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ACT.1 Entrance to fate <3>

「記憶喪失ねえ……。また随分と胡散臭いのを拾ったじゃねえの、フィーナ」


 コスモスの拠点、“潜水艦”ユスティティア内部。ハンガーに機体の格納を終え、潜航を開始するユスティティア、そこで自分たちを出迎えた仲間たちを前にイリウム・クリスタルはそう漏らした。

 事情の説明はたった今、粗方ではあるがフィーナの口から語られた。ブラッド・アークスという人物、明らかに不審なその男を見詰めイリウムは腕を組んだまま息を付く。

 イリウム・クリスタル――。IMアウラ、“アルメニア・アルス”を駆るコスモスのエース級フェイクスの一人である。燃えるような真紅の髪を揺らし、切れ長の美しく凛とした瞳がブラッドを映し込んでいる。


「私たちがユスティティアを離れている間にそんな事になっていたなんてね」


 イリウム同様、つい先ほど格納したばかりのIMアウラから降りてきたもう一人の女性がイリウムの気持ちを代弁するように語る。

 折瓦夜おりがや 優紀ゆうこ。先ほどまでイリウムとコンビを組み、“例の事件”の調査に当たっていた同じくエース級のフェイクスである。日系独特の柔らかい笑顔を浮かべ、しかしその様子はどこか戸惑っているようにも見える。

 それも無理はない話だ。コスモスは基本的に人員を簡単に追加したりはしない。フェイクスも所属しているメンバーはこの場に集まっているのが全員である。

 クリフ、アイリ、イリウム、優紀――。この四人こそコスモスの象徴とも言える強力なフェイクスなのだ。艦長であるフィーナは兎も角、そこに当たり前のように“五人目のフェイクス”が肩を並べている事は異様な光景である。

 メンバーの選定はあくまでも慎重に……。秘密組織としては当然過ぎるその理屈を捩じ曲げ、この場に存在する五人目。戸惑いを覚えない方が無理という話である。

 そうしてなんともいえない空気が広がる中、一人だけ笑顔のブラッドは前に出て優紀に手を差し伸べる。


「初めまして、ユウコ。ブラッド・アークスです」


「……ええ、初めましてブラッド君。折瓦夜 優紀よ。そこのアウラ、“ミネルア”のパイロットをやっているわ」


「ええ、大体の話は既に窺っています。狙撃の名手――あ、“ジュードー”も得意だとか」


「だったら私の自己紹介も必要ないか? イリウム・クリスタル――“アルメニア・アルス”のパイロットだ」


 優紀との握手を終え、ブラッドはイリウムと握手を交わす。そうして簡単な自己紹介と挨拶が終了する。


「で、こいつはフェイクスなんだろ? だったら間違いなくアウラ乗りなんだろうが」


 イリウムが腕を組んだまま視線をフィーナに向ける。ブラッドはアウラ乗り――。それは既に全員の共通認識になりつつあった。

 実際にシミュレータでの戦闘は常人よりも上手、確かに記憶喪失の弊害か、その実力は“あく”が強くて見通しは悪い。しかし一瞬でもアイリをひやりとさせる程の動きを見せたのだから、全くの“無能”という訳でもない。


「まあいい、詳しい話はまた後だ。フィーナ、例の事件の事で報告がある」


「戦闘になったんでしょ? まあとりあえず場所を変えようか。立ち話でするような話じゃないからね」


 そうしてイリウム、優紀、フィーナの三人はその場を離れて行く。残ったブラッドたち三人は暫く黙り込み、それからブラッドは何となく二機のアウラを見上げた。

 アルメニア・アルス、ミネルア――。両方とも“イモータルアウラ”。貴重すぎるそれらが四機、クリフのウルカヌス、そしてアイリのプロセルピナと共にずらりと並んでいるその様相は壮観の一言に尽きる。

 ブラッドは自分自身の趣味趣向を認識しているわけではない。ただ、そこに並んだ世界に一つしかない四機のアウラを見詰め、その曲線美に思わず目を奪われる。

 ふと、アイリがクリフとブラッドの二人に背を向けて歩き出した。声もなく立ち去っていくが、何となく騒がしくなった所為で“一人の時間”を邪魔してしまったのが理由である事に二人の男は気づいていた。

 ブラッドは苦笑を浮かべ、クリフは溜息を漏らす。そうして二人はお互いに一瞬視線を交え、それから別々の方向に歩き出した。

 解散――。何となくそんな雰囲気になったのである。尤も、イリウムたちの報告が終われば呼び出される可能性もある。結局の所は時間を潰すだけに他ならないのだが。

 クリフたちと別れ、ブラッドは首からタオルをかけたままユスティティアの艦内を歩いていた。特に何か物珍しい事象があるわけでは無かったが、記憶を無くしたブラッドにとっては見る物触れる物全てが新鮮に感じられる。

 ふと、通路の傍に現れた休憩所のようなスペースに目を向ける。その場に歩み寄り、設置された自動販売機のボタンを押す。シャワーを浴び、それ以前に長時間のシミュレーション訓練を行っていたブラッドは自分の喉が渇いていた事を今になって思い出した。

 スポーツドリンクが注がれた紙コップを一気に呷って空にする。すぐさまもう一度同じドリンクのボタンを押し、紙コップが出てきてそこにドリンクが注がれるのをぼんやりと待っていた。

 休憩所に視線を向ける。そこには幾つかの椅子が並んでいた。柔らかそうな材質の椅子……そこには全てご丁寧に質感の良いクッションが乗せられている。その内の一つ、何故かクッションの無い椅子を見つけてそこに座ろうと考える。

 紙コップを片手にクッションの無い椅子へ。何となく他の椅子とは異なるそこが自分の居場所としては適切なような気がした。


「……“ネフィル”、か」


 ぼんやりと呟く言葉。“ネフィル”――。それが一体何を指し示す言葉なのか、ブラッドにはまだ何も判らない。

 覚えていた物は自分自身の名前、そして“ネフィル”とアウラの操縦技術――フェイクスとしての力だけ。

 自分が何者で、何故記憶を失い、何故あの場所に居たのか――。その全てが何一つ判らないというのに、どこかブラッドはその事実を他人事のように捉えていた。

 記憶が無い。何も判らない。それをただ単純な事実として飲み込む。スポーツドリンクの濁った水を飲み干す様に、ごく自然に。当たり前の様に。

 水は飲む物だ。そこに疑問の余地は無い。“何故自分は飲み物を飲むのだろう?”等と一々考えながら人は行動しないだろう。“疑念”よりも前にある、“当然”という前提がそれをさせないのだ。

 ブラッドが記憶喪失に懸念を抱かない事は正にそれと酷似している。“当然”――。心のどこかでそう考えている自分が居るのだ。故に取り乱す事も無ければ不安に陥る事も無い。

 それは異常な状況である。人はイレギュラーを前にそう易々と落ち着いては居られない。“当然だ”等と割り切るのは持っての他だ。そんなものは、“訓練でも受けない限りは不可能”だと言える。

 自分自身の中にある不思議な矛盾……しかしブラッドはそこから先へと思考を向けようとはしなかった。何となく今はそんな事を思うよりも、思い出さねばならない事が他にある気がしたのだ。


「――“アイラ・イテューナ”……」


 口の中で小さく反芻させる言葉。その響を確かめるようにブラッドは目を瞑る。乾ききって居ない前髪の向こう側、見える景色は全てが幻想。

 アイラ――アイリ。彼女を一目見た時から、何かが引っかかっている。“初めましてこんにちは”――それが間違っているかのように感じるのだ。

 アイリの事を考えると何故か僅かに胸が痛んだ。それは決して恋などという甘く切ない感情などではなく。もっともっと、黒くて渦を巻くような“何か”に起因する――。

 勿論、アイリに覚えなど無い。彼女の様子から見ても二人は初対面以外の何者でもないのだろう。だがそれでもどこか、アイリの存在に引っかかりを覚える……。違和感だらけの自分自身、既に騒ぎ立てるような事ではなかったのだが。

 ふと、自らの掌を見詰める。飲みかけのスポーツドリンクが残る紙コップ、それはいつの間にか強く握り潰されていた。力が篭ったまま解放する気配も無い指先――。まるで他人の指の様に思えるそれを見詰め、ブラッドは目を細める。

 零れた雫はぽたりと床に落ちる。その雫の一粒が一瞬で真っ赤に染まる幻覚を目にした。それはそう、握り潰した紙コップから夥しい量の鮮血が流れ出すという“悪夢”――。

 ブラッドはそれを静かに見詰めていた。在り得ない景色、それが幻である事は間違いはないだろう。だというのに、驚く様子も笑う気配もない。

 ただただ零れる雫を見詰め、男は小さく唇を動かした。それがどんな意味を描いていたのか、ブラッドが知るのは随分と先の話になる――。



ACT.1 Entrance to fate <3>



「「「 カンパーイ! 」」」


 乾いた音が響き渡る大広間。ユスティティア内部には“宴会場”とも呼べる大きな部屋が存在する。そこに集まったメンバーが乾杯をする中、一人戸惑うブラッドの姿があった。

 解散後、数時間後にフィーナから呼び出しがかかり、ブラッドはクリフにつれられてこの場所までやって来た。何百人もの人間が同時に入りそうな程巨大なパーティーホールで彼を待っていたのはささやかな歓迎会であった。

 アイリ、フィーナ、イリウム、優紀、そしてブラッドと彼を案内してきたクリフ。六人だけの小さな集い。広すぎるパーティーホールにその人数はどこか寂しく薄ら寒いが、そんな事を気にしている者は一人としていなかった。

 しかし、てっきり何か判った事があり呼び出されたものだとばかり思っていたブラッドは酒がなみなみと注がれたグラスを片手に苦笑を浮かべていた。既にメンバーは飲み始めており、その中には明らかに子供であるフィーナやアイリの姿もある。

 

「どうしたブラッド? せっかくタダなんだから飲まなきゃ損だぜ」


「あ、うん……。それにしても、ここじゃフィーナもアイリもお酒を嗜むんだね」


 率直な疑問を口にしながらアイリとフィーナを交互に見やるブラッド。アイリはグラスを両手で持ち、ちびちびとそれを口に運んでいる。それとは対照的にフィーナは豪快に飲み漁っているという雰囲気だ。


「そんな事は誰も気にしてな――ははあん、なるほどな! ブラッド、ここだけの話なんだがな……。実はフィーナは――」


 と、クリフがブラッドに話しかけようと振り返った時、既にブラッドの姿はそこには存在しなかった。一人ぽつんと置いてきぼりを食らったクリフが周囲を見渡すとブラッドは既にアイリの傍に移動してしまっていた。


「ブラッド……あの野郎……」


 クリフが一人強張った笑顔を浮かべている頃。アイリに近づいたブラッドはその様子を見て息を呑んだ。

 アイリは確かにちびちびと酒を飲んでいる。しかし全くそれが停止する様子が見られないのだ。一度に飲む量は少量、しかし“止まらず”に飲み続けている。


「冷静に考えるとピッチ早いんだね、アイリ」


「……なにが?」


「ううん、なんでもないよ。それよりこれはどういう事なのかな?」


「歓迎会……に、見えない?」


「見えるしそもそも――そう書いてはあるんだけど」


 頭上を見上げる。本来ならば大量のテーブルや椅子が並べられて然るべきホールの中心部、そこには幾つか必要な分だけ出されたテーブルが並んでいた。料理や酒などが並ぶテーブルの上、天井から『ブラッド・アークス歓迎』という垂れ幕が下がっている。

 一応は自分の歓迎会なのだという事は理解出来るが、唐突である事、そして何よりも人数が圧倒的に少ない事が妙に間の抜けた雰囲気を作り出してしまっている。


「人数の事なら申し訳ないけどこれで我慢してよ。何より急な話だし、それに今は何かと忙しい時期だからね」


 二人の間に割って入ったのはフィーナだった。小さな艦長に軽く頭を下げ、ブラッドは頷く。


「いえ、その事なら大丈夫ですよ。むしろこんな僕の為に歓迎会を開いてくれるだけでも嬉しいですから」


「うんうん、今日はブラッドの為に開いた歓迎会なんだからね〜。存分に楽しみ、そして感謝するといいよ」


 そう口にするフィーナではあったが、その場の誰もがこの歓迎会の裏に隠された意図に気づいていた。

 ここ最近、“例の事件”と手掛かりの見つからない追いかけっこが続き、特にこのメンバーはストレスが溜まっていた。こうして全員が揃う事も何かの機会ということで、“酒の肴”にブラッドも歓迎する事にしたのである。

 つまる所、別段そこまでブラッドを歓迎しているわけではないのだが、飲むのに理由が必要なので“そういうことになっている”だけである。しかしブラッドはそれに気づいて居ないのか、本当に嬉しそうに微笑んでいた。


「でもいいんですか? 皆忙しいのに、態々集まってもらって」


「あー、いいのいいの。パイロットの仕事が戦う事だけだとは言わないけど、貴重なフェイクスたちには我が家ユスティティアに居る間くらいは息抜きしてもらいたいじゃない。そういう艦長としての優しさがあるんだよ」


「ああ、成る程〜。でも、フィーナはいいんですか? 艦長なのにこんな所に居て」


「それも問題なし! 今頃優秀な部下が働いてるから」


 酒を呷りながら満足げに微笑むフィーナ。艦長がそうして幸せそうにしている影で必ず誰かが不幸を肩代わりしているのは言うまでもない。


「それでブラッド、丁度いい機会だし話いいかな?」


 フィーナの多少改まった様子にブラッドは小さく頷く。


「ブラッドがユスティティアに来て一週間、未だに君は何も思い出さないわけでしょ?」


「ええ、申し訳ないんですが」


「つまりブラッドは今帰る場所も判らないと。だったらさ、しばらく“コスモス”として私たちに協力してみない?」


 それはブラッドにとっては断る理由の無い提案だった。理由は単純に記憶を失っているから、である。ここに身を置かせてもらえるのならばそれが何よりも手っ取り早いと言えるだろう。

 “YES”しか返答は存在しない。ブラッドが直ぐに答え様としたその時、フィーナが続けて言葉を紡いだ。


「ただし、コスモス“見習い”って事で」


「……“見習い”、ですか?」


「うん。だってブラッドはコスモスの事も何も判ってないわけだし。記憶を取り戻せばブラッドにはブラッドの生活があるだろうしね。だから重要な事はブラッドには教えられないし、私たちも必要以上にはブラッドのプライベートには干渉しない」


 それがフィーナがこの一週間彼の様子を見ての判断であった。勿論未だにブラッド・アークスという人間の全てを判断できた訳ではない。だが少なくともブラッドは妙な事を行き成りしでかすような“馬鹿”ではない事は確かである。

 フィーナの考えもクリフと大まか同じであると言えた。ブラッドがどう動くにせよ、それはそれで何らかの進展がある。だがその間ブラッドにただ衣食住を提供している訳にも行かない。財政的に余裕がないわけではなく、ブラッドは貴重なフェイクスなのだから。


「ブラッドにはコスモスのフェイクスとして行動してもらう事になると思う。多大な貢献は望まないけど、一応居るからには最低限働いて貰いたいのね」


「それは勿論、僕の力で皆さんのお役に立てるのであれば」


「うん、そっかそっか! ブラッドは元々フェイクスだったんだし、アウラに乗ってれば何か思い出すかもしれないしね。とりあえずは今回の“事件”に一緒に対処してもらう事になると思うから、改めて宜しく!」


 フィーナが握手を求め、ブラッドはそれに答えた。必要以上に明るく、そして大きな声でフィーナが話をしていたのは周囲のメンバーにもそれが聞こえるようにとの配慮でもあった。

 周りのメンバーは特にブラッドに何か言う事は無かったが、それぞれが新しい“見習い”の存在を認識する。ブラッドは酒を口にし、それから苦笑を浮かべた。


「何だか至れり尽くせりという感じで……本当にありがとう、フィーナ」


「ただし忘れないでね。ブラッドは本当ならば営倉に入ってなきゃいけないような怪しい人物なんだから。行動には自制と規律、それから責任を持つようにね」


 小さな少女にしか見えないフィーナのそんな言葉にブラッドはまるで年上と話しているかのように錯覚する。尤もその“勘違い”は決して外れてはいないのだが。


「何か思い出した事があったら直ぐに報告する事。これは艦長命令だからね」


 釘を刺す一言と共にびしりとブラッドを指差すフィーナ。そんなフィーナの背後、酒を瓶ごと手にしたイリウムが身を乗り出す。


「……つーか、こいつに預けられるような機体がうちに余ってたか? まさか、IMアウラを与えるとか言い出さないよな?」


「いやいや、それは無理でしょ! 目玉が飛び出すくらいお金掛かるし、設計図から作るんだから時間もすごくかかるよ」


「手間は兎も角……金は別に……なあ?」


 そんな事をぶつぶつと呟いたイリウム。フィーナが呆れた様子でイリウムを見上げる。二人の間にある“金銭感覚のズレ”が浮き彫りになる。


「本人を目の前に言うのも可哀相だけど、ブラッド君を全面的に信用する事は出来ないわよね? 実力もまだ判らないんだし、予備のクラウルにでも乗ってもらうしかないんじゃないかしら」


 優紀の冷静な言葉にフィーナもイリウムも同時に頷いた。それから同時に酒を呷る二人の間をすり抜け優紀がブラッドの前に立つ。


「さっきはああ言ったけど、ブラッド君には期待してるわ」


「全面的に信用する事は出来なくとも、ですか?」


「“全面的”には無理でしょうね。でも“部分的”には出来るでしょう? それに一応でも仲間になった人だもの、“信じたい”のは当然でしょう?」


 そう語り、優紀はグラスを小さく掲げる。それにブラッドも応え、二人の持つガラスが小気味いい音を立てた。


「それにね、コスモスはお互いのプライベートには必要以上に干渉しないの。私たちに求められている物はフェイクスとしての戦闘能力……。作戦行動に支障を来たさなければ、相手の事が少しわかっていなくても問題はないわ」


 コスモスのメンバーには過去に様々な“戦う理由”を持つ者も居る。そうした事情にずかずかと踏み込むのは余り良くない事だ。

 理由、意義、理想――。求める物も追い掛ける物も、取り返そうとする物も全てが異なる。それでも彼らは皆“秩序コスモス”の旗の下に集ったのだ。“仲間”であるのならば、それ以上も以下も無い。


「勿論、フィーナは全員の事を把握しているんでしょうけどね。でも基本的に私たちはお互いの過去を無理に詮索したりはしないわ」


「それだけ艦長は信頼されているんですね」


 ある意味ブラッドの言う通り、フィーナ――コスモスへの信頼そのものがこの特殊な傭兵部隊を一つに繋ぎ合わせているとも言える。彼らは皆コスモスのエンブレムを信頼し、己の行動に、目的に、迷いを抱く事はない。

 勿論コスモスはフィーナ一人で動かしているわけではなく、そこには沢山の力が必要だ。しかし象徴として組織をきちんと纏め上げている以上、見た目がどうあれ彼女は指揮官としての役割を果たしていると言える。


「だから、フィーナには隠し事をしない事。判った?」


「ええ、肝に銘じておきますよ。僕も皆さんに信用してもらいたいですからね」


「“全面的”に?」


「“部分的”に、ですよ」


 そうして二人は小さく笑い合う。何となくその二人の様子に割り込めず、おずおずと引き返して行くフィーナとイリウム。二人としては真面目な話に割り込むのならば酒を飲んでいる方がいいという判断であった。

 それから暫くの間宴会は続き、やがてお開きとなった。しかし片付けを全員で終了させると同時に引き締まった雰囲気へと会場は一変する。


「それで、イリウムたちが持ち帰った情報についてなんだけど――」


 その話が後に待っている事に感づいていたのか、全員酷く酔っている様子は見られない。ブラッドとしてはそれが逆に信じられなかった。“あれで腹八分目”だというのか? 一人で唖然とする。


「結果から先に言うと、今回の事件にはやっぱりアウラが関わってる。テロそのものは阻止出来なかったけど、クレーターの周りをうろうろしていた不審なアウラとイリウムたちが戦闘してる」


 その謎のアウラはこちらを見つけると同時に攻撃を開始した。突然の戦闘、しかし優紀もイリウムも動じる事無く目標の撃墜に成功した。

 結果、そのアウラは無人機インフェリアである事が発覚。その機体を持ち帰り、現在何か手掛かりが無いかとデータを洗っている所である。


「ブラッド以外は皆もう知ってると思うけど、今回ので“七件目”になる今回の事件は“アウラ動力炉”を暴走させた爆破テロ。今の所手掛かりといえば、例の“無人機”と――それからブラッド、君だけ」


 ブラッドはどのように返事をするべきかわからず、戸惑った笑顔を浮かべた。


「テロリストの目標がはっきりと定まってない現状、今まで通り可能性のあるアウラの生産ラインを虱潰しに護衛するしかない。今は人手が兎に角足りない時期だから、ブラッドには直ぐにでも手伝ってもらいたいんだ。ブラッドにはとりあえず――予備のクラウルを預けるから、それで作戦に参加して」


「了解です」


「そうそう、ブラッドにはまだ、“コスモス”がどんな組織なのか教えて無かったね」


 まるで順序は逆である。しかしフィーナは今だからこそと改めて声を上げる。

 周囲のエースたちを見渡し、それから新たな仲間へと視線を向け。凛とした視線と、凛とした声で。


「我々“コスモス”は、独自の理念に基きあらゆる戦闘行為に介入する私立独立傭兵部隊――。誰かに依頼されるのではなく、自分たちが今世界の為に出来る事を考えて率先して行動する……。それが“コスモス”。私たちの戦いなの」


 フィーナの言葉にブラッドは笑顔を浮かべる。そうして小首を傾げ、


「つまりは――“正義の味方”、ですか」


 そう表現した。

 “正義の味方”……。勿論彼らは自分たちをそう呼ぶ程自惚れてなどは居ない。だがもしも、彼らが本当にそう呼ばれる存在であるのならば、それはどれだけ喜ばしい事か。


「――――改めて、“コスモス”へようこそ。ブラッド・アークス、君を“正義の味方”は歓迎するよ」


 冗談交じりのフィーナの笑顔。ブラッドはその小さな少女の手を握り締め、握手を交わした――。



〜緊急あとがきおまけ企画、“ザ・黒薔薇”が出来るまで〜


ブラッド「それは、神宮寺が貴志真先生に出会う前の物語――。というわけで、このあとがきコーナーを使ってこの企画がどうして発生したのか、そしてどんなやり取りを経て原稿が上がっているのかをこっそり解説していきますよ〜。知りたくない人は飛ばしてもらって、興味のある方だけご覧になっていただく方向で御願します」



 それは、神宮寺のある日の思いつきから始まった……。

 以前から知っていた『アウラ』を読んでいて、突然その外伝を書きたくなったのである。当時神宮寺は『虚幻のディアノイア』が終了した頃であり、暇を持て余していた。

 そして四月の頭、神宮寺は思い切って貴志真先生にメッセージを送ってみる事にしたのである。しかしこういうアプローチそのものが余り前例がないだけあり、神宮寺としては断られても仕方が無い、くらいに考えていた……。しかし!


貴志真「超余裕でオッケーですよ! アウラ最高――ッ!!」


 と、それくらいの勢いでの快諾を頂きました(実際そう言ったかは定かではない)。

 とりあえず僕も「アウラ最高――ッ!!」「FOOOOO!」という流れになり、この企画がスタートしたのであった……。



ブラッド「次回に続きますよ〜」

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うさぎ小屋目安箱
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