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ACT.2 Person who has “seven fangs” <1>

 夜の闇の中、“それ”は真っ直ぐに大地を駆け抜け手にした牙を大きく振り翳す――。

 “剣”――。そう呼ぶにはそれは余りにも大き過ぎた。平べったく、そし何よりも巨大……。見る者によってはそれを“盾”だと表現するかも知れない。しかしその“平べったく大きな何か”は今、容赦なく眼前のクラウル目掛けて振り下ろされたのだ。

 切れ味は決して良くは無い。しかし赤熱した刃が火花を散らし、肩口から食い込んだ刃は一瞬でクラウルを両断し、大地へと減り込んだ。

 クラウルのパイロットは悲鳴を上げる事も出来なかった。気が付いた時には機体が傾いていたし、目の前に突如として浮かび上がった“敵”の姿にただ唖然とする。

 高度な電磁迷彩を施した何者かは重苦しい獲物を大地から引き抜き、引き摺るようにしてその場をすり抜けて行く。直後、両断されたクラウルが爆発し、工場は騒然となった。

 巨大な都市部の付近に存在するアウラの生産工場、“マテリアル・フロム・グレディエイト社”の工場は今正に何者かの襲撃を受けていた。

 襲撃者は一機、何らかの迷彩を施し気配を殺して迫っていた“アウラ”である。謎のアウラが引きずり回す剣が工場の大地、アスファルトを削る音だけが不気味に響いている。

 警報のサイレンが鳴り響き、爆発により異変を察知した警護部隊のアウラが次々に姿を現す。多くは“無人機インフェリア”、しかし中には腕の立つパイロットの乗った量産機も含まれている。

 マテリアル・フロム・グレディエイト社……通称“M.F.G.社”。それは“一日十億稼ぐ”とまで言われた世界屈指の大企業の名である。その警備規模、工場規模もまたその名声に比例し巨大化する。

 アウラ産業だけではなく手広く様々な事業に手を伸ばしているM.G.F.ではあるが、当然アウラ産業は重要な利潤の源である。“工場潰し”の噂は彼らも耳にしているし、今目の前に居るのが“それ”である事も直ぐに理解出来た。

 工場は今正に警備を強化している期間中であり、“来るなら来い”といわんばかりのアウラが展開される。第一陣の数は合計十二機――。

 迷彩により姿を“ぶらし”ながら大地を疾走する侵入者は敵の部隊を見つけるや否や、“鉄板”とも称するべき剣を正面に掲げる。


「Scape Goat」


 謎の機体のパイロットがか細い声で呟いたその言葉は誰の耳にも届く事は無い。隊列を組み、警護部隊は一斉に銃器による迎撃を行う。

 雨あられのように降り注ぐ銃弾。それを巨大な剣を盾にして突き進む影。その突撃を阻止する事が出来ない。

 剣の防御を突破するには火力が足りない。見た所、影の持つ武装は不都合な形状をしたあの剣のみ。接近さえされなければ危険は無い。

 背部にミサイルを積み込んだクラウルたちが応援として到着する。侵入者は真っ直ぐに突っ込んでくる。その盾ごとミサイルで吹き飛ばそうとした矢先――。

 風を切るような、不気味な音が聞こえた。直後、ミサイルを装備していたクラウルたちの首が一瞬で吹き飛んだのである。すっぱりと、首元から切り落とされたクラウルたちのメインカメラ――。何が起きたのか? そんな事を考えている間に、侵入者は間合いを詰めきる――。

 剣を正面に構え、マシンガンを連射し続けるアウラ部隊に突貫する。正面から体当たりを食らったアウラ数機が吹き飛ばされ転倒する中、謎の機体は布陣の中心で巨大な剣を下段に構える。

 “しまった”とは思えなかった。“え?” それが恐らくは正しい感想。謎の機体の迷彩が解かれ、その全身十二箇所から小さくバーニアの炎が噴射される。

 一瞬、閃光が瞬いた。自身の眩いバーニアに照らされて浮かび上がった“剣のアウラ”。それは、全身を黒く染め上げ、体中に紅いラインを入れたIMアウラであった。

 風を巻き上げ、大気を叩き斬るような重苦しい剣が振るわれる。謎のアウラはその場で一回転すると同時に剣を振り回し、周囲をぐるりと薙ぐ。鉄の塊を叩き込まれた機体たちは一瞬で上半身と下半身が両断され、次々に倒れて爆発して行く。

 爆炎に巻かれ、炎を突き抜けて機体は前進する。近づいてくるアウラには“風”が飛ぶ。そして一瞬で“五体満足”ではいられなくなってしまう。

 何が起きているのかが判らないまま、警護部隊は次々に切り裂かれて行く。近づく者は全て両断し、紅いラインが夜を駆け抜ける。時々思い出したように工場目掛けて巨大な剣を叩き付け、瞬く間に世界屈指の大企業の工場は炎の海に呑まれて行く。


『ご苦労です。もうその辺りでいいですよ。後はいつも通り、こちらの方で“爆発”させますからねぇ』


 ふと、通信機から聞こえてきたのは妙に甲高く薄気味悪い声。パイロットは無言で舌打ちする。正面に迫っていた無人機を蹴り飛ばし、“風”でコアを射抜く。

 爆発の炎がめらめらと夜空を焦がしている。真紅の炎に照らし出された黒い機体は大きな剣を大地に突き刺し、そうして闇の中をじっと見詰める。


『聞こえているんですか? マリス! マリス・マリシャ!』


「――聞こえているから少し黙っていろ。おまえの声は“きんきん”するんだ。とても“聞けたもん”じゃあない」


 女の声だった。コックピットの中、紅い唇が言葉を紡ぐ。

 マリス・マリシャ――それが彼女の名であった。マリスはそうして通信機の向こうの騒がしさを遮断し、夜空を焦がす炎に恍惚の表情を浮かべる。

 ゆっくりしている時間はない。直ぐに騒動を聞きつけて増援がやってくるだろう。いや、これが“関連性のある事件”だと気づいているのならば、部隊を送り込んでくる事はないかもしれないが。

 どちらにせよマリスには関係のない事だった。夜空を照らす紅き炎……何度見てもそれは美しい。ぎらぎらと、めらめらと、じりじりと、世界に存在を誇示しようと炎が手を伸ばしているかのようだ。


「おまえもそう思うだろう? なあ、“アザゼル”……」


 まるで家族に、友人に、恋人に語りかけるような優しい声。闇の中に響くその声と共にマリスは愛する機体の操縦桿を優しく握り締めた。

 夜の闇が炎に裂かれ、鮮やかに世界を塗り替えて行く。炎の風の中、機体は静かに空に向かってその手を伸ばしていた。



ACT.2 Person who has “seven fangs” <1>



「この世界は、戦いに満ちているんだなあ……」


 ブラッドがそんな事を呟いたのは、“八件目”の事件が余りにも矢継ぎ早に発生した為であった。

 コスモスが総力を挙げて基地の護衛に当たる作戦に出てから早くも二週間が過ぎようとしていた。しかし中々事件に歯止めをかける事が出来ないで居る。

 ブラッドが護衛に当たっていた工場はこの二週間ずっと平和そのものであった。しかし運び込まれるアウラの姿や、強固になっていく警備体制は全くの無関係ではないという事を知る。

 そう、ターゲットの定まらない目的が不確かな犯行はアウラ産業に携わる者であれば誰も無関係ではないのだ。ブラッドが二週間見守っていたこの工場も、決して他人事ではないという事。


「つまり――。犯人はこの世界の企業全部に喧嘩を吹っかけているって事になるねえ」


 個々での警備だけではなく、企業間での“敵”についての情報のやり取りも最近では盛んに行われるようになった。アウラ動力炉暴走による爆発は非常に規模も大きく、“凶悪なテロ”の部類に入る。非人道的とも言えるその破壊力を前に、メディアも事件を何度か取り上げていた。

 そう、世界中がこの事件の犯人を追い掛けている。今のこの世界、アウラ産業に関わる大企業は最早一国の軍でさえ凌ぐほどの力を持つ場合も珍しくはない。国の政治に関与されずに動く分、下手をしたならば軍よりも犯人を追い詰められるだろう。

 そんな企業たちを敵に回すメリットが思いつかなかった。企業同士の抗争……? それにしては“嫌がらせ”の対象が定まって居ない。

 何にせよ、犯人はいよいよM.F.G.にまで手を出してしまった。世界最強の企業に喧嘩を吹っかけた以上、最早見つかるのは時間の問題でもある。それでも逃げ切れるほど、“世界は甘く”ない。

 M.F.G.はコスモスのバックについている企業でもある。それが被害を受けた以上、コスモスもより犯行阻止に力を入れざるを得ない。世界は今、戦いに満ち溢れている。


「なのに……この国は物凄く平和だ」


 のどかな緑に溢れた森林公園。定期的に吹き上がる噴水をぼんやりと見詰めながらアイスキャンディを舐めるブラッドの姿があった。

 ブラッドが派遣された国、それは“日本”――。かつては軍組織を持たず、自衛にのみ徹するという理念を貫いていた平和の国である。

 現在でこそアウラの登場により各国のパワーバランスがアウラに依存するようになり、軍を組織せざるを得なくなったものの、日本そのものの雰囲気が大きく変化したわけではない。

 例の事件だけではなく世界中では今この瞬間も断続的に闘争が始まり、終わり、命の火が消えているだろう。しかしこの日本の、特にこの森林公園は平和そのものであった。

 休日の昼下がりである事も“ほのぼの力”に拍車をかけている。犬を連れた少女が目の前をとことこ歩いていく。公園のベンチではカップルや老婦人が楽しそうに談笑し、芝生ではシートを広げてお弁当を食べている家族連れの姿もある。

 そんな中、ブラッドはしっくりと平和な景色に馴染んでいた。公園の一角で売られていたアイスキャンディ、それは既に三本目になる。“せっかく日本に来たのだから”と、桜味のアイスを現在は堪能している所であった。

 ホワイトのスーツを着込んだブラッドはネクタイを緩めながら噴水を眺める。もう直ぐ春から夏へと移行するであろう日本の四季。若干暑苦しいと感じる陽気にアイスはぴったりに思える。


「随分と幸せそうね、ブラッド」


 アイスを食べ終え、残った棒を咥えながら振り返る。そこには白い長袖のワイシャツとダメージ加工の施されたジーンズという私服に身を包んだ優紀の姿があった。


「うん、日本のアイスはとっても美味しいよ。“サクラ”アイス。ピーチみたいな味がするんだよ」


「それは良かったわね。でもあんまりにも緊張感がないのはどうかと思うわよ?」


「いいじゃないか、日本はこんなにも平和なんだし。それに例の事件は“夜”にしか起こらない……だから昼間は暇してる、でしょ?」


 子供のような笑顔を浮かべながら棒を齧るブラッド。その様子に優紀は小さく溜息を漏らした。

 確かにブラッドの言う通り、今自分たちに出来る事は何も無い。そもそも優紀もそれほど口うるさくそんな事を気にする性質ではないのだが、ブラッドを見ていると不安を掻き立てられるのだ。“自分がしっかりしなければ”と思う、責任感のようなものが強く圧し掛かる。

 ブラッドは満足げに口元でアイスの棒を揺らしながらベンチに腰掛け、足を揺すっていた。身体は大きくても中身は子供……そんな印象を受ける。


「ねえ、もう一個食べてもいいよね? 次は“マッチャ”がいいかなあ」


「……日本人じゃないあなたに抹茶アイスの美味しさが判るの?」


「こう見えても、僕はもう結構日本通だよ? サクラ、アズキのアイスはもう堪能したし、“ジャパニーズサムライブレイド”を皆持ってるっていうのは嘘だって知ってるし」


 本気でそんな事を語るブラッドに優紀は苦笑を浮かべる。ブラッドは手を振りながらアイスキャンディの出店に走っていく。しばらく優紀が一人で考え事をしているとブラッドは二つアイスを持って戻ってきた。

 そのうちの片方を無言で優紀に差し出す。それを無下に断るのもどうかと思い、何よりも彼女自身冷たいものが欲しかったのでアイスを受け取る事にした。


「それで? フィーナはなんて?」


 二人がこうして肩を並べてわざわざ市街地にまで戻ってきたのはフィーナと連絡をつける為でもあった。

 ユスティティアは現在日本とは遠く離れた場所に潜航している。ブラッドは見習いという事もあり、優紀とセットで行動しているものの、手広い範囲に対応する為に残りのフェイクスは全員別々の場所に割り振られているのである。

 よってユスティティアも状況にあわせて行動出来るようにとあちこちを転々としている。優紀のミネルアとブラッドのクラウルは現在はM.F.G.の倉庫に間借りしこっそりと待機中という事もあり、連絡にはそれなりの手間がかかっていた。

 定時連絡などは全て優紀が担当するのはブラッドを信用していない証でもあったが、どちらにせよ何も判っていないブラッドにはそんな事を任せるわけには行かない。結局優紀は二人で手間が減るどころかブラッドの面倒を見るという厄介事を押し付けられる結果になっていた。


「そうね……。とりあえず今日から私たちの護衛対象が変わる事になったわ。今日からはM.F.G.優先という事になったみたい」


「それはコスモスがM.F.G.に頭が上がらないから?」


「もう少しちゃんとした根拠に基く行動よ。今回の事件、始まりは本当に小さなアウラ生産工場への襲撃だったの」


 それは特にメディアに取り上げられるような事も無い、誰もが危険視する事のないような事件だった。

 始めは小さな工場でのアウラ動力炉暴走事件として世界はそれを認識していた。しかし同じような事件が段々と各地で発生するにつれ、事故ではなくそれが故意なのだと疑われるようになった。

 全体的にコスモスだけではなく世界全てがその事件に対する行動が遅れた理由として、最初は小さな工場を狙っていた事が上げられる。小さな工場の大きな事故……認識としてはその程度だったのである。

 しかしここ数ヶ月、段々と対象とする工場の規模が肥大化しつつある。それに伴い“犯行の手際の良さ”も段々と冴え始めている。“慣れて”いるのだ。


「八件目のM.F.G.社襲撃なんて正気の沙汰じゃないわ。喧嘩を売る相手としては最悪じゃないかしら」


「つまり……犯人の狙いが大企業になってきているって事?」


「その可能性は高いわね。M.F.G.よりも大きな企業なんてそうそうないもの。護衛しやすく、かつ網を張るにもやり易く、サポートも理解も得られるM.F.G.をしっかり護衛する事が、結果的に事件解決を早めるはずよ」


 そう語る間に既にブラッドは半分以上アイスを食べ終えていた。優紀がふと自分の手元を見詰めると、既にアイスが溶け始めている。

 慌てて溶けて零れそうになるアイスを舐め、頭を齧る。そうしていると、ブラッドがじっと自分の手元を見詰めている事に気づいた。


「……何?」


「ユウコ、そのアイス僕が少し食べてあげようか?」


 突然の提案である。しかしもしかしたら“気を使って”アイスを買って来たのではなく、“二つの味、両方を食べたいがそこまで食欲がない”から自分にも買って来たのだとしたら……。

 それは何の確信もない想像だ。しかし一度その可能性に気づいてしまったらそうだとしか思えなくなってしまった。溶けかけたアイスをブラッドに差し出すと青年は笑顔でお礼を言って半分以上を一口で食べてしまった。

 唖然としながら棒が見えてしまっているアイスを見詰める優紀。するとブラッドが自分の食べかけのアイスを差し出してきた。


「なんか、食べ過ぎちゃったから僕のをあげるよ」


「えーと……」


 何となくそれはどうなのだろうか? ブラッドは全く気にする様子はない。しかしやんわりとその場はお断りし、結局アイスは両方ブラッドが平らげてしまった。

 甘いものが余程好きなのか、ブラッドは満足気に微笑んでいる。初見時から既にそんな気はしていたが、ブラッドは恐るべきマイペースであった。


「それと、この間私たちが撃墜した機体のデータがあがったんだけど」


「七番目の事件の時、ユウコとイリウムが交戦した相手ですね」


「ええ。あれは全て無人機インフェリアだったんだけど、その無人機のAIにプログラムされていた行動パターンからある程度の敵の作戦内容が把握出来たわ」


 無人機は“先行し、敵戦力を殲滅する一機のアウラ”に続くように設定されていた。場合によってはその“単騎”に手を貸し、戦場の外部を徘徊し、目撃者や逃走を試みようとする物を攻撃するように仕組まれていた。

 その後、その“単騎”が敵を殲滅している間に無人機の内の一機が特殊な自爆シーケンスを開始する。カウント終了までに“単騎”は脱出し、無人機は基本的にはその場で巻き込まれて全て消滅するように仕組まれていた。


「でも、七件目の事件では無人機が残っていたのよね」


「……うーん。どうしてなんでしょうか」


「本来ならば自分たちごと爆発に消えて痕跡を残さないはずなのに、機体がそっくりそのまま残っていた。だから追いついた私たちにあっさり敗北してデータを明け渡す結果になった……。無人機が消滅できない理由でも会ったのかしら」


「……そうですね。とりあえず問題は……」


「ええ。相手も間違いなく“IMアウラ乗り”ね」


 この作戦行動は言うほど簡単ではない。むしろ至難の部類に入る物だろう。それを八度、一度は手掛かりを残してしまった物の成功に導いている。作戦の中枢を担う“単騎”こそ、最も警戒すべき危険な存在だ。


「相手が腕利きなら、ブラッドは援護にだけ徹するようにして。いくらフェイクスでも、IMを相手に出来るとは思わないで」


「ええ、それはもう。アイリのプロセルピナにやられてからはクラウルで無理しようとは思わないよ」


「……だからってぼーっと見てないで、ちゃんと援護してよね? 本当に大丈夫?」


 不安そうに声をかける優紀。半ば冗談でもあるが、半ば本気でもある。それは自分自身がどうかという事よりも、“うっかりブラッドが死んでしまうのではないか”という懸念に近い。


「大丈夫ですよ、きっと。それに駄目だった時は、それはそれです。記憶がない以上、僕には失う物は何もありませんから」


 笑顔でそう返すブラッド。その頭を軽く小突き、優紀は微笑む。


「そういう事を言うものじゃないわ。ブラッドはもう“コスモス”なんだから。“死なない事も責任”なのよ」


「……それもそうですね。ちょっと無責任だったかな」


「そうじゃなくて。せっかく二週間面倒見たんだもの、あっさりしなれちゃったら私だって寂しいわよ」


 優紀のそんな言葉にブラッドは微笑みで返す。“ありがとう”――。そんな言葉がそこには込められていた。


「……さて、仕事に戻りましょうか。いくら昼間だからって事件が起こらないとは限らないんだから」


「あ、ちょっと待って。僕、皆にお土産を買って行きたいんだけど」


「はい?」


「だって、日本はいい国じゃあないか。クリフなんか絶対木刀ウッドブレイドを喜んでくれるよ。あ、クリフには“チョンマゲ”も似合うかな!」


「な、何でクリフ限定なの?」


「だって、クリフ面白いじゃないか」


 目をきらきらと輝かせながらそんな事を語るブラッド。“天然”なのだろうか? それとも“故意”に嫌がらせをしているのか――。

 どちらなのかは判らなかったが、楽しそうに仲間の事を語るブラッドの様子に悪い気はしなかった。仕方が無く優紀もベンチから腰を上げる。


「しょうがないわね。手早く済ませる事」


「うん、そうするよ。ユウコも一緒に行くよね?」


「一緒に行かなきゃ迷子になるでしょ? この二週間であなたが迷子になった回数をここで数え上げようか?」


「十三回でしょ? 覚えてるよ」


「十一回よ。勝手に追加で迷子にならないで」


 そんなやりとりをしながら二人は繁華街へと向かっていく。公園の出入り口、脇に置かれたダストボックスにブラッドが弾いたアイスキャンディの棒が吸い込まれるようにして消えて行った。


〜緊急あとがきおまけ企画、“ザ・黒薔薇”が出来るまで〜


ブラッド「かくしてザ・黒薔薇の企画が始まったのでした。最初は何度かのメールのやり取りにより大雑把な内容を固めて行きました」


 ――四月上旬、まだザ・黒薔薇が原型さえも無かった頃……。


神宮寺「貴志真先生、なんかもう色々わかんないから設定資料集下さい」


貴志真「オッケエ!!」


 と、またも快諾(何度も言うがこう言ったかは定かではない)。

 アウラ本編の方に設定資料集が急遽として『シュペルビア殲滅作戦』をぶった切って登場したのである(無理を言ってしまった感もある)。

 そもそも貴志真先生はお忙しい身……。だというのにいつも爽やかにハイテンションな答えを頂きました(事実かどうかは定かではない)。

 さて、何はともあれこういうアプローチをするのは神宮寺も初めて。何から手をつければいいのか、どんな話を作ればいいのか全くこの時点で考えていなかったりする。

 漠然と『本編の過去に位置する』とか考えていたので、結果的に『コスモスの過去編』をメインに進める事に。

 本編中から色々とネタをこまごまと拾いつつ、主人公枢に繋がるようにするわけだが、外伝だからといって地味すぎず、かつ派手すぎず、本編に影響を与えない程度にしなければならない。

 別人が執筆するに当たり全体的な雰囲気も異なってしまう等等問題は山積みである。そんなわけで、神宮寺と貴志真は打ち合わせの為メッセンジャーにて会合を行ったのである。


神宮寺「貴志真先生、なんかもう何もかもわかんないからメッセして下さい」


貴志真「オッケエエ!!」


 と、またも快諾(言わずもがなだがこういったかどうかは以下略)。

 そんなわけで、神宮寺は貴志真先生とのメッセンジャーに臨むのであった……。



ブラッド「次回に続きますよ〜」

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