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ACT.3 Girl's innocence <3>


「パイロットはやはり何も話しませんか」


 フィーナは何も答えずに手元のルービックキューブを捻る。

 艦長であるフィーナの自室、見た目相応のファンシーな家具、雑貨が並ぶその部屋に繋がれた小型のモニターには牢獄の様子が映し出されている。

 両手両足を鎖で繋がれ、銀色の部屋の中、銀色のベッドの上にマリス・マリシャは横たわっていた。生きているのか死んでいるのかさえ不鮮明に見える程、彼女はもう長い間身動き一つ取ろうとして居ない。


「如何致しましょうか、艦長。どの様なお考えで?」


 ユスティティアの副艦長でもある男、カニスがフィーナに声をかける。フィーナは決してルービックキューブにのめりこんでいる訳ではない。ただ既に頭の中にある結論に対し、先延ばしにしたいという思惑がそこにはあった。

 何としても情報を掴まねばならない以上、やる事など決まっている。古今東西過去の歴史を掘り返しそしてこれから繰り返される未来でも、捕らえた敵兵に施す事など“お約束”だ。フィーナはそれが気に入らない。出来れば穏便に済ませたい……そう考えてしまう。

 フィーナは優れた指揮官であると同時に優秀な頭脳も併せ持つ。しかしその心にはどこか“甘さ”が残り、悪い想像を出来れば現実から遠ざけたいと願っている。


「とりあえずは例の機体の方を調べてみるよ。何か判ればそれでよし、駄目だったら……」


「……彼女に話してもらうしかないでしょうな。多少強引な手段になってしまうでしょうが」


 カチンと音を立ててルービックキューブが停止する。フィーナの小さな手の中、色を揃えられたカラフルな六面を眺めて溜息を漏らす。


「全く、大人しく喋っちゃえば悪いようにはしないのにさ。良く訓練されているというよりは、単純に頑固なんだろうね」


「そう言う物でしょうか」


「そうだよ、多分。カニスにはわかんないかもしれないけどさ」


 白髪をオールバックで固め、厳格な表情を微動だにさせないカニス。背後で手を組んだまま男が目を瞑り小さく笑みを浮かべるとフィーナはそれに釣られるように苦笑した。


「例の機体の調査、急がせてね」


「心得ていますとも」


 例の機体――。アザゼルは頭部と片腕を失い、今破損した箇所はビニールシートで覆われていた。格納庫の一角を占有する敵機を見上げブラッドは眉を潜める。

 アザゼル――。ブラッドはその名を思い出しつつあった。どこかで聞いた名前……。本音を言えば、マリスと言葉を交わした瞬間から、徐々に記憶は戻り始めている気がする。

 マリスは自分の過去を知る存在。そのマリスと接触し言葉を交わす事で記憶が呼び覚まされる可能性はゼロではない。しかしブラッドは思い悩んでいた。

 記憶を取り戻す事が果たして良い事なのだろうか? マリスというテロリスト紛いの行為を繰り返していた人間とどんな接点があり、何故あの戦場に自分は倒れていたのか。マリスに確認すれば一瞬で全ての謎は解けるかもしれない。しかしそうなれば最早自分の過去から目を背ける事も出来なくなる。

 どうすればいいのかは判っているのに身動きは取れない状態……。臆病風に吹かれてしまったかの様に、その両足は懸命に明日へ向かう事を拒絶している。


「“らしくない”、ね……」


 自分自身をそう称する。そう、今までブラッドは“らしく”振舞ってきた。ブラッド・アークスという人間で在り続ける為に。

 しかし今その“らしさ”が逆に滑稽に感じられている。鏡に映った自分を見て思うのだ。“これはブラッド・アークスではないのだ”と――。


「よお、ブラッド。何やってんだそんな所で」


「やあ、クリフ。例の機体を見ていたんだよ」


 背後からの声に振り返る。クリフはブラッドの隣に並び、破損したままのアザゼルを見上げて表情を険しくする。


「悔しいが、並の機体じゃねえな。単騎でここまでコスモスに食らいついたのはこいつくらいのもんじゃねえか?」


「……最後の戦い、彼女の動きは“意地”が成す感じだったね。技術とかそういう部分じゃなくて、もっとメンタルな所で押し返されていた気がするよ」


「そうだな……。“気合”で俺たちを相手にあれだけ渡り合ったってのは、言うのは簡単だが実際問題難しいぜ。腕だけは確か、なんだろうな」


 そこで二人の会話は途切れてしまう。二人とも考えているのはパイロットのマリスの事であった。


「素性は一切謎だし、流れの傭兵か何かかもしねえが……あれだけ頑なだと逆に立派なもんだ」


「まだ、何も話さないの?」


「ああ。お前……あいつの知り合いらしいな。って事は、お前も昔は傭兵か何かだったのか……。だとしたらこのままコスモス続けるってのもまあ、アリなんだろうけどよ」


 そう声をかけるクリフの声はいつに無く優しかった。ブラッドにとってそれは最高の申し出である。しかし何となく、それがそう上手く行くはずもないのだと二人とも理解していた。

 マリスの存在が、終わった連続爆発テロが、同時にブラッドのコスモスとしての時間に終止符を打ってしまったような、そんな奇妙な感覚……。クリフの申し出を受けブラッドは微笑みながら頷いた。


「そうしたら生活には困らないだろうね、きっと。普通に傭兵家業やるよりも、コスモスで働いた方がよっぽどいいよ」


「ここの給金は半端じゃないからな。特にフェイクスなら相当なもんだぜ。まあそんなに金あっても使う暇が無いのがアレなんだけどな」


「そしたら僕もIMアウラを何とかしようかなあ……。クラウルっていうのもまあ、愛着もあるし良いんだけどね」


「それで足引っ張られても困るからな。フィーナに相談してみたらどうだ? 実際お前の協力のお陰でこの機体を仕留められたんだしな。活躍は一応評価されてるだろうよ」


 クリフはこのまま、ブラッドがコスモスに残ってもいいのだと言った。しかしブラッドはそれを喜びつつどこか歯切れ悪い気持ちで返事をしている。

 気がかりな事は山ほどある。しかし今は何より、自分自身がここで何もせず止まっていてはならないのだと考えるのだ。それは心の奥底で記憶が叫んでいるから。やるべき事が、やるべき時が迫っているのだと。


「そういえば、アイリは?」


 ふと、気がかりの一つを口にする。クリフは長髪を揺らしながらそっぽを向き、無言で首を横に振った。

 アイリは三日前、アザゼルとの戦闘以来部屋に引き篭もってしまっていた。その理由がどこにあるのか……。三対一で挑んだ戦いで機体を破壊されてしまったショックなのか。或いは“機体そのもの”のショックなのか……。理由は仲間にも良く判らない。

 ただアイリの中で何らかの心境の変化があり、結果彼女は自分を見詰めなおす為に引き篭もっている……そんな風にブラッドは解釈していた。アイリならばきっと、時間を無駄にせずその変化とゆっくり向き合っていけるはずだと彼は信じている。それがいつの日になるかは判らない。それでも――人は変わっていけるのだから。

 今は少しだけ休むべき時なのかもしれない。自分自身と語り合う事も時には必要だ。そうする事で判る事も、そうしなければ進めない事もある。


「もう三日も引き篭もって……メシも食ってないんじゃないかと皆心配してんだよ。お前からも何とか言ってやってくれよ」


「それは構わないけど、部外者の僕の言葉なんかに彼女は心を動かされないと思うな」


「おいおい、部外者って言い方はねえだろ。お前も一応コスモスの一員なんだ、発言には責任を持てよ」


 片目を瞑って溜息混じりに語るクリフ。その台詞と言い方が何だか以前優紀の言っていた物に良く似ていてブラッドは思わず笑ってしまった。


「おい、何笑ってやがる」


「いやいや、君達やっぱり実はすごく中がいいでしょ」


「何の話だ……?」


「こっちの話。とりあえずアイリの所に顔を出してみるよ。ドアを開けてくれるかどうかは保障しかねるけれど」


 ブラッドはそう告げてクリフに背を向けて歩き出す。格納庫を去る間際、ふと視線をプロセルピナへと向ける。そこにはアザゼル同様修理が間に合わず傷ついたままで眠る彼女の愛機の姿があった。

 傷は簡単には癒えず、消し去る事は出来ない。それを塞ぐのも新しく挿げ替えるのも難しく、だから人はその度に痛みを感じる。彼女に愛され、彼女を愛し続けるアウラは痛みを感じるのだろうか? ふと、そんな不毛な思考に支配されるのであった。



ACT.3 Girl's innocence <3>



 アイリの部屋の扉の前に立ち、ブラッドは一人で立ち尽くしていた。

 クリフにはああ言った物の、どんな言葉を投げかければいいのかはまだ判らない。正直な気持ちを言えば、自分に出来る事など何も無いのだとブラッドは考えていた。

 扉に背を預け、目を瞑るブラッド。今アイリはどんな顔をしているのだろう。泣いているのだろうか? それとも表情は変わらぬまま?

 心が涙を流すのならば瞳もまた涙を流すべきなのだ。心と体、それがばらばらになってしまう前に、二つの行いを一つにしなければならない。

 それは判っている。判ってるし、伝えたい。しかし今自分がそこまでアイリに関わるだけの人間なのかどうか、それが判らない。

 結局アイリには何一つ声をかける事も無く立ち去って行く。帰る場所も無く、ただ行き場を失いうろうろとユスティティアの中を彷徨った。

 ブラッドが辿り着いたのはフィーナの部屋だった。両手をポケットに突っ込んだままそこで暫くぼんやりとし、それからドアをノックする。


『はーい、どうぞ』


 フィーナの了承を得て部屋の扉を潜る。扉の上にはジェンガが詰まれ、フィーナは一人でそれを慎重に引き抜いている。


「どうしたの、ブラッド?」


「いえ、特に用事は無いんですけどね……。彼女の様子はどうですか?」


「んー、お察しの通り反応無し……」


 溜息混じりにそう答えるフィーナの心境は若干うんざりしていた。アザゼルの解析が進めば事は済むのかもしれないが、あの機体には特殊なAIが組み込まれていて容易には中身を覗き込む事が出来ない。

 むしろAI、“シェムハザ”は戦闘サポートよりもそうした機密防衛に能力を割いているのだ。機体の中身を曝け出すのにはまだ時間がかかってしまう。

 フィーナが一人でジェンガを崩しているとブラッドが机の正面に立ち、積まれたピースを一つ引き抜いてみせる。グラリと揺れて、それから搭の揺れはゆっくりと収まっていく。


「フィーナ、彼女と話をさせてくれないかな」


「……まあ、そう言い出す気はしてたよ。お知り合い、なんでしょ?」


「僕にだったら彼女も心を開いてくれるかも知れない。いくらテロリストだからって、もう悪い事をしないって誓えばコスモスは彼女を殺したりはしないだろう?」


「そりゃまあ、そうなれば一番だけどさ。あの機体をほうっておくわけには行かないし……どちらにせよカギハラはどうにかするから、彼女に帰るべき場所は無くなるんだけどね」


 そう語るフィーナはどこか気まずそうだった。ブラッドはそんなフィーナの肩を叩きにっこりと微笑みかける。


「とりあえず、説得してみるから」


 ブラッドの真っ直ぐな視線に圧され、フィーナはしぶしぶそれを了解した。小さな机の上のモニターとヘッドセットに向かい、ブラッドは牢獄に声をかける。


「聞こえるかい? ブラッド・アークスだ。君と話がしたいんだけど」


 すると今まで誰が声をかけても無反応だったマリスがゆっくりと顔を上げたではないか。フィーナはブラッドの隣に立ち、真剣な表情でモニターを覗き込む。


「コスモスが欲しいのはカギハラの居場所とあの機体の情報だけだ。君がもしもあの機体と無関係だというのなら、君には危害を加えない」


 しかしマリスはベッドの上に腰掛け、ただ監視カメラを睨みつけるだけである。答える様子のないマリスにフィーナがマイクを代わる。


「君の知り合いのブラッド君もコスモスに置いてるんだよ。ブラッドは物凄く胡散臭いけど、今はこうしてコスモスの一員としてやってるんだし――」


『…………A243』


「えっ?」


『A2436123688464573638575421003609』


「え、ちょ……? 急にどうしちゃったの、彼女……?」


「さ、さあ……?」


 マリスは暗号文とも受け取れる数字の羅列を只管に呪文のように呟き続けている。その言葉ははっきりとカメラの向こうの二人に向けられていた。

 そうしてしばらく呪文を聞いていたフィーナであったが、それが全く意味不明の羅列である事に気づき映像の音声をオフにする。


「あーもう、意味不明……。録音はしてるし、後で検証してみよっか――」


 その時、机の上に高い塔を組んでいたジェンガが音を立てて盛大に崩れ落ちた。

 ピースは崩れ、幾つかは机の下に落ちてしまう。原因はブラッドの手がジェンガに当たっていたから。彼もそれを意図していなかったのか、崩れたジェンガに呆気に取られている。


「ちょっとブラッド〜……気をつけてよね、もう」


 フィーナのやさぐれた口調にもブラッドは答えない。目を丸くしたまま、呆然とそこに立ち尽くしていた。


「ブラッド? ちょっと、ブラッド〜? おーい、片付けろ〜」


「……あ、うん。ごめんごめん、ちょっとボーっとしてた」


 苦笑を浮かべブラッドは散らばったジェンガを拾い上げる。しかしそれが再び搭の形を成す事はなかった。

 ケースの中にジェンガを収めたブラッドの表情は明るくない。どこか顔色の悪い様子のブラッドを心配し、フィーナが顔を近づける。


「……フィーナ、僕は……」


「何? おなかでも壊したの?」


「……かもしれない。ちょっとトイレに行ってくるよ」


 そうしてブラッドは肩を落としたままフィーナの部屋を去っていく。残されたフィーナは怪訝そうに首を傾げ、それからモニターの中を覗き込んだ。

 音声をオフにされた映像の中、マリスはまだカメラを見詰めていた。その口元がゆっくりと微笑を浮かべる様子に訳も無く不安を掻き立てられる。


「気のせい……だよね」


 悪い予感は当たらなければいいのに。フィーナはいつでもそう願っている――。



「そうか……。“アイラ・イテューナ”……そういう事だったのか」


 フィーナの部屋を出たブラッドは通路を歩きながら一人そんな言葉を漏らした。

 彼の頭の中には一瞬で全ての記憶が蘇っていた。“何故”? それさえも疑問には思わない。その理由の全て、ブラッドは思い出したのだから。

 青年は溜息を漏らして顔を上げる。やらねばならない事が山のように積もっていた。記憶を失った自分は……どうやら“殆ど仕事をしていなかった”らしい。


「とりあえずは、“アザゼル”の方から……かな」


 歩くペースを速め、ブラッドは格納庫に戻っていく。そこではアザゼルの解析作業が進められていた。作業に取り掛かっていた技師たちを退け、自分が解析に参加して見ると言い出した。

 フェイクスとしての観点からアザゼルを見る事が出来るから……理由は適当にでっちあげる。ブラッドはそうした“その場を適当にやり過ごす”事について非常に高い能力を持っていた。

 正に“口八丁”。あっさりと技師を退けアザゼルのコックピットに座るブラッド。同時に一度ハッチを閉じ、小さな声で囁く。


「久しぶり、“シェムハザ”」


『おはようございます、ブラッド・アークス。現在の状況を確認しますか?』


「いや、把握しているよ。君に少し手伝ってもらいたい事があるんだけど……構わないかな?」


『なんなりと』


「ユスティティアのデータベースにハッキングをかける。遠隔操作で君に指示を飛ばすから、周波数をあわせておいてくれ。それからアザゼルのデータを徐々に解放してコスモス側に流して欲しい」


『宜しいのですか?』


「作業が進展しないと君のご主人様が何をされるか判らないからね。誠には僕の方から上手く言っておく」


『了解。作業を開始します』


「いい子だ」


 ブラッドはそうしてハッチを開き、アザゼルのデータを手土産に技師たちの所まで降りる。彼らが慌ててアザゼルの解析作業に戻っていく中、ブラッドは小型の端末を広げてキイを叩いていた。



 マリス・マリシャは牢獄の中、硬いベッドの上に横たわって天井を見上げていた。綺麗に磨かれて光を反射する銀色の板には自分の惨めな姿が映りこんでいる。

 思い返すのは自分がコスモスに敗北したという事実だった。額に巻かれた包帯は敵からの情け、しかし今の惨めな自分を象徴するに相応しい。

 アザゼルの能力は最強と呼ぶには程遠い。ただのイモータルアウラである以上、同じくイモータルを駆るコスモス相手に敗北するのは仕方が無い事とも思える。しかし、仕方が無いなどという言葉でそれを済ませる事は出来なかった。

 アザゼル内部には“彼女の所属する組織”の情報も混じっているかもしれない。マリスはアザゼルの内側に干渉しないただのテストパイロットではあったが、その可能性を考えると居ても経っても居られなかった。

 自分が死んでそれで全てが上手く行くのならばとっくに自殺を試みている。しかし自分が死んでもアザゼルがコスモスに渡ってしまったのでは意味がない。それではただの“責任逃れ”――。お笑い話にもなりはしない。

 故に今の自分に出来る事は可及的速やかにアザゼルを破壊し、同時に自分も死ぬ事なのだろう。だがしかし今のマリスには自ら死を選択する事も、自らのアウラを破壊する事もままならない。

 それは“最後の手段”であった。勿論、最終的にこうなる可能性は最初から考慮されていた。“予定調和”の内――そういってしまえば確かにそれまでだろう。

 だが、出来れば最後までこの結末を選ぶ事は無ければよかった。“無いに越した事は無い”のだ。それはジルの計画を遅延させる可能性も孕んでいる。

 それでも実行する事に、マリスは身を裂かれる程の苦痛を感じていた。プライドがズタズタに引き裂かれ、今すぐ死んでしまいたい程の悲しみに駆られる。

 最悪なのだ。あの男に――“ブラッド・アークス”に頼るような方法など。最低最悪――今後の人生で最も忌むべき記憶となる――。

 突然、牢獄の扉のロックが外れた。マリスは身体を起こし、その扉の方を見詰める。ゆっくりと開いた扉の向こう、拳銃を片手に立つブラッド・アークスの姿があった。

 ブラッドは扉を潜った直後、拳銃をマリスに向けて引き金を引く。銃声は二発――。銃弾はマリスの手足を繋ぐ鎖に命中し、それを弾き砕いていた。


「お怪我はありませんか、姫?」


「戯れるな……! 今は時間が無い。何故こっちに来た!? アザゼルは破壊出来たのか?」


「アザゼルは破壊しないよ。それに君も無事に連れ帰る。それが僕の判断だ」


「何だと……!? 話が違うっ!」


「僕の判断に従う事……最終的には僕の“きまぐれ”で動く権利があるんだ。そもそも命令なんてみんな一々覚えてないでしょ? “シュペルビア”はさ」


 言い返そうとするマリスの手首を掴み、ブラッドは笑顔で駆け出す。その手を振り払い、マリスは自らの意思で走り出した。

 ユスティティアの館内に緊急事態を知らせるアラートが鳴り響く。けたたましく鳴り響くその音に部屋の中に閉じこもっていたアイリはゆっくりと顔を上げた……。


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