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ACT.2 Person who has “seven fangs” <2>

 がたんごとん――。揺れる電車の中、マリス・マリシャは一人でぼんやりと考え事をしていた。

 窓の向こうに流れて行くのは日本の景色。そこには何の感慨も無い……そのはずである。しかしマリスは日本の街並みを目にする度にどこか胸に空しさが込み上げて来る。

 マリスの姿は明らかに浮いていた。全身をすっぽりと覆いつくすかのような黒いロングコートを身に纏い、瞳はオレンジの色が入ったサングラスで隠れている。日本人離れした長身に長く美しい黒髪、そして彼女の膝の上には黄色い花束が。

 近寄り難い雰囲気を発している所為か、周囲の利用客からは距離を置かれ、そこそこに混雑しているというのにマリスの周囲には不自然なスペースが出来上がっていた。しかし本人は全くそんな事は気にして居ない。

 考えているのは二つの要素。自らがこの場所に足を運んだ理由、そしてもう一つの任務の事。どちらも今のマリスには容易に答えを出す事は難しい案件である。

 電車はマリスを乗せたまま目的地へ向かう。マリスが席を立つと利用客たちは無言で道を空けた。そうして電車から降りて駅のホームを歩いていくマリスを何人かの人々が見送っていた。

 改札を潜り抜けてマリスは歩き続ける。その間も考え事が止まる事は無かった。一人でブツブツと独り言を漏らしていたが、本人はそれには気づいて居ない。

 爽やかな香りを運ぶ黄色のアレンジメントが風に揺れる。日本の都市は世界の中でもマリスの好みに分類される。人々が“平和ボケ”している様子は見ていて滑稽だ。

 日本とて決して平和などではない。恒久的な安息など存在しないのだ。その事実を肯定する様に日本は軍を持たないという理念を捨てた。変わらなければ守れない物が合った……。それは、平和の形が一定ではない事に似ている。

 表面上どれだけこの世界が平和であろうとも、必ずその裏側では地獄の苦しみを強いられる者たちが居る。そんな世界の“闇”を知らずに生きる人生もまた一つの生き方なのだろう。しかしそうした生き方をマリスは“羨ましい”とは感じない。

 人は自分から目を反らす事は出来ないし、世界から逃れる事もまた出来ない事であると彼女は考えている。そんな事が出来るのならば、それはきっと最高の幸せだろう。

 目的地に辿り着き、マリスはサングラスを上着の内ポケットに納めた。真紅の瞳が白い建造物を見上げ、そうして憂鬱そうに沈んでいた。

 そこは病院だった。決して大きい事は無く、新しくも無い。その逆であるといえば自然な表現になる。そこへ一人、マリスは花束を揺らして入って行く。

 ここに足を運ぶのはこれで三度目であった。日本に来る機会があれば、出来得る限りはこの場所に足を運ぶようにしていた。

 目当ての病室の場所は覚えている。そこは病院内でも奥まった場所にある、一つの個室……。ブーツの足音がリノリウムを鳴らし、扉の前に立つ。

 一応ネームプレートを確認する。そこには目当ての人物の名前が刻まれていた。扉を開き、病室内に入る。

 白い、白い牢獄だった。手入れは決して行き届いて居ないわけではない。しかしその寂しさと無機質な空気は牢獄をイメージさせる。マリスはベッドに近づき、そうしてその場所で眠る少女の頬に手を伸ばした。

 しかし指先が柔らかな肌に触れる事は叶わない。直前で手を引き、黒い革の手袋に覆われた自らの手を見詰めるマリス。少女の頬に触れる代わりに自らの顔へと手を伸ばし、顔の傷に触れた。

 左目を縦に引き裂くような大きな傷跡……。浅黒い肌に白く刻まれた痛みの証。開かれている左目は右目とは違い、どこか無機質な輝きを放っている。

 フェイクス化と同時に“使い物にならなかった”左目は既に捨て去っている。左目の映し出すものは全てが“フェイク”――。一人でそんな事を考え、目を瞑る。

 マリスは終始無言であった。花瓶に花を活け、来客用のパイプ椅子の上に腰掛ける。腕を組み、ただじっと眠る少女の顔を眺めていた。

 そんな事が暫く続き、日も傾き始めた頃。突然マリスは立ち上がり、パイプ椅子を丁寧に元の位置に戻して部屋を後にしようとする。


「あっ」


 扉を開いた瞬間、目の前に一人の看護士の顔があった。歳は年輩、マリスと比べると大分小柄である。

 女性看護士と正面から対峙したマリスが鋭い眼差しを浮かべる。一瞬たじろぐ看護士ではあったが、長年こうした仕事をしていると“マリスのような目をした”人間と会う事も珍しくはない。


「……貴方、前にもこの子のお見舞いに来てくれましたね?」


 女性の声にマリスは一瞬目を丸くした。それから視線を反らし、一歩後退する。扉の目の前に自分が居た所為で看護士が中に入れない事に気づいたらしい。

 ばつの悪そうな顔で両手をコートのポケットに突っ込み、マリスは左目を瞑る。看護士はそんなマリスの様子に口元に手を当てて笑い、それから言葉を続けた。


「ご友人……というわけではなさそうね。ううん、どんな関係でも構わないわ。たまにで良いから、またお見舞いに来て上げてくれるかしら?」


「…………わたしが?」


「ええ。この子はもう、五年間も眠り続けたままなの。この年頃の子供は、遊びたい盛り……一番多感で、一番成長する時期なのに。五年前は“事件”の騒ぎとかもあって大変で……今も眠ったまま。それなのに――やっぱりこの年頃の子は“時間が経つ”のも早いのでしょうね。お見舞いに来るお友達も、最近はめっきり見なくなったわ」


 どこか寂しげに『仕方が無いのだけれど』と続ける看護士。マリスは振り返り、ベッドの上に横たわる少女を見詰める。


「だから、貴方がお見舞いに来てくれるとこの子も寂しくなくて嬉しいと思うの。私個人としても、貴方が来てくれると嬉しいもの」


「……そうか。じゃあ、また来る事にする。次がいつになるか判らないが……それでもきっと、必ず」


 マリスの真っ直ぐな視線に看護士は微笑みで返した。マリスは結局笑わなかった物の、既に看護士に向けていた敵意のような視線はなくなっていた。


「……もう少し、ここに居てみない?」


 部屋を立ち去ろうとするマリスに看護士が声をかける。


「もうそろそろ、“お兄さん”が来る時間なのよ。学校が終わったら、よくお見舞いに来るのよ。妹思いのいいお兄さんで、きっと貴方に会えば喜ぶわ」


「なら、尚更ここには居られない。わたしは彼女の“家族に合わせる顔は無い”のだから」


 一言、寂しげに残してマリスは去っていく。看護士はそれ以上マリスを無理に引きとめようとはしなかった。

 初夏の風が優しく吹き込む斜陽の窓。揺れるカーテンを茜色に染め、時は一刻も留まる事は無い。

 廊下を歩きながらマリスはサングラスを取り出した。ふと正面に視線を向けると今正に学生服の少年が一人、マリスの居た場所へと歩いていく所であった。

 こんな奥まった所では、見舞いに行く患者も限られてしまう。マリスは足を止める事も無く、少年へと視線を向けた。

 じっと見られていたのが気になったのか、少年は苦笑を浮かべながら小さく会釈してきた。それを無視してサングラスを片手にマリスは病院を後にする。

 夕日が落ちて行く空を眺めながら一人、握り締めたサングラスを見やる。それは強い力で握り締められ、左のレンズが罅割れてしまっていた――。



ACT.2 Person who has “seven fangs” <2>



「マリス、何故撤退の時間を無視したんですか?」


 その口調は穏やかではあったが、形容し難い程の怒気を孕んでいた。

 時は“第七の事件”の夜まで遡る。自らの拠点に帰還を果たしたマリスに対し、白衣の男は開口第一詰め寄り告げたのである。“何故命令を無視した”と。

 闇の中に浮かぶのは一つのアウラ研究施設。霧の中に包まれた森の中、その建造物は世界に存在を認知されて居ない。

 深霧の森ミスト・ゴーフと呼ばれるその霧は、決して水蒸気で構成されるような生易しいものではない。超軽量の金属粒子が生み出した絶対に見通す事の出来ない迷宮、それこそが彼らの身を隠すのに最も適している。

 つまりその場所は“あってないもの”とされているのだ。故にその場所を知るものは一握り、そして誰も態々右も左も判らないような場所に興味本位で立ち入る事はない。

 その倉庫の一角を借り受け、そこに漆黒の機体“アザゼル”は待機していた。帰還したばかりのアザゼルに整備班が駆け寄る最中、真っ先に文句を言いに来た開発者にマリスは眉を潜める。


「作戦そのものは成功したんだ、文句はないだろう“くそめがね”」


「貴方のその言葉遣いはいい加減私も享受しかねますね……! 貴方はもう少し“自分の立場をわきまえる”べきだ!」


 ヒステリックな声を上げる男を前にマリスは小さく溜息を漏らす。その額には汗が浮かび、服装はパイロットスーツのままであった。

 最早マリスの思考の中には“一刻も早くこの場を切り抜けてシャワーを浴びる”事しか存在しない。作戦を完全に履行しなかったという事実については“興味の対象外”だ。


「判っているのですか、マリス? よりによってあの“コスモス”にみすみす手掛かりを与えてしまったのですよ!? これでは私が遂行してきた完璧な計画に支障を来たすじゃあないですかっ!?」


 両手を広げ、派手に声を上げる男。地団太を踏み、アザゼルの生みの親――。香木原 誠は苛立ちを隠そうともしない。

 アザゼルの生産その全ての工程においての責任者である誠はテストパイロットであるマリスの破天荒な行動に我慢の限界を迎えようとしていた。

 本来ならばアザゼルによる殲滅、その後無人機の自爆によって証拠も痕跡も全て跡形も無く消し去るはずだった。しかしマリスは予定戦闘時間を大きくオーバーしアザゼルで暴れまわったのである。

 無人機の自爆時間を先延ばしにする事は遠隔操作でも可能であった。しかし香木原はその異常なまでの几帳面さから“時間を守らない”という選択肢を一切赦さなかったのである。

 結果、無人機を使ってアザゼルを爆発エリアから救出し、なんとか時間ギリギリに間に合わせたのである。しかしアザゼルとは違い無人機には“帰還能力”がない。

 故にクレーター周辺をうろうろするという間抜けっぷりを曝け出し、“コスモス”に殲滅されるという大失態をやらかしてしまったのである。それは誠にとって絶対に赦せない事であった。


「コスモス……あのコスモスですよ!? あんな暴力的で、野蛮で、アウラの事を何もわかって居ないような粗暴な集団が! 私の研究を台無しにしようとしているんですっ!! これがどれだけ恐ろしい事かっ!!」


「……五月蝿いな。要するにカギハラは“コスモス”に“びびってる”んだろ」


「びびるとかびびらないとかそういう問題じゃあないんですよマリスッ!! “計画に支障を来たす”んですよぉおおおおっ!! 私のっ! 私の完璧なっ!! “天使”の計画にっ!!」


 頭を掻き甲高い声で叫ぶ誠。その不気味な様子をマリスは覚めた様子で見詰めていた。身体に密着するような黒いパイロットスーツの胸元を開き、風を招き入れて息をつく。


「そもそもコスモスにやられるような無人機インフェリアを作るおまえが悪い」


 マリスは自分でもその言い草が横暴であると考えていた。しかし丁度いい“嫌味”になるのだ。そして同時にそれが唯一誠を黙らせる方法でもある。

 突如、ぴたりと動きを止めて真面目な表情を浮かべる誠。メガネを光らせ、口元に手を当てて呟く。


「確かに、今回の件は私の研究に大きな課題を残しました。“失敗は成功の母”……。そうですね、コスモスを打倒し得る機体を私が作ればいいだけの話です。私程の天才ならば、その程度“容易い”事」


 肩を竦め、マリスは振り返る。アザゼルは闇の中で紅いラインをぼんやりと浮かべている。あれだけ優秀なイモータルを生み出したと言うのに、“評価されない”のはこの性格の所為なのかもしれない。ふと、そんな事を考えた。


「今作っている奴を出せばいいだろ」


「ああ……。“アレ”はまだ名前も決まって居ないような段階ですよ。“名は体を現す”……。名前も決まって居ないアウラを戦場に出すなど……」


「“ホークス”」


 右手で拳銃のような形を作り、誠に向ける。マリスが呟いた言葉が機体の名称である事に気づき、誠は複雑そうな表情を浮かべた。


「そんな下らない事で迷っているくらいなら、さっさと“成果”出す事だな」


「“成果”なら既に出ているでしょう? アザゼルは究極のアウラへと続く存在……! 誰にも成し遂げられなかった、模倣し得なかった“天使”の翼を私が解き明かして見せる……!」


 両手を胸の前で組み、目をきらきら輝かせながらアザゼルを見上げる誠。そうして何度も投げキッスを繰り返す後姿に嫌気が差しマリスは目を瞑った。


「ア〜イラビュ〜! アザゼル、君は最高ですよお〜! だというのに全く、どうしてアザゼルのテストパイロットがマリスのような“出来損ない”なんですかねえ」


 “出来損ない”。その言葉にマリスの目の色が変わる。しかし誠は気にする気配も無い。自らの愛する子をじっくりと愛でて上機嫌になったのか、不気味な笑みを浮かべながら振り返る。


「“ジル”の決定だ。わたしをとやかく言う事は“彼を侮辱する事”でもある」


「ええ、ええ。判っていますよ、勿論。“わきまえ”ますとも。私にこんな機会を与えてくれた彼は最高の“パートナー”ですよ。百万の感謝の言葉を述べる代わりに必ずや“絶対的な成果”出して見せましょう」


「……なら、いいんだがな。精々“暗闇をおっかなびっくり歩け”よ、“くそめがね”」


 倉庫を後にし研究所内のシャワールームに向かう。その途中、マリスが通りかかった一室を前に足が止まる。

 暫くの間マリスはそのネームプレートを眺めていた。扉は重厚で、開こうとしてもびくともしないだろう。“マリスのようなただのパイロット”には立ち入る事の出来ない、暗い暗い闇へと続く部屋。

 一瞬その扉を前に眉を潜め、不快感を露にする。そうして苛立ちを隠すように自らの左目に手を伸ばす。

 頬を引き裂く白い傷跡……そこに触れるのはマリスの癖だった。考え事をしている時、彼女は良くそうして傷に触れる。暫くその場に留まり、シャワールームへと歩き出した。

 脱衣所に並ぶロッカーのうち一つの前に立ち、自らの着替えが並んでいる事を確認する。すぐさまスーツを脱ぎ去り、乱雑にその場に置き去りにしてシャワーを浴びた。

 誰も居ないシャワールーム。流れる温い液体を頭から被り、マリスはその水の流れをじっと見詰める。

 シャワーをぼんやりと眺めていると、雨の日の事を思い出す。自分がフェイクスになったのも、こうして“ここにいる”のも、アザゼルに出会ったのも、全ては雨が連れて来た現実……。

 誠は自らをジルのパートナーと称した。しかしジルは絶対にそんな事を考えては居ないとマリスは確信している。あんなものは“自惚れ”だ。ジルには“相応しくない”――。

 壁に額を付け、滴り落ち続ける水を見詰める。排水溝に吸い込まれていく水……。闇の底へ渦を巻き、それらはもう決して綺麗な場所には戻れない。


「わたしは“出来損ない”なんかじゃない」


 小さく呟いた言葉はシャワーの音に掻き消されていく。目を瞑ると忌まわしい景色が溢れ出す。五年前からずっと心の中にわだかまっている、“消し去れない記憶”――。

 “この状況”を招きいれた一端は自分でもある。しかし現実はいつだって受け入れ難い。どうしようもない事ばかりが蔓延し、“手の届く事”はいつも僅か。

 炎の景色の向こう、そこに少女の幻影を見る。とても小柄な体格。美しい金色の髪。何も映して居ない、硝子球のような瞳……。自分とは決定的に異なる存在。自分とは違う、“選ばれた存在”。

 アザゼルに乗り続ければいつかは“選ばれる”事が出来るのだろうか。左目に焼きついた炎の景色を消し去る事が出来るのだろうか。繰り返す自問自答に意味など無く。故にそれはただの妄想であった。



 夜の闇の中、迷彩を施した影が突き進む。巨大な剣、“スケープゴート”を担いで堕天使は進軍する。

 目的となる場所に着くまでの間、マリスは過去に思いを馳せていた。そうして意識を現実に引き摺り戻すと息を深く吐き出し、唇に舌を這わせる。

 これで“九件目”――。回数を重ねる事にマリスの実力は確実に成長を遂げている。相手があの“コスモス”だろうと、それに劣る積もりは全く無い。

 恐れる物が何も無いのならば闇を裂く揺れるシルエットに減速する必要性も無い。マリスが狙うM.F.G.社のアウラ生産工場が視界に飛び込む。剣を引き摺り、そこへ斬り込もうと考えたその時だった。

 遥か彼方より飛来した弾丸がアザゼルに迫る。“反応した”訳ではなかった。全くの偶然――。ともあれば一撃で首を落とされていても可笑しくない、“必殺の一撃”。

 剣を降ろそうとした動作が偶然にもスケープゴートによる防御に成功したのである。しかし巨大な剣は軽々と弾き飛ばされ、今や空中をぐるぐると回転している。

 全てがスローモーションの様に感じられる。アザゼルは体勢を崩し、背後に向かって傾いて行く。遅れて銃声が響き渡り、マリスはフットバーを思い切り蹴り飛ばした。

 アザゼルの全身、各所から青い炎が噴出す。その場、背後に倒れかけた状態のまま空中に静止するかのようにしてアザゼルは店頭を免れた。すぐさま立ち上がり、木々の中に姿を紛らわせる。


「クッ――!」


 何が起きた――? そんな情け無い言葉は口に出せなかった。歯を食いしばり、弾丸が飛んで来た方向を見据える。大地に突き刺さったスケープゴートを引き摺り、盾のように構えながら移動する。

 アザゼルの特徴の一つに特殊な電磁迷彩が存在する。それは勿論完璧なものであるとは言えない。見る者が見れば見破れる程度の物だ。しかし、“これはどう”だ?

 相手が視界の何処に紛れているのか、マリスには全く判断が付かなかった。闇の中、森と山に囲まれたその場所の“どこか”でアザゼルを狙っている敵が居る。

 超超遠距離からの正確無比な狙撃――。きちんと防げなかった所為でアザゼルの右腕の出力が既に落ちてしまっている。並のアウラなら一撃で“ぶち抜かれ”る――。

 アザゼルの真横を予定通りの進路で進む数機の無人機の姿があった。無人機には現在何が起きているのか判断出来ない。マリスが舌打ちするよりも早く、弾丸が飛来して無人機の上半身に減り込んだ。

 刹那――装甲が弾け飛ぶ轟音が鳴り響いた。滅茶苦茶に装甲を引き裂きながら弾丸は一撃で無人機を貫通し、遅れ火の手が上がる。

 工場を挟み、アザゼルとは反対側の位置。山の麓に腰を落とし、岩肌を背に巨大な狙撃銃を構える“ミネルア”の姿があった。“ヨルムンガルド”と呼ばれるミネルア専用の狙撃ライフルを握り締めミネルアは見え隠れする“目標”に照準を定める。

 闇の中、迷彩で何度も姿を消してはまた現れるアザゼル。ぐらぐらとぶらつくその機影を優紀は正確に捕捉していた。


「張っていた甲斐があったわね……!」


 引き金を引く。弾丸は“空”を貫通し、螺旋を描きながら放たれる。耳を劈くような風を切る音と同時、目にも留まらぬ速さで一瞬で弾丸はアザゼル目掛けて飛来する。

 命中は確実――そう考えた直後であった。アザゼルは不自然な軌道を描き、“がくり”と進路を変えて曲がって見せる。空しく空を切り裂き夜空に消え去る弾丸。優紀は慎重にアザゼルに照準を合わせ直す。

 轟音と振動――。山を駆け下りるアザゼルの中、マリスは短い周期での呼吸を繰り返していた。女は興奮していた。この闇を物ともせず、“月明かりの化身”が銃口を自分に向けている。その事実に堪らなく胸が躍る。


「行くぞ、“シェムハザ”――! 死神の“秋桜”がわたしたちを迎えに来た――!!」


 闇の中、傾斜から大きくアザゼルは跳躍する。その背部、そして全身の間接から青い炎が噴出した。

 土煙を巻き上げながら空へ。そして青い炎が瞬き、アザゼルのコックピット、端末に文字が浮かび上がる。


 ――“Grigoriグリゴリ”――。


 フラッシュするバーニア。それは、たった“七秒間”だけ常識を超えた超加速を生み出すアザゼルの特殊ブースター。

 空の闇を切り裂いて飛翔するアザゼル。漆黒の機体が月明かりを背に飛来する。アザゼルの全体が抵抗に軋み、マリスの身体にも重く圧し掛かる。

 苦しみの中、しかし一瞬で工場を跨ぎ向かいへと辿り着くアザゼル。一瞬の超加速に反応しきれず遅れて空にヨルムンガルドを向けるミネルア。

 放たれた弾丸は真上のアザゼルに真っ直ぐ突き進んで行く。しかしアザゼルは目の前から突然“居なくなる”。視界を下に。最早隠れようとしても隠れられない、迷彩を使用しても気配を消せないような距離をアザゼルは疾駆していた。


「クッ――!?」


 ミネルアがヨルムンガルドを手放しライフルに持ち換えを図る。しかしそれよりも早く、アザゼルが翳す腕から“何か”が飛来する。

 優紀はその謎の攻撃の正体を掴んでいた。空中を飛来する物、それはアザゼルの腕部から発射された“アンカー”のようなもの。見ればそれと同じものがアザゼルの全身に七つ、装備されていた。

 突然の進行ルートの変更、空中から地上への移動……。アザゼルは全身に装備されたその牙でそれを制していたのだ。そして今牙はライフルを手にしようとした無防備なミネルアのコックピット目掛けて飛来している。

 声を上げる事も出来ない刹那の出来事。しかしアザゼルの牙がミネルアを貫く事は無かった。


『――君は、僕を知っているかい?』


 アザゼルの牙を弾き飛ばすもう一つのアウラの影。どこにでも出回っているようなその量産機スタンダードは牙を弾いたナイフを逆手に構え、ミネルアを庇うように前に出る。

 月明かりを弾く銀色のナイフ。闇の中に浮かび上がった“敵”の様子にアザゼルは牙をワイヤーで引き寄せて停止する。既にミネルアはライフルに持ち替え、クラウルの隣に構えていた。


「……アザゼルのアンカーファングを……ナイフで受け止めた?」


 その呟きは勿論相手には聞こえて居ない。通信など当然開いているはずも無い。しかしナイフを構えたクラウルは公開通信オープンチャンネルでアザゼルに語りかける。


『僕は、記憶喪失なんだ。だから自分の過去を探してる。君は僕を知っているかい? それとも、“僕の知らない人”?』


 緊迫した戦場において余りにも間の抜けた質問。しかしアザゼルのコックピット、女は小さく笑みを浮かべる。

 通信を開き、マリスは口を開く。それは、嘗てと同じ、“二度目の邂逅”――。


「――“また”、上下を分断してやろうか? “ブラッド・アークス”」


 アザゼルは巨大な剣を引き摺りながら駆け出す。それを迎撃するようにミネルアがライフルを構え、ナイフ携えたクラウルもまた前進を開始した。


〜緊急あとがきおまけ企画、“ザ・黒薔薇”が出来るまで〜


ブラッド「そうしてメッセンジャーによるチャットが始まったのでした。以下その様子」


神宮寺「さてじゃあ質問に移りましょうか」


貴志真「はい、そうしますか」


神宮寺「とりあえず、コスモスの制服ってどんなんですか?」


貴志真「………………。そう、ですね。えぇ…………」


 何故か口ごもる貴志真先生。


貴志真「え〜〜と、チョイお待ちを」


神宮寺「不覚にも一問目から問題が……」


 暫く考えた後、貴志間先生の出した答えがこれだ!


貴志真「“フルメタ”みたいなのです」


神宮寺「フルメタwwww」


 *フルメタルパニック*

富士見ファンタジア文庫から刊行されている賀東招二のライトノベル。また、これを原作とする漫画、アニメ作品である。原作のイラストは四季童子。まさかのフルメタ発言である。


神宮寺「じゃあ、こういうことですよね(フルメタのDVDジャケットへのリンクを張る)」


貴志真「そうですね。テッサwwwとか思ったのは内緒です」


神宮寺「いや、それは僕もテッサwwwと思ってたので」


 そう言われてみるとコスモスとミスリルが似てるかもしれない、という話になる。本人曰く『結構意識はしていた』。貴志真先生はフルメタ好きである。まさかの『今時潜水艦は無い』発言も頂いた。


神宮寺「色はどうですか? コスモスって組織そのものが結構蒼のイメージがあるんですが」


貴志真「それは僕のイメージと同じです」


 まあ潜水艦ですしね。


神宮寺「シュペルビアが黒い薔薇なんで、まあ対照的にも」


貴志真「そうですね。まあ白とか青ですかね」


神宮寺「パイロットスーツはどうですか?」


貴志真「フルメタのアレということで」


 まさかの“フルメタのアレということで”発言である。自分の作品に対して投げやりな自覚はあるとのこと。


神宮寺「成る程、結構ぴっちりしてると……」


貴志真「エッチは厳禁ですよ!」


 すぐさまその発想が出てくる先生の方が問題の気もする。


貴志真「いや、これは僕がエロいのか……」


 そして自覚はあった。


神宮寺「今気づいたんですが、コスモスのイメージカラーは白……。つまりパイロットスーツも白……。全身白タイツ……そういうことですね?」


貴志真「…………青で」


神宮寺「いえ、ここは断然白で」


貴志真「エロい方がいいんですか!?」


神宮寺「エロくないよりはいいと思うんですね」


 企画の話をしようとしない。


神宮寺「まあ、白は流石にやばいですね。青にしましょう」


貴志真「ですよね……」



 こうしてパイロットスーツとコスモスの制服が決定したのであった……。


ブラッド「続きますよ〜」


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またアンケートやってます。こっそりどうぞ。
うさぎ小屋目安箱
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