傷は免れる。そして何より分厚い装甲を持つウルカヌスに打ち込まれたアンカーは――。


「――――抜けない!?」


 マリスは焦る。ウルカヌスに突き刺さったアンカーは抜けず、引っ張り寄せようとしても引き抜こうとしてもびくともしない。

 抜けかけたワイヤーを束ねて掴み、ウルカヌスはバーニアを吹き上げながらアザゼルを思い切り引き寄せる。転倒しかけながら引っ張り寄せられたアザゼルに正面から体当たりをかまし、ワイヤーを引いて機体を半回転させる。


「ブラッドォッ!!」


「――――プロセルピナのお返しだ」


 放り投げられたアザゼルが飛んで行く方向、加速しながら拳を握り固めるクラウル・グラフトの姿がある。正面から飛んで来るアザゼルにタイミングを合わせ、巨大な右手の拳を叩き込む――!

 アザゼルの頭部が盛大に拉げ、爆発しながら吹き飛んで行く。大地の上を回転しながら滑るようにして飛び、火花を巻き上げながら停止するアザゼル。その上に馬乗りになり、ブラッドはコックピットにレールガンの銃口を突きつけていた。

 銃口の先、アザゼルのコックピットの中。激しく機体を揺さぶられた衝撃で強く頭を打ちつけ、額から血を流しながらマリスは気絶している。苦痛に眉を歪めながら、マリスは声にならない声で小さく誰かの名前を呼んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウラ本編へ飛ぶ!
またアンケートやってます。こっそりどうぞ。
うさぎ小屋目安箱
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ